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保険のかかりつけから、美容医療まで。いなばクリニックが築く地域医療の入り口

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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いなばクリニック 稲葉 岳也 院長
いなばクリニック 稲葉 岳也 院長(撮影:加藤 俊、以下同)

クリニックを開くとき、多くの医師は専門を一つに絞り込む。耳鼻科なら耳鼻科、皮膚科なら皮膚科と、看板を明確にするほうが患者にも伝わりやすいとされる。

だが、横浜市港南区のいなばクリニックは、その定石とは逆の道を選んできた。体の不調も、肌や見た目の悩みも、まず一つの入り口で受け止め、その人に見合う手立てへと振り分ける。専門性を一つの科に閉じ込めるのでも、規模を広げるのでもなく、地域の最初の窓口に徹するという選び方である。

 

専門を一つに絞るのが定石の世界で、間口を広げる

開業医の世界では、診療科を一つに絞り、その領域に専念することが一つの定石とされてきた。看板を明確にするほうが、患者にとっても何を診てもらえる場所かが分かりやすく、医師にとっても強みを打ち出しやすい。

いなばクリニックの稲葉岳也院長は、耳鼻咽喉科の専門医として研鑽を積んだうえで、そこにとどまらず間口を広げる道をとってきた。耳鼻咽喉科を軸に据えながら、皮膚科や内科、アレルギー科などを併せ持ち、さらに保険診療の枠を越えて、美容皮膚科やレーザー治療といった自費の領域まで一つの場所に抱える。専門を手放すのではなく、専門を持ちながら受け止める幅を広げる構えである。

なぜこれほど間口を広げるのか。その根には、病気は診療科ごとにきれいに分かれてはくれない、という稲葉院長の見方がある。

いなばクリニック 稲葉 岳也 院長

稲葉院長
「診療科というのは、これまでどうしても縦割りでした。耳鼻科、皮膚科と分かれていて、その区切りのなかで治療が完結してしまう。でも実際の病気は、そんなふうにきれいに分かれてはくれません。アレルギー疾患にしても炎症にしても、いくつもの科にまたがって、横並びに現れるものなのです」

たとえばアレルギーは、鼻の症状として出ることもあれば、肌のかゆみや荒れとなって表れることもある。もとをたどれば一つの体の反応が、診療科の境界をまたいで別々の症状として現れる。だとすれば、科を一つに絞るより、ある程度の幅を持って網羅しておくほうが、その人の体を全体として捉えられる。

複数の科を併せ持つのは、扱える症状の数を増やして見せるためではない。どんな不調を抱えた人が訪れても、まずはここで受け止められるようにしておく。そのための構えとして、間口を広く取ってきた。一つの科を深く掘り下げる構えに対して、いなばクリニックの多科併設は、その専門性を保ちながら、訪れる人を選ばずにまず受け止める構えだといえる。そして、まず受け止めることに意味があるのは、受け止めたあとに、その人に見合う手立てを実際に出せるからにほかならない。

 

受けたうえで、保険から自費まで選択肢を出す

入り口を広げて受け止めても、それに応える手立てがなければ、振り分けは絵に描いた餅になる。いなばクリニックの特徴は、受け止めた不調に対して、保険診療の枠にとどまらず、自費の美容医療まで地続きに選択肢を差し出せるところにある。

いなばクリニック
幅広い症状に対応するため、多くの機器を導入している

そのことが最もはっきり表れているのが、レーザーや光治療の機器の多さである。院内には20台あまりの機器が並ぶ。多くの科を併せ持ち、幅広い症状を診ようとすれば、それぞれに応じた機器が必要になる。一つの症状に一つの機器ということも多く、網羅しようとすれば台数は自然に増えていく。二つの建物をあわせて100坪ほどという広さが、その集積を物理的に支えてきた。

なかには、希少な機器もある。たとえばエクセルV+と呼ばれるレーザー機器は、シミなどの色の悩みにも、赤ら顔や毛細血管の拡張といった血管の症状にも対応できる。国内でも導入している施設は多くなく、この機器を目当てに、地域の外から足を運ぶ人もいるという。横浜の中心部から少し離れた立地でありながら、特定の機器を求めて遠方から来院があるのは、揃えてきた選択肢の幅が、商圏を越えて人を呼んでいるからだ。

稲葉院長は、この自費の領域にこそ力を入れてきた。

稲葉
「美容皮膚科で扱う幅広い症状に、ここで対応できるようにしてきました。患者さんの希望をうかがいながら、その方に合った方法を一緒に考えていく。そういった方針で診療を続けています」

注目したいのは、この自費の選択肢が、保険診療と切り離されずに並んでいることだ。多くの患者は、まず風邪やアレルギー、肌の不調といった保険診療で訪れる。その延長線上に、希望すれば美容医療の選択肢が地続きで用意されている。保険で肌の土台を整えてから、必要に応じて自費の治療へ進む、という流れも自然につくれる。こうして保険診療と自費の美容を一つの場所に併せ持つ形は、いまでこそ珍しくないが、開院した2004年当時はまだ一般的ではなかった。早くからこの併設に踏み出していたことが、20年をかけて地続きの信頼を育ててきた。

