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株式会社ニッポン手仕事図鑑

https://nippon-teshigoto.jp/

〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2丁目14番10号 アーバンネット日本橋ビル 1階・2階

03-6805-3095

産地に寄り添い、若者と結ぶ。ニッポン手仕事図鑑が描く伝統工芸の未来

ステークホルダーVOICE 地域社会 経営インタビュー
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株式会社ニッポン手仕事図鑑
画像出典:株式会社ニッポン手仕事図鑑、以下同

かつて日本全国の地域経済を支え、日々の生活に彩りを与えてきた伝統工芸。しかし今、その多くが静かに、そして確実に消滅の危機に瀕している。需要の減少やライフスタイルの変化もさることながら、現場の屋台骨を揺るがす最も深刻な要因は、後継者不足である。

この数十年、繰り返し叫ばれ続けてきた国家的課題に対し、国や行政の特出した取り組みが十分に行き届いているとは言い難い。そうしたなか、現状に強い危機感を抱き、確かな結果を出し続けている企業がある。株式会社ニッポン手仕事図鑑だ。

「日本一職人を愛するメディア」を掲げ、2015年に動画メディアとして発足した同社。彼らは、いかにして衰退産業に若者を呼び込み、定着させているのか。その実態に迫った。

 

「若者の職人離れ」という産地側の決定的な誤解

事態の核心に触れるには、まず産地が抱える諦めの構造を解き明かす必要がある。

取材を通して見えてきたのは、産地の職人たちの多くが、後継者不足の最大の要因を若者の職人離れだと信じ込んでいる事実だ。「伝統工芸など、今の若い人はやりたがらない」「募集したところで、人が集まるわけがない」。そんな諦観の声が、全国各地の工房から聞こえてくる。実際に自身の工房で採用活動を本格的に行った経験を持つ職人は極めて少なく、「もう自分の代で終わらせるしかない」と、後継者の育成を最初から諦めてしまっているケースがほとんどだという。

しかし、実態は全く異なっていた。株式会社ニッポン手仕事図鑑の独自調査によれば、全国には職人を志す学生が通う「ものづくり系」の学校が、把握できているだけでも200校以上存在する。実は、職人になりたいと熱望する若者は、全国に多数存在しているのだ。

問題は若者の意欲低下ではない。産地側が採用手法を知らないこと、そして学生と産地をつなぐ接点が圧倒的に不足していることだ。伝統工芸専門の学校でさえ、卒業後に実際に職人の道へ進めるのは全体の1割から2割程度にとどまるという。残りの8割以上の若者は、熱意を持ちながらも産地の扉を叩く手段を知らず、別の道へと進んでいく。

この構造的なミスマッチもまた、伝統工芸の後継者不足を加速させる要因の一つとなっていたのだ。同社は、後継者を求める産地と、職人を志す若者を結びつける仲介役の必要性を強く認識し、行動を起こしたのである。

 

高いハードルを下げる「後継者インターンシップ」の画期的な仕組み

ミスマッチを解消する具体策として同社が打ち出したのが、「後継者インターンシップ」である。これは、明確に採用を目的とした短期間の就業体験プログラムだ。

しかし、日々の仕事に追われ、採用に不慣れな小規模な工房にとって、単独でインターンシップを企画し、募集から実施、終了後のサポートまでを一貫して行うことは容易ではない。そこで同社は、自治体と協力してこのプログラムを実施することで、受け入れ側である事業者の金銭的・心理的ハードルを下げるアプローチをとったのである。

プログラムの内容も、単なる職業体験の域を超えている。募集にあたっては、関係性のある美術大学やものづくり系の学校200校以上に声かけするほか、登録者が9300人にも上る公式LINEなどを通じて意欲のある若者へ発信。そこから書類選考やオンライングループ面談の二段階を経て、熱意ある参加者を厳選している。当日は、工房での仕事体験はもちろんのこと、地域散策や先輩職人、あるいは先輩移住者との座談会などもプログラムに組み込んでいる。その工房で働くことだけでなく、その地域で暮らすことの解像度を上げる工夫が随所に凝らされているのだ。

