
『BreakingDown』への出場で一躍知名度を上げた料理人・こめお氏。彼が約2年の歳月をかけてプロデュースし、4日に東京・浅草にグランドオープンした蟹ラーメン専門店「かにを」が、開店直後から激しい逆風に晒されている。
オープン当初こそ長蛇の列を作ったものの、クラウドファンディング時の「国産」アピールと実態の乖離、そして衛生管理への懸念がSNS上で次々と浮上。複合的な要因が絡み合い、同店は深刻な批判の的となっている。本プロジェクトはなぜこれほどの炎上を招いてしまったのか。SNS上の指摘や騒動の経緯を紐解きながら、多角的な視点で検証する。
国産アピールとソフトシェルクラブの供給というジレンマ
事の発端は、2025年3月に次世代クラウドファンディングサービス「FiNANCiE(フィナンシェ)」で実施された資金調達にある。株式会社Fooppyの代表を務めるこめお氏は、プロジェクト始動にあたり「日本のカニの良さを伝えたい」「安くなった日本食を変える」「国内漁獲蟹の廃棄問題解決」といった社会的意義を強くアピールしていた。さらに、石川県漁業協同組合への寄付意向を示すなど、能登半島地震の復興支援という文脈も交えて支援を呼びかけ、多くの共感と資金を集めた。
同店の看板メニュー「THE CLAAAAAB」などに使用されているのが「ソフトシェルクラブ」である。これは脱皮直後の殻が非常に柔らかいカニを指し、丸ごと唐揚げなどにすることで、殻の香ばしさとカニ本来の濃厚な旨味を余すところなく味わえる魅力的な食材だ。しかし、国内での漁獲・流通量は極めて少なく、日本の飲食業におけるソフトシェルクラブの大半は東南アジアや中国からの輸入に頼らざるを得ないのが実情である。
オープン直後、厨房を映した動画に「PRODUCT OF CHINA」と明記された冷凍蟹の段ボールが映り込んだことで、SNS上では「国産をアピールして資金を集めたのに中国産を使っているのか」という指摘が相次いだ。あるSNSユーザーは、過去に別の有名店で起きた産地偽装騒動を引き合いに出し、「クラウドファンディングで謳っていた使用用途と違うのであれば問題ではないか」と、その不透明さを厳しく指弾している。
ここで問われているのは、「外国産食材が悪である」ということではない。「国産の良さを広める」という美しい物語に共感して資金を投じた支援者に対し、事実上の後出しで海外産の使用が発覚したこと、そしてその乖離に対する事前説明が決定的に欠けていたことにある。
厨房への段ボール持ち込みが招いた衛生管理への疑義
産地表示の矛盾にとどまらず、批判の矛先は店舗の衛生環境にも向けられている。SNSで拡散された厨房の様子を収めた画像には、店舗ロゴの入ったTシャツを着た人物が調理をしているすぐ脇、火元の近くに段ボール箱がそのまま置かれている様子がはっきりと映り込んでいた。
一般的に、飲食店において食材の入った段ボールをそのまま調理場に持ち込むことは、衛生管理上、厳に慎むべき行為とされている。各自治体の保健所が発出する食中毒予防の啓発資料(例として札幌市保健所などの指導)によれば、流通過程で様々な場所に置かれる段ボールの表面には、大腸菌群やセレウス菌などの食中毒の原因となる細菌が付着しているリスクが高い。さらに、段ボールの破片や留め金による異物混入、保温性の高さから害虫のすみかやエサになる危険性も指摘されている。
あるSNSユーザーが「カニの産地云々より、厨房に段ボールを置いていることの方が飲食店として相当問題だ」と指摘したように、この画像は食の安全という飲食店の根幹に関わる信頼を揺るがす要素として、火に油を注ぐ結果となった。
迷走するコンセプト変更と対話姿勢への反発
疑惑が急速に広がる中、こめお氏の事後対応もまた波紋を呼んだ。SNS上での「なぜ国産を使わないのか」という指摘が広がっていることに対し、同氏は「ソフトシェルクラブを抜いたら原価が落ちるから、1500円国産ラーメン作ろうかな」「それやったら販売価格2600円だけどい?」といった、論点を価格にすり替えるような発信を行った。
さらに炎上を加速させたのが、突如として持ち出された「ムスリム向け」というコンセプトの変更である。同氏は「ラーメンはムスリム向けに作ったもので、ハラル認証も取得済みで世界進出を目指す」と主張。しかし、これまで「日本人向け」「日本の誇り」というトーンで資金を集め、浅草という立地で日本人客をターゲットにしていた事実との落差はあまりにも大きく、支援者の目には「その場しのぎの言い訳」として映ってしまった。
また、みりんの使用疑惑からハラル認証の厳密性を問われた際には、語尾に「笑」をつけて反論。この挑発的とも受け取れる対話姿勢に対し、飲食店勤務を公言するユーザーからは「信頼を取り戻したいのなら、相手を揶揄するような言い方は控えた方がいい」と苦言が呈された。主張内容の真偽とは別軸の問題としての指摘であった。
ネット評価の暴走と、料理人としての情熱
一連の騒動を受け、同店のGoogleマップ評価はオープンから数日で一時2.0前後まで急落した。しかし、ここで社会的課題として一考すべきは、現代におけるネット上の評価システムの危うさである。
急激に増加した低評価の中には、実際に店舗で飲食をしていないにもかかわらず、SNSの炎上や世間のネガティブな印象のみで書き込まれた、いわゆる「レビュー荒らし」が多数含まれているとみられる。店舗が提供する純粋な「味」や「サービス」ではなく、ネット上のスキャンダルによって点数が容易に操作され、店舗の存続すら脅かしかねない現状は、プラットフォーム側の大きな課題と言える。
実際のところ、店舗へ足を運んだ客からは「蟹の旨味が濃厚に出ている」「もちもちの太麺がスープに絡んで最高」と、その味を絶賛する声も複数上がっている。「美味しいものを客に提供したい」「感動の食体験を届けたい」という、約2年をかけてラーメンを開発した料理人としてのこめお氏の熱意や情熱そのものが、決して否定されているわけではないはずだ。
しかし、現代の飲食店ビジネス、とりわけクラウドファンディングを活用して個人の信用で資金を集めるプロジェクトにおいては、美味しいものを作る技術と同等かそれ以上に、支援者や顧客との「透明性のある誠実なコミュニケーション」が求められるのかもしれない。「かにを」が直面しているのは、単なるSNSの炎上ではなく、現代のビジネスにおける「言葉と物語の責任」という重いテーマである。失われつつある信頼を回復するためには、小手先の火消しや反論ではなく、自身の掲げた理念と実態の乖離を見直し、真摯な姿勢で再出発を図ることなのではないだろうか。



