
点検を装って高齢者宅に上がり込み、認知症の女性(当時80)にトイレの改装工事などを次々と契約させ、現金約2000万円をだまし取った疑い――。埼玉県警は、リフォーム会社「NEXT HOME」(ネクストホーム)代表取締役の望月優矢容疑者(30)ら4人を逮捕した。同社は約3年間で1都4県の約900人から約10億円を売り上げたとみられ、いわゆる「点検商法」を組織的に繰り返していた疑いがある。捜査で明らかになったのは、認知機能の低下した高齢者を狙う冷酷な手口だった。
「激アツ」「ド当たり」――標的にされた認知症高齢者
報道によると、望月容疑者らは2024年、千葉県松戸市に住む認知症の女性(当時80)が心神耗弱の状態であることに乗じ、トイレの改装工事など計6回の工事を契約させ、約5カ月にわたり代金を入金させた疑いが持たれている。手口は典型的な点検商法だ。主に集合住宅を狙い、「点検」の名目で住宅の配管を確認するふりをして、あらかじめ用意した水で配管付近を濡らし、水漏れが起きているかのように見せかけて契約を迫っていたという。
悪質なのは、標的の選び方である。日本テレビの報道によれば、望月容疑者らは点検を装って物色する際、認知症などで認知機能が低下しているとみられる住人を見つけると、「激アツ」「ド当たり」などとアプリで仲間内に共有していたという。判断能力の衰えた人ほど「良い客」として扱う――高齢者の弱さそのものを収益源にするビジネスモデルだったことになる。
なくならない点検商法
点検商法による高齢者被害は、決して新しい問題ではない。2005年に社会問題化した悪質リフォーム事件以来、国民生活センターや自治体は繰り返し注意喚起を続けてきたが、被害は形を変えて続いている。背景には、独居や夫婦のみで暮らす高齢世帯の増加がある。「無料点検に来た」という訪問を断れず、「水漏れしている」「このままでは家が傷む」という不安を煽られれば、判断能力が低下した高齢者が抗うのは難しい。
法制度の面では、判断能力の不十分な人に乗じた契約は準詐欺罪や消費者契約法上の取消しの対象となり得る上、訪問販売にはクーリングオフ制度もある。しかし、認知症の本人は「契約したこと自体を覚えていない」ことも多く、被害の発覚は家族が通帳の異変に気づいたときにはすでに手遅れ、というケースが後を絶たない。今回も約900人・10億円という規模に膨らむまで、組織的な摘発には至らなかった。
「家族の通帳チェック」が最後の防波堤
この種の被害から高齢の親を守る現実的な手立ては、残念ながら地味なものしかない。定期的な通帳・カード明細の確認、訪問販売お断りステッカーや録画付きインターホンの設置、そして地域包括支援センターや成年後見制度・日常生活自立支援事業など、金銭管理を支える公的な仕組みへの早めの相談である。
超高齢社会の日本では、認知症の人が保有する金融資産は今後も増え続ける。それは悪質業者から見れば「市場」が拡大し続けるということでもある。取り締まりの強化とあわせて、高齢者の財産を社会でどう守るかという制度設計が、ますます重要になっている。



