
円谷プロダクションは5月21日、ウルトラマンシリーズの日本国外利用権をめぐる訴訟で、東京地方裁判所が5月14日、同社側の主張を全面的に認める判決を言い渡したと発表した。対象となったのは、タイのチャイヨー・プロダクション側に由来する権利主張である。長年争点となってきた1976年3月4日付とされる契約書について、円谷プロは一貫して真正性を争ってきた。今回の判決により、日本国外における正当な利用権の帰属について、あらためて同社の立場が認められた。
争点は「1976年契約書」 初期ウルトラマン作品の海外利用権をめぐる争い
紛争の中心にあったのは、1976年3月4日付とされる契約書である。チャイヨー側は、この契約書を根拠に『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』『ウルトラマンA』『ウルトラマンタロウ』など、初期ウルトラマン作品の日本国外利用権を持つと主張してきた。
チャイヨー・プロダクションは、タイの映画監督ソムポート・セーンドゥアンチャイ氏が設立した制作会社である。1970年代には円谷プロと関係を持ち、『ハヌマーンと7人のウルトラマン』など、タイの神話や仏教的要素を取り込んだ特撮作品にも関わった。
この関係が後年、国際的な権利紛争へ発展した。チャイヨー側は、円谷プロ2代目社長の円谷皐氏から海外利用権を譲り受けたと主張。一方、円谷プロ側は契約書の真正性などを争い、各国で訴訟を続けてきた。
米国裁判では契約書の真正性が否定 中国での無許諾作品にも波及
海外で大きな転機となったのは米国訴訟だった。ロサンゼルスの連邦裁判所では2017年、チャイヨー側が根拠としてきた契約書について、真正なものではないとの判断が示された。その後、2018年の最終判断でUM Corporationなどによるウルトラマン関連キャラクターの利用が差し止められ、損害賠償も命じられたとされる。
この判断は、中国で制作された無許諾とされる映像作品にも影響した。中国映画『Dragon Force: So Long, Ultraman』をめぐっては、円谷プロがウルトラマンのキャラクター利用に強く反発し、米国で訴訟を起こした経緯がある。関連情報では、同作はUM Corporationなどの関与を背景に制作されたとされ、円谷プロ側は無許諾利用として対応していた。
タイでも、2008年にタイ最高裁が円谷プロ側に有利な判断を示したとされる。これにより、ソムポート氏がウルトラマンの共同創作者であるとの主張は退けられ、円谷プロ側の権利が認められたと伝えられている。
東京地裁判決で日本側の権利関係も前進
今回の円谷プロ発表は、日本国内の裁判でも同社側の主張が認められたという点で意味がある。過去には日本の裁判でチャイヨー側の主張が一定程度認められた時期もあり、海外判決と国内判断の関係が複雑になっていた。
今回の東京地裁判決では、円谷プロによる契約解除の有効性や、チャイヨー側から権利主張を引き継いだとされる企業の利用権の有無が判断された。円谷プロ側にとっては、長年の紛争を経て、自社の主張が認められた形だ。
ウルトラマンシリーズは1966年の『ウルトラQ』『ウルトラマン』以降、日本の特撮文化を代表する作品ブランドとして展開されてきた。シリーズはテレビ、映画、配信、玩具、イベント、海外ライセンスなど多方面に広がっており、権利関係の安定は海外事業に直結する。
『ハヌマーンと7人のウルトラマン』が残した日タイ特撮の複雑な記憶
この紛争が単なる契約問題に収まらないのは、日タイ特撮史に残る合作作品の存在があるためだ。1974年の『ハヌマーンと7人のウルトラマン』は、チャイヨーと円谷プロの関係を象徴する一本である。
同作では、タイ神話に登場する白猿神ハヌマーンとウルトラマンたちが共演。仏像を守る正義、神話的ヒーロー、日本の巨大特撮バトルが結びついた異色作であり、現在も一部ファンの間で語られている。
ただし、文化的な合作の記憶と、キャラクターや映像作品の利用権は別の問題である。今回の判決と円谷プロの発表は、ウルトラマンという知的財産を誰がどの地域で管理できるのかという点に、国内外の裁判が長期にわたり向き合ってきた結果といえる。
60周年を前に海外展開を強める円谷プロ
ウルトラマンシリーズは2026年に60周年を迎える。近年の円谷プロは、テレビシリーズだけでなく、配信、海外イベント、商品化、デジタル展開を含めたグローバル戦略を強めている。
長年の権利紛争は、海外市場での展開に影を落としてきた。特に中国や東南アジアでは、ウルトラマン人気が高い一方、過去の権利主張が公式展開の障害になってきた。今回の発表は、そうした長年の懸案が大きく前進したことを示す。
円谷プロにとって、今回の判決は過去の紛争処理にとどまらない。ウルトラマンを世界市場で一体的に展開するための前提が固まり、60周年以降の海外事業を進めるうえで重要な材料となる。



