地域とともに育む「勝利のワイン」プロジェクト

女子バレーボールチーム「PFUブルーキャッツ石川かほく」が、地元の特産品・高松ぶどうを用いたオリジナルワイン「KAHOKU BLUE」の2025年度製造に再び挑む。今年は能登半島地震の復興支援にも焦点を当て、石川県輪島市門前町の「株式会社ハイディワイナリー」での醸造を決定。約1,600本を製造し、11月下旬の完成を予定している。
選手が体験する「摘房」で、ぶどうに込める思い
7月1日には、JA石川かほくおよび高松ぶどう生産組合の協力のもと、選手14名がぶどう畑で摘房作業に参加した。摘房とは、ぶどうの品質向上を目的に、生育の遅い房を切り落とす工程だ。収穫される約2トンのぶどうは、通常であれば廃棄されるが、このプロジェクトでは“アップサイクル”としてワイン原料へと生まれ変わる。
復興と誇りを詰めたワインづくり
今年の醸造を担うのは、令和6年能登半島地震で大きな被害を受けた奥能登・輪島の純国産ワイナリー「ハイディワイナリー」である。ワイン製造を通じて地域経済の回復を後押しし、収益の一部は義援金として被災地に寄付される予定だ。こうした背景には、ワインを通じて地域との誇りや愛着を高める狙いもある。
SDGsから一次産業支援まで、4つの社会的価値

このプロジェクトには、地域との持続可能な共生を図るSDGsの観点が盛り込まれている。廃棄予定だった摘房ぶどうを有効活用することで、資源の循環利用が実現されるとともに、地域資源への再評価にもつながっている。
さらに、「おらが町のワイン」として地元住民が誇りを持てるような存在を目指すことで、シビックプライドの醸成と地域内外への魅力発信にもつながる。観光客にとっては旅の思い出に、地元の人にとっては祝い酒や感謝の贈り物としても機能する。
また、農業への関心を若い世代へとつなぐ役割も担っており、ぶどう栽培を通じた一次産業の事業承継に資する意義も大きい。バレーボール選手と農業従事者の連携は、次世代への新たな関心喚起にもなり得る。
そして、最大のテーマの一つが被災地へのエールだ。ワインの販売を通じて得られる収益の一部は義援金として寄付され、能登の復興支援に直接貢献する仕組みとなっている。
選手たちの声:「ワインでつながる地域との絆」
大熊紀妙選手は、「摘んだぶどうがやがてワインになり、勝利の日に乾杯できることが楽しみ」と語る。松井珠己選手も「自分が摘んだぶどうがファンの手に渡るなんて感動的」と目を輝かせた。両選手ともに、普段の競技活動では得られない体験を通じて、地域との新たな関わりを実感しているようだ。
農業者・JA・選手の三位一体で歩む未来
JA石川かほくの村井一宏代表理事専務は「農業への理解を深める貴重な機会。この活動が農とスポーツの連携モデルになることを期待したい」と述べた。ぶどう生産組合の大田昇組合長も「ブルーキャッツの存在が地域を盛り上げてくれる」と語り、今年2年目を迎えるこの取り組みに手応えを感じている。
スポーツチームが果たす地域貢献の新たなかたち
PFUブルーキャッツ石川かほくは、10月開幕の「大同生命SV.LEAGUE」に向け準備を進める一方、地域密着の活動でも存在感を強めている。競技を超えて、農業、地域経済、復興支援を包括するワインプロジェクトは、チームのフィロソフィー「想像以上の日常をすべての皆さまへ」を体現する象徴的な取り組みとなっている。
完成したワイン「KAHOKU BLUE」は、今秋以降、試合会場やオンラインストアなどで販売される見通しだ。地域の誇りとともに味わう“勝利の一杯”が、多くの人の心をつなげるだろう。