
静まり返った映画館で、白髪の教官がゆっくりと視線を上げる。
主演映画『教場Requiem』で風間公親を演じる木村拓哉は、かつての“トレンディヒーロー”の面影をあえて封じ込め、静かな威圧感だけを残した。
平成の頂点から、令和の揺らぎへ。
そして今、再び「黄金期」という言葉が取り沙汰されている。
だが、それは本当に“再来”なのか。
それとも、別の形への“進化”なのか。
「凋落」と言われた理由と、その違和感
『ロングバケーション』『HERO』『GOOD LUCK!!』。
視聴率30%超えを連発し、社会現象を起こした時代。木村拓哉は単なる主演俳優ではなく、流行を生む装置だった。
しかし令和では視聴率10%がヒットの基準。主演作が9%台で推移すると、「凋落」と書かれる。
だが、時代の基準が変わっただけではないのか。
スターが“数字の象徴”だった時代から、“信頼の象徴”へ。
木村の立ち位置は、すでに別の土俵へ移っている。
ワークマン現象──まだ続く“影響力”
その象徴的な出来事が、ワークマンのフリースジャケット騒動だ。
木村がテレビ番組で着用したワークマンの商品が即完売。SNSでは「どこのモデル?」「キムタク効果すごい」と拡散し、店頭在庫が一気に動いた。
平成期、ドラマで着用したダウンやバイクが売れた現象と構図は同じだ。
つまり──
“流行を動かす力”は、まだ衰えていない。
ただし違うのは、ブランドの方向性だ。
かつてはハイブランドやトレンディアイテム。
今は機能性重視のワークウェア。
そこにあるのは、「憧れ」から「共感」へのシフトだ。
手の届く価格帯の商品が動くということは、スターと視聴者の距離が縮まった証でもある。
演技の重心が変わった瞬間
『教場』では、白髪を隠さない。
『TOKYOタクシー』では、くたびれた中年を演じる。
若い頃の木村は“引っ張る主役”。
今は“受け止める主役”。
感情を爆発させるのではなく、沈黙で伝える。
スター性を削ることで、逆に役が浮かび上がる。
この変化が、CM市場でも評価されている。
CM急増と「親近感」の獲得
一時はCM契約1社まで減少。
だが現在は9社へ急回復。
企業が求めているのは、
・かっこいい大人
・頼れる先輩
・そして親近感
三菱UFJ銀行のCMで見せる、不器用だが温かい兄の姿。
完璧なヒーローではなく、少し人間味を帯びた50代。
スター性を維持しながら、生活者側へ半歩寄る。
それが今の木村のポジショニングだ。
黄金期は「再来」ではなく「更新」
平成の黄金期は、爆発力だった。
令和の黄金期は、持続力かもしれない。
視聴率30%はもう出ない。
だが、53歳で第一線に立ち続ける希少性は、むしろ増している。
ワークマンを動かし、銀行CMで信頼を担い、映画で静の演技を見せる。
黄金期とは、数字ではなく“影響力の質”。
木村拓哉は今、スターの老い方を更新している。



