
ソニーグループが、2026年から統合報告書の発行を取りやめるというニュースがサステナビリティ界隈で波紋を広げている。同社は2019年から毎年統合報告書を発行し、2026年のGPIF の国内株式運用機関が選ぶ 「マテリアリティの観点から『優れたサステナビリティ開示』と同『改善度の高いサステナビリティ開示』」では6機関から高い評価を得るなど、情報開示のトップランナーとして知られていた。
今後は統合報告書に代わり、ウェブサイトのサステナビリティ関連ページなどで財務・非財務の情報を随時更新し、発信を強化していくという。
統合報告書を発行する企業は年々増加しており、2025年版の発行企業数は前年比64社増の1214社に上る。そんな統合報告書ブームの最中、なぜソニーはあえて逆行するような決断を下したのか。
その背景には、企業が抱える切実なコスト問題と、情報開示のあり方を巡るジレンマが隠されている。
「実は読まれていない」…担当者が明かす数千万円のコスト
今回のソニーの決断の裏には、統合報告書という媒体が抱える負担が見え隠れする。サステナビリティ・コンサルタントとして著名な安藤光展さんはSNS上で、「『統合報告書、実は誰も読んでない問題(AIには読ませてる)』は何年も前から話題になっていた」と指摘している。
情報検索の容易さやリアルタイム性という点では、ウェブサイトでの随時更新の方がはるかに効率的だ。さらに現場からは、作成にかかる莫大なコストへの本音が漏れる。ある企業のサステナビリティ担当者はこう明かす。
「統合報告書を発刊するには、日本語版・英語版をつくって1000万円程度かかります。安く済ませるなら数百万ですが、きちんとした制作会社に依頼し、企画やコンサル的要素も加味すれば1000万~数千万円まで膨らむ。そのうえで、年収1000万円クラスのサステナ担当社員が数名がかりで対応します。
利益を生み出すプロフィットセンターではなく、コストセンターにこれだけの金をかけるのは、みんなどこかでやめたがっているのが本音です。ソニーの動きを見て、他にも辞める会社が出てくるかもしれません」
分厚い冊子を隅から隅まで熟読する人は少なく、ソニーの開示の全体最適を求めた結果が、今回の廃止につながったと言えるだろう。
「エクイティストーリーが見えなくなる」投資家側の戸惑い
一方で、このウェブサイトへの移行には懸念の声も上がっている。断片的なウェブ上の情報だけでは、「企業の企業価値向上のストーリー、流れ、主張がわかりにくい」「変化、推移がわかりにくい」といった、デザインやブランディング観点からの危惧もSNSでは指摘されている。
情報を読み解く投資家サイドからも、戸惑いの声が聞こえてくる。ある投資家はこう語る。
「会社のエクイティストーリー(企業が中長期的な成長シナリオを投資家に示すためのストーリー)をどう伝えるかについて、コーポレートサイトの構造だけでは全体の流れがつかめず難しいなと感じます。投資家としては、一つのレポートとしてまとまっている方が情報としてはわかりやすいのが正直なところです」
統合報告書には、企業の長期ビジョンをゴールとした価値創造ストーリーを、ESGと分類して一つのパッケージとして説得力を持って伝える力があった。それが失われることによるコミュニケーションの分断を危惧する声は根強い。
他社はどう動く? 横並びの追随と戦略的棲み分けの二極化へ
ソニーという日本を代表するような企業が統合報告書廃止の先陣を切ったことで、この波は他社へどう広がっていくのだろうか。
まず考えられるのは、横並びで作っていた企業群の追随だ。「ソニーがやめたのだから」と、コスト削減を名目に廃止に踏み切る企業は間違いなく出てくるだろう。特に、他社のフォーマットを模倣しただけで中身の伴わない「なんちゃって統合報告書」を発行していた企業にとっては、格好の言い訳になるはずだ。
ただ、ソニーはサステナビリティ界隈に於いて、
しかし、すべてがウェブに移行するわけではない。情報の「リアルタイム性・網羅性」を担保するウェブサイトと、企業の「思想・ストーリー」をじっくり読ませる年次レポートの役割を明確に分け、両者を連動させる企業も増えてくるだろう。
ソニーの決断は、日本企業に対して「何のために、誰に向けて、どう情報を開示するのか」という根本的な問いを突きつけた。自社にとって最適な情報開示のあり方を模索する、各社の新たな試行錯誤が始まろうとしている。



