
Threadsで「息子の借りてくる本が心配」と投稿した写真が物議。図書館司書から「読書履歴は思想信条に関わる個人情報」と指摘が相次いだ。図書館の自由に関する宣言や貸し出しカード廃止の背景を解説する。
なぜ「借りた本」をSNSに載せてはいけないのか Threads投稿で注目された「図書館の自由」
Threadsで、あるユーザーが
「息子の借りてくる本 (息子が)どこに向かってるのかマジ心配になる…」
と投稿したことが、大きな議論を呼んでいる。
添付された写真には、『BC級戦犯裁判』『死刑について』『魔女狩り』『ナチ強制・絶滅収容所』など、戦争や司法制度、歴史をテーマにした書籍が並んでいた。
投稿者は「息子がどんなことに興味を持っているのか心配」という趣旨だったとみられるが、コメント欄では本の内容ではなく、「借りた本をSNSで公開したこと」そのものに対して、多くの指摘が寄せられた。
「読書履歴」は思想・信条に関わる個人情報
最も多く寄せられたのが、図書館関係者や元司書からの声だった。
「借りる本は個人の思想や信条に関係する、とてもデリケートな個人情報です」
「元図書館司書です。図書館で何を借りたかという読書履歴は、思想信条や知る権利に関わる個人情報です」
「息子さんが了承していたとしても、SNSへの投稿は控えたほうがよいと思います」
この投稿には多くの共感が集まり、
「そんなに重要な個人情報だったとは知らなかった」
という驚きの声も少なくなかった。
「図書館の自由に関する宣言」にも明記されている
実際、日本図書館協会が定める「図書館の自由に関する宣言」には、以下のように、利用者の秘密について明確に記されている。
第3 図書館は利用者の秘密を守る
1.読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
例外は、憲法第35条に基づく令状がある場合など、ごく限られたケースのみ。
つまり図書館は、「誰がどんな本を借りたのか」を守ること自体を重要な使命としているのである。
なぜ読書履歴はそこまで守られるのか
一見すると、「借りた本くらい公開してもいいのでは」と思う人もいるかもしれない。
しかし、読書履歴からは、
- 政治思想
- 宗教観
- 健康状態
- 家庭環境
- 悩みや人生の課題
など、その人のきわめてプライベートな情報が推測できる場合がある。
例えば、精神疾患やDV、宗教、性、犯罪、差別などについて調べたいと思ったとき、「誰かに知られるかもしれない」と感じれば、安心して本を借りることはできない。
だからこそ図書館は、「何を読むか」だけでなく、「何を借りたか」という事実そのものを守っているのである。
学校の「図書貸し出しカード」も減少傾向 ジブリ『耳をすませば』の胸キュン出会いも消滅
かつて多くの学校図書館には、本の裏表紙に「貸し出しカード」が入っており、誰がいつ借りたのかを次の利用者も見ることができた。
しかし現在では、この貸し出しカードを廃止する学校が増えている。
背景には図書システムのデジタル化だけでなく、個人情報保護やプライバシーへの配慮がある。
「誰がどんな本を読んだか」は、できる限り他人から見えないようにするという考え方が広がっているためだ。
貸し出しカードを出会いのきっかけとして描かれているのが、ジブリ映画の『耳をすませば』である。
主人公の月島雫が借りた複数の本のすべての貸し出しカードに「天沢聖司」という少年の名前が書いてあり、まだ見ぬ彼を意識をすることから物語が動き出す。
このきっかけが無くなることで、現代ではこの物語は始まることはないので少し寂しい気持ちにもなる。
しかし『耳をすませば』はあくまでその時代に沿った創作であり、個人情報保護の流れには逆らえないだろう。
「戦争の本を読むこと」と「公開すること」は別問題
今回のThreads投稿では、
「歴史に興味を持つのは悪いことではない」
「戦争や死刑制度について学ぶことはむしろ大切」
という意見も多く寄せられた。
実際、並んでいた本はいずれも学校教育や歴史学習でも扱われるテーマであり、それ自体を問題視する声は少数だった。
一方、多くの人が共通して指摘していたのは、「何を読んだか」を本人以外がSNSで公開したことだった。
SNS時代だからこそ知っておきたい「読書のプライバシー」
家族の日常をSNSへ投稿することは珍しくない時代になった。
しかし、「読書履歴」は趣味の記録ではなく、その人の価値観や人生の関心が映し出される可能性のある情報でもある。
図書館が長年守り続けてきた「利用者の秘密」は、単なる個人情報保護ではない。
誰もが周囲の目を気にすることなく、本を読み、学び、考えられる社会を守るための理念なのである。
今回のThreadsでの議論は、「借りた本」は本人のものであり、読書履歴そのものも尊重されるべきプライバシーであることを、多くの人が改めて考えるきっかけとなった。