美容医療を受け止める社会の空気も、この間に大きく変わった。開院当初は「シミは取れるのか」「脱毛はできるのか」と尋ねられるところからの出発だったが、いまでは男性が脱毛に通うことも、高齢の人がシミの治療を受けることも、珍しくなくなった。普段から通っている場所だからこそ、美容の相談へも一歩を踏み出しやすい。保険というかかりつけの信頼の上に、自費の選択肢が違和感なく乗っている。これが、いなばクリニックが受け止めた患者に差し出せる手立ての幅である。

いなばクリニック 処置室の様子
処置室の様子
 

できることはやり、できないことはつなぐ

何でもまず受け止める。その構えは、何でも自院で抱え込むこととは違う。むしろ、いなばクリニックの振り分けは、受けたものを自院でやることと、ほかへ託すこととを、はっきり分けるところに要点がある。

院内の機器や複数の科で対応できることは、ここで完結させる。一方で、より専門的な検査や治療が必要だと判断した場合には、それにふさわしい医療機関へ確実につなぐ。胃カメラやCT、MRIといった一部の検査をはじめ、自院での対応が難しいものについては抱え込まず、その患者に適した医療機関へ責任をもって紹介する。受け止める間口の広さと、託す先を見極める線引きは、いなばクリニックのなかで一続きになっている。

稲葉院長は、自らの役割を地域医療のゲートキーパーになぞらえる。体に何か気がかりを感じたとき、まずは気軽に相談できる入り口であり、そのうえで、ここでできることはここで、専門的な対応が要るものは適した場所へと案内する。多くの科を併せ持ち、幅広く受け止められるからこそ、この入り口としての役割を果たすことができる。

入り口の広さは、診療科の数だけの話ではない。クリニックのすぐ近くには障害のある方が居る福祉施設が複数あり、車椅子で訪れる方や、介助を受けながら通う方も少なくない。そうした人たちが、ほかの医療機関では受診をためらいがちな場面もあるなかで、いなばクリニックは、誰にとっても入りやすい場所であろうとしてきた。症状を選ばないだけでなく、訪れる人を選ばない。地域の入り口として受け止める間口は、その両方に向けて開かれている。

振り分けは、自院で診るか他院へ送るかという選択だけではない。同じ院内でも、患者一人ひとりへの関わり方を見極めている。稲葉院長は最初の問診で、その人が何をどこまで望んでいるのかを丁寧にうかがう。早く薬を受け取って帰りたい人にはそのニーズに応え、じっくり相談しながら診てほしい人には、納得がいくまで時間をかける。求めるものは一人ひとり違うという前提に立って、関わり方の濃淡そのものを調整している。

そして近年、この振り分けの精度を保つために、稼働そのものをあえて落とす方向へ舵を切っている。

いなばクリニック 稲葉 岳也 院長

稲葉
「働き方改革ということもあって、休診日を増やし、診療時間も短くしてきました。あえて稼働を落として、無駄を省き、一日にしかできないことに絞って集中する。そういう形にシフトしています」

数を多くこなすことから、一つひとつを的確かつ丁寧に扱うことへ。診療時間を欲張らずに絞ることで、スタッフにも余力が生まれ、訪れた人を受け止め、見合う手立てへ振り分けるという本来の機能に、丁寧に向き合えるようになる。間口を広げることと、稼働を絞ることは、一見すると逆を向いているようでいて、的確な振り分けという一点で結ばれている。

専門特化でも、規模拡大でもない。専門性を保ちながら間口を広げ、保険から自費まで選択肢を差し出し、一人ひとりに合わせて関わり方の濃淡を変え、自院で対応できないことは適した医療機関へ確実に橋渡しする。そして、その振り分けを丁寧に続けられるよう、あえて稼働を抑える。いなばクリニックが20年あまりかけて辿り着いたのは、地域で人が最初に頼る入り口を、どう設計するかという問いへの一つの答えだった。

いなばクリニック ウィズマインド
▲クリックすると、稲葉先生のインタビューの完全版を読むことができます▲

耳鼻咽喉科の専門医として研鑽を積みながら、診療科の縦割りを越えて鼻も肌も一人の体として診る。その診療思想に至るまでの歩みや、医療用レーザーとの出会い、美容医療への向き合い方については、医療系メディア『ウィズマインド』の特集記事をご覧ください。
特集記事『鼻の不調も、肌の悩みも、一人の体として。「地域医療のゲートキーパー」いなばクリニックの挑戦』

※ウィズマインドは、あなたの悩みに寄り添った美容クリニック・医療機関を発見するために、医師・スタッフの「想い」をお届けするメディアです。

【クリニック情報】
いなばクリニック
院長:稲葉 岳也(いなば たけや)
所在地:〒233-0004 神奈川県横浜市港南区港南中央通13-24
URL:https://www.inabaclinic.jp/
2004年開院。耳鼻咽喉科・皮膚科・美容皮膚科・形成外科・美容外科・アレルギー科・内科などを一つの場所に併せ持つ。アレルギー疾患の総合的な診療と、レーザー・光治療による皮膚科・美容皮膚科領域の治療を二つの柱とし、乳児から高齢者まで幅広い世代が受診している。保険診療を地域のかかりつけとして続けながら、自費の美容医療まで地続きに選択肢を示せることが特徴。地域の一次窓口としての役割を担っている。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。 連載:日経MJ・日本経済新聞電子版『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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