
文化・商業・先端技術が融合し、独自の存在感を放つ東京都武蔵野市。都心への良好なアクセスと緑豊かな住環境を両立し、住宅、飲食、教育、製造、アニメといった多様な産業が集積する。最新決算を基にした売上高ランキングで、市経済をけん引する名門企業の現在地と成長戦略を読み解く。
10 位 ディジタルメディアプロフェッショナル (DMP)〈武蔵野市〉 売上 30 億円〈2025/3〉
名門ポイント:AI/ディープラーニングやGPU(画像処理半導体)の分野で、頭脳となるIPコアを開発・ライセンス提供する半導体テック企業。2025年3月期連結売上高は30億円。特に、安全運転支援システム(ADAS)など車載向けAI半導体で高い技術力を誇る。日本のAI・自動運転技術の進化を支える頭脳集団。
9 位 ディーエムソリューションズ〈武蔵野市〉 売上 80 億円〈2025/3〉
名門ポイント:ダイレクトメール発送代行から事業を開始し、現在はSEOなどのWebマーケティング、ECサイトの物流を支えるフルフィルメントサービスを三本柱とする。2025年3月期連結売上高は80億円。リアルとデジタルの両面から企業の販促活動をワンストップで支援するユニークな事業モデルを構築。
8 位 バルミューダ〈武蔵野市〉 売上 124 億円〈2024/12〉
名門ポイント:2003年創業。美しいデザインと独自の技術で「高級家電」という新市場を切り拓いたファブレスメーカー。2024年12月期連結売上高は124億円で黒字転換を達成。代表作「BALMUDA The Toaster」は熱狂的なファンを生んだ。海外展開を強化しており、グローバルブランドへの進化を目指す。武蔵野から世界へ、新たなライフスタイルを提案し続ける。
7 位 IGポート〈武蔵野市〉 売上 145 億円〈2025/5〉
名門ポイント:傘下に「プロダクション・アイジー」「ウィットスタジオ」など有力アニメ制作会社を抱える純粋持株会社。2025年5月期連結売上高は145億円。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『SPY×FAMILY』など世界的にヒットした作品を多数輩出。高品質なIP(知的財産)を創出し、海外配信を通じて安定収益を確立。武蔵野市が誇るクールジャパンの代表格である。
6 位 日本マイクロニクス〈武蔵野市〉 売上 402 億円〈2024/12・会社予想〉
名門ポイント:1970年創業、半導体製造のテスト工程で不可欠な「プローブカード」で世界トップクラスのシェアを持つ精密機器メーカー。DRAM向けやハイエンドCPU向けなど、最先端半導体の性能を保証するキーデバイスを供給。生成AIやデータセンター需要の拡大を背景に成長を続け、日本の半導体産業を支える武蔵野発のグローバル・ニッチトップ企業。
5 位 ナガセ〈武蔵野市〉 売上 552 億円〈2025/3〉
名門ポイント:大学受験予備校「東進ハイスクール」「東進衛星予備校」を全国展開する民間教育の最大手。2025年3月期連結売上高は552億円。有名講師陣による映像授業をいち早く導入し、教育の地域格差是正に貢献。近年は小中学生部門や、社会人向けDX・AI人材育成講座も強化。「独立自尊の社会・世界に貢献する人財」の育成を掲げ、日本の未来を担う。
4 位 松屋フーズホールディングス〈武蔵野市〉 売上 1,276 億円〈2025/3・会社予想〉
名門ポイント:牛めし「松屋」、とんかつ「松のや」などを全国に約1,200店舗展開する大手外食チェーン。券売機やセルフサービス方式のDX化をいち早く進め、省人化と高コストパフォーマンスを両立。定食メニューの充実や健康志向の「ロカボ」メニュー導入で幅広い客層を獲得。市民の日常食を支える、武蔵野を代表する外食企業の一つ。
【番外編】ランキング外の注目企業と吉祥寺にゆかりある名門たち
トップ3の紹介の合間に、武蔵野市の経済や文化を語る上で欠かせない有力企業と、市外へ本社を移転したものの、吉祥寺の地で産声を上げた名門企業をご紹介します。
<武蔵野市に本社を置く有力企業>
J.C.STAFF〈武蔵野市〉
名門ポイント:『とある科学の超電磁砲』『食戟のソーマ』など数々のヒット作を手掛ける日本を代表するアニメ制作会社。市の「アニメの街」としてのブランドイメージ形成に大きく貢献している最重要スタジオの一つです。(※売上高は非公表)
<吉祥寺にゆかりある名門企業>
大戸屋ホールディングス(現本社:横浜市)
ゆかり:「ちゃんとごはん」をコンセプトに家庭的な定食を提供する「大戸屋ごはん処」の原点は、1958年に吉祥寺で開業した「大戸屋食堂」。吉祥寺の小さな大衆食堂から、全国、そして海外へと展開する日本食チェーンへと成長しました。
アグレ都市デザイン(現本社:新宿区)
ゆかり:デザイン性の高い都市型戸建住宅で知られる不動産会社。2009年4月に東京都武蔵野市吉祥寺で設立されました。創業の地である吉祥寺で培った感性が、現在の洗練された家づくりに活かされています。
3 位 すかいらーくホールディングス〈武蔵野市〉 売上 4,011 億円〈2024/12〉
名門ポイント:「ガスト」「バーミヤン」「ジョナサン」など、多様なブランドで全国約3,000店舗を展開する国内最大のファミリーレストランチェーン。2024年12月期連結売上高は4,011億円。DXを積極的に推進し、配膳ロボットやデジタルメニューブックの導入で店舗運営を効率化。自社アプリ会員5,000万人超の顧客データを活用したマーケティングで集客力を高める。
2 位 横河電機〈武蔵野市〉 売上 5,624 億円〈2025/3〉
名門ポイント:1915年創業、工業計器とプロセス制御システムで世界トップクラスのシェアを誇るFA(ファクトリーオートメーション)の巨人。2025年3月期連結売上高は5,624億円。エネルギー、化学、鉄鋼など国内外のプラントの安定操業を支える。近年はDX支援に注力し、AIやIIoTを活用したソリューションで顧客の生産性向上やカーボンニュートラル(GX)移行を支援。
1 位 飯田グループホールディングス〈武蔵野市〉 売上 1兆4,596 億円〈2025/3〉
名門ポイント:一建設、飯田産業、東栄住宅など6社を傘下に持つ、戸建分譲住宅で国内シェアNo.1の巨大企業グループ。2025年3月期連結売上高は1兆4,596億円。スケールメリットを活かした資材の共同購入や標準化された設計・施工で、高品質かつ低価格な住宅を大量に供給。日本の住生活を根底から支える、武蔵野市に拠点を置く最大の企業グループである。
総評
武蔵野市は、飯田グループHD(住宅)、横河電機(工業)、すかいらーく(外食)という売上3,000億円超の巨大企業群が経済の屋台骨を形成している。それに松屋フーズ(外食)、ナガセ(教育)、日本マイクロニクス(半導体)といった100億円超の中核企業が続く。さらに、IGポート(アニメ)、バルミューダ(家電)、DMP(AI)など、各分野で高い専門性とブランド力を持つ個性的な企業が厚みを加えている。
番外編で触れたように、吉祥寺という街の持つブランド力が大戸屋やアグレ都市デザインのような企業を生み出す土壌となっている点も見逃せない。この「多様性」こそが武蔵野市の最大の強みであり、安定と革新を両立させる原動力となっている。