
窓などの建材商社マテックス株式会社(東京都豊島区)は、2025年6月10日付で国際的なサステナビリティ認証「B Corp(ビーコープ)」を取得した。B Corpは米国の非営利団体B Lab™が運営する認証制度で、環境・社会・ガバナンス(ESG)などに関する厳格な基準を満たす必要がある。
世界ではパタゴニアやオールバーズなど著名企業も取得しており、2025年7月時点で認証企業数は1万社を超える。日本国内では64社にとどまっている(2025年8月現在)。
マテックスは「窓をつうじて社会に貢献する」という理念のもと、CO2排出削減やエコガラスの普及、地域との連携活動などに注力してきた。特に2010年以降、CO2削減の取り組みを進め、2030年までに2013年度比で55%削減という目標に対し、2024年度にはすでに61%の削減を達成。このほか、健康経営優良法人の取得、5S活動や教育制度「マテックスカレッジ」、昭和レトロガラスの再活用事業「madolino」、豊島区や横浜市との連携イベントなども評価を受けた。
SDLでの体験型イベントに30名 カードゲームで“取得の難しさ”を実感
2025年7月31日には、同社のサードプレイス体験型施設「HIRAKU IKEBUKURO 01-SOCIAL DESIGN LIBRARY-」にて、B Corp認証取得を報告するイベントが開かれた。30名以上が来場し、松本浩志社長などが登壇。B Corpの意義や今後の展望について語った。
特に注目を集めたのは、イベントの後半、参加者がグループに分かれ、中小企業の立場でB Corp認証を目指すというカードゲームだった。参加者は、B Corp取得を目指すべく、企業の意思決定を疑似体験し、実際に取り組みがB Corpの基準から見て評価できる内容かを知るゲームを楽しんだ。多くの人が、80点の合格ラインに到達する難しさを体感。ガバナンス、労働環境、地域社会との関係などの経営活動に留まることなく、推進チームのメンバーの多様性まで考慮されるなど日々の経営活動がすべて評価対象となることに驚きの声があがった。
老舗企業が“形を崩さずに”社会性を内包する難しさ
今回、マテックスが取得したスコアは95.2点。これはB Corp認証の最低合格点である80点を大きく上回り、国内取得企業の中でもトップクラスの水準だ。一般的に、スタートアップ企業は創業時からB Corp取得を意図して社会性を意識した設計がしやすく、B Corpの評価項目にも適応しやすい。
一方で、一定の事業規模がある老舗企業がB Corpを取得するには、既存の事業構造の中に評価項目を統合していく必要があり、経営基盤そのものに手を加える難しさがある。すでに形の固まった企業組織が「社会性」を再構築し、高得点で認証を得ることは並大抵ではない。松本社長は「一朝一夕では実現できないが、長年にわたり社員や地域との信頼関係を築いてきたことが、今回の評価につながった」と語っているが、実際にステークホルダーを大切にする経営を実直に実践してきた結果と言えるだろう。
B Corpは「ゴール」ではなく「起点」 共創の広がりに期待
マテックスは今後、他のB Corp認証企業との連携も強化する方針だ。実際に、取得後はCSRに関する講演を共催するなど、ネットワークの活用が始まっている。今後は取引先や顧客も巻き込んだ協働を進め、「B Corpを通じて社会と共にある企業経営のあり方を深めていく」と松本社長は意気込みを語る。
B Corpの取得は企業にとって「名誉」だけでなく、「試される」存在でもある。今後、マテックスがこの認証をどう活かし、どのように事業を深化させていくのか。その姿勢は、老舗企業におけるサステナビリティ経営の一つのロールモデルとして注目されている。