さらに、産地ごとに異なる課題に合わせてプログラムを最適化している点も見逃せない。学生のアイデアと職人の技術を掛け合わせて“売れる工芸品”を創出する「商品開発インターンシップ」や、関係人口の創出を主眼に置いた「産地留学」など、職人や自治体とコミュニケーションを重ねながら、産地に寄り添ったプログラムを実施している。東日本大震災で避難区域に指定されていた福島県浪江町で開催された大堀相馬焼のインターンシップでは、廃絶危機にあった産地に2年連続で後継者が誕生するという快挙も成し遂げている。

 

定着率79.3%、Iターン率76%が示す地方創生の最適解

この取り組みがもたらした成果は、客観的な数字を見れば一目瞭然だ。

これまでのインターンシップへの総応募者数は4766名にのぼる(2021年度〜2025年度実績)。そこから厳しい選考を経て、実際に産地に内定した若者は135名、内定承諾者は111名を数える。特筆すべきは、2021年から2025年度までの実績において、後継者の定着率が79.3%、Iターン率(都市部などから地方への移住)が76%という驚異的な数値を叩き出していることだ。事前の丁寧なマッチングと、地域での暮らしまで見据えたプログラムが、高い定着率につながっていることは想像に難くない。

また、この活動はSDGsの観点からも極めて高い波及効果を生んでいる。例えば「質の高い教育をみんなに」の実践として、若者に伝統工芸という実践的な学びの場を提供し、将来の選択肢を広げている。「働きがいも経済成長も」においては、移住してきた若者が働くことで産地に希望と活気が戻り、地方経済の活性化と持続可能な雇用創出の好循環が生まれている。

さらに「住み続けられるまちづくりを」への貢献も顕著だ。岐阜県高山市でインターンシップを開催した際には、それを契機に自治体による新たな後継者支援の補助金制度がスタートしたという。給与面での不安から職人の道を諦めざるを得なかった若者にとって、これは大きな希望の光となる。一企業の取り組みが行政を動かし、制度を変えるほどの影響力を持ち始めているのだ。

これらの圧倒的な実績が評価され、同社は「第5回日本サービス大賞」(公益財団法人日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)において、見事「地方創生大臣賞」を受賞している。

 

次なる一手。求人メディア「まちびと」と工房再生事業への展開

同社が掲げるミッションは、年間100人の後継者を産地に送り出すことだ。しかし、見据えるべき課題も残されている。

過去5年間で130名以上の内定者が誕生した一方で、総応募者数は4700名を超えている。つまり、採用枠に対して極めて高い倍率となっており、伝統工芸に強い関心を持つ若者の全員を産地に繋ぎきれていないのが現状だ。この社会的な機会損失を防ぐため、同社は昨春、新たな一手を打った。伝統工芸に特化した求人メディア「まちびと」の開設である。インターンシップという深く狭いマッチングだけでなく、職人を志す若者がより気軽に全国の産地とつながれるプラットフォームを提供することで、出会いの総量を底上げする狙いがある。

さらに、同社の事業領域はつなぐことだけにとどまらない。廃業した山形県唯一の桐箱工房を復活させるため、自ら新会社「株式会社山形よしだ桐箱店」を設立し、事業承継と工房再生に直接乗り出している。

また、インターンシップを経て全国の産地で奮闘している若手職人たちに、新たな活躍の場を提供する事業も進行中だ。その一環として、若手職人と親方の合同ペア作品展「弟子と親方展」を7月より実施する。若手が輝く姿を社会に広く発信することで、彼ら自身のモチベーションを高めるだけでなく、未だ採用に消極的な産地の意識を変革し、次世代の若者たちのロールモデルを提示しようとしているのだ。

株式会社ニッポン手仕事図鑑の歩みは、単なる一企業による採用支援の枠を大きく超えている。彼らが行っているのは、長年培われてきた技術を持つ職人と、熱意を持つ若者を結びつけ、産地が将来にわたり持続していくための新たな仕組みを、実践を通じて模索する取り組みである。

自らの魅力の伝え方や、受け入れの仕組みをアップデートしていく。同社が伴走しながら切り拓いたこのアプローチは、伝統工芸に限らず、深刻な人手不足に悩むあらゆる地方の中小企業にとって、大いなる希望と実践的なモデルケースになるはずだ。

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ライター:

Webライターとして活動。主にエンタメ系、サステナビリティ関連の記事などを扱っています。

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