
犯罪をした人や非行少年の社会復帰を支える民間ボランティアの大幅減少は、再犯防止や地域安全に直結する深刻な課題だ。
保護司とは 民間ボランティアであり非常勤国家公務員
保護司は、法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員としての身分を持ちながら、実際の活動は地域に根ざした民間ボランティアである。給与は無報酬が原則で、交通費や活動経費などの実費弁償金のみが支給される。
全国の定数は5万2500人を超えないと定められているが、令和7年1月時点の実人員は大幅に下回る状況にある。平均年齢は65.4歳で、60歳以上が全体の約8割を占め、70歳以上も約4割に達する。高齢化が深刻化しており、現役世代の参加が極めて少ないのが長年の課題だ。
明治21年に静岡で始まった伝統ある制度で、使命は「社会奉仕の精神をもって、犯罪をした者及び非行のある少年の改善更生を助けるとともに、犯罪の予防のため世論の啓発に努め、もって地域社会の浄化を図り、個人及び公共の福祉に寄与すること」と保護司法に明記されている。
主な任務は、保護観察対象者との定期面談、生活相談、就労援助、家族関係の調整など。
保護観察官(法務省の専門職員、約1300人)と協働し、地域の事情に詳しい民間人としての柔軟性を発揮する。任期は2年(再任可能で、最近の改正により3年への延長も可能)で、年齢上限は原則76歳未満だが特例で78歳まで継続できる場合もある。
特別な資格は不要で、人格・社会的信望・時間的余裕がある人が対象となる。
【全国保護司連盟】保護司になるには https://www.kouseihogo-net.jp/hogo/hogoshi/tobecome.html
保護観察制度の概要 施設外での更生を支える社会内処遇の柱
保護観察制度は、刑務所や少年院などの施設収容を避け、地域社会の中で対象者の更生を図る「社会内処遇」の中心的な仕組みだ。更生保護法に基づき、指導監督と補導援護の2本柱で運用される。
単なる監視ではなく、積極的な生活支援を特徴とする。対象者は主に4種類。
1. 家庭裁判所から保護観察処分を受けた少年、2. 少年院から仮退院した者、3. 刑務所などから仮釈放された成人、4. 執行猶予判決時に保護観察が付された者である。
令和6年末時点では、成人・少年合わせて約1万人規模が保護観察中とされる。活動内容は、月に2〜3回の面談を通じて遵守事項(住居定め、就労、被害者接触禁止など)の確認・指導を行うほか、住居確保や就職支援、医療・福祉機関との連携など生活基盤の整備が重要だ。
保護司は毎月活動報告書を提出し、保護観察所と協議しながら対応する。釈放前からの生活環境調整も行い、社会復帰の受け皿となる。
再犯防止効果が高く評価される一方、保護司の減少により1人あたりの負担が増大し、制度全体の質低下が懸念されている。
大津保護司殺害事件 面談の恐怖が退任・辞退を急増させる
減少に決定的な打撃を与えたのが、令和6年5月24日に滋賀県大津市で起きた保護司殺害事件である。
保護観察中の飯塚紘平被告(当時36歳)が、担当保護司の新庄博志さん(当時60歳)を自宅での面談中にナイフとおので複数回切りつけ、殺害した。
被告は令和元年6月のコンビニ強盗事件で懲役3年・保護観察付き執行猶予5年の判決を受け、就労が続かない不満を国や制度に向け、「保護観察制度に打撃を与える」目的で計画的に犯行に及んだとされる。
新庄さんは地域で献身的に活動し、支援を受けた人々から慕われる人物だった。2026年3月2日の大津地裁判決では、完全責任能力が認められ、求刑通りの無期懲役が言い渡された。
裁判長は「犯行の態様は執拗で残虐」「悪質性の高さは無差別殺人と遜色ない」「反省や更生の意思が感じられない」と厳しく指摘した。被告側は控訴した。
事件後、保護司の現場では「面談が怖い」「家族が心配する」といった声が急増。
法務省の調査では約2割が不安を感じ、退任希望や新規辞退が相次いだ。
これにより、令和7年の減少幅が1000人を超える過去最悪の事態となった。制度全体の信頼低下も深刻で、再犯防止の受け皿機能が揺らいでいる。
無報酬がなり手不足を助長 報酬制議論は見送りも負担軽減策進む
無報酬である点も、なり手不足と減少の大きな要因の一つだ。特に現役世代は本業との両立が難しく、交通費・通信費・時間コストが自己負担となる。
事件後の安全不安が加わると、「無償でリスクを負うのは割に合わない」との心理が強まる。
法務省の有識者検討会では報酬制導入が議論されたが、「自発的な善意を損なう」「成果評価が難しい」として見送られた。
代替策として、実費弁償金の増額、任期の2年から3年への延長、退任年齢の緩和、公募拡大、自宅以外での面談場所確保(公共施設活用)などが進められている。令和7年に成立した改正保護司法では、地方公共団体の協力努力義務化や安全環境整備の国の責務を明記。
複数保護司による共同担当制や、保護観察官の関与強化も検討中だ。しかし、根本的な担い手確保には地域社会全体の理解と支援が不可欠との声が強い。
再犯防止への影響と今後の課題 制度存続に向けた連携急務
保護司の減少は、社会安全に直結する。就労支援が十分に行われなければ、無職者の再犯率が有職者の約3倍に上昇するリスクが高まる。保護観察対象者の就労率向上は国も最優先課題としており、協力雇用主の拡大や専門プログラムの充実を図っているが、人手不足がボトルネックとなっている。保護司制度は日本独自の民間活力活用モデルとして海外からも注目されるが、高齢化と事件影響で存続危機に直面している。法務省は広報強化や認知度向上を急ぐ一方、地域住民・自治体・企業との連携が鍵となる。無報酬の精神を維持しつつ、負担軽減と尊厳を守るバランスが求められる。保護司の減少を食い止め、更生支援の質を維持できるかが、今後の刑事司法の成否を左右するだろう。



