
ハーレーダビッドソンの日本法人が、販売店に過剰なノルマを課していたとして、公正取引委員会が独占禁止法違反で約2億円の課徴金命令を出す方針を固めたことが分かった。
ハーレーダビッドソンとは?
「ハーレーダビッドソン」と聞けば、バイクに詳しくない人でもその名を知っているほど世界的に有名なブランドだ。1903年、アメリカ・ウィスコンシン州ミルウォーキーで創業されたこのメーカーは、独特の重低音を響かせる大排気量V型ツインエンジン、存在感のあるデザイン、そして「自由」や「男のロマン」といった価値観を象徴するバイクとして多くのファンを魅了してきた。
映画『イージー・ライダー』にも登場したハーレーは、アメリカンバイクの代名詞とも言える存在で、世界中に熱狂的なファンを持つ。現在は電動バイク「ライブワイヤー」なども展開し、伝統と革新を融合させたブランドとして進化を続けている。
日本国内ではハーレーダビッドソンジャパン(以下HDJ)が輸入・販売を担当し、全国のディーラーと専売契約を結んで販売している。
ノルマ未達で契約更新打ち切りを示唆
そんな名門ブランドの日本法人が、公正取引委員会から独占禁止法違反(優越的地位の乱用)に問われた。関係者によると、HDJは2023年1月以降、全国の販売店数十社に対して、通常の営業努力では達成が難しい水準の新車販売ノルマを一方的に設定。さらに、目標未達成の場合は契約を更新しないと示唆するなど、強硬な姿勢をとっていたという。
HDJは直営店舗を持たず、全国約90のディーラーと専売契約を結び、そのネットワークを通じて販売を行っている。そのため、ディーラー側にとって契約打ち切りは死活問題であり、多くの販売店がノルマ達成に苦しんでいた。
販売店に“自腹営業”を強要か
中には、ノルマを達成するために販売店のスタッフや会社名義でバイクを“自腹購入”し、販売実績として計上する行為が横行していた。こうした行為は「自爆営業」や「新古車化」と呼ばれるもので、一度登録されてしまったバイクは「登録済み未使用車」として新車より安い価格で売らざるを得ない。
その結果、販売店は利益を圧迫され、資金繰りが悪化。中には、経営が立ち行かなくなり廃業に追い込まれた店舗もあったという。関係者によれば、年間で数千万円分のバイクを自己買い取りしていたディーラーも存在したとされる。
公正取引委員会が調査、独禁法違反と判断
公正取引委員会は2023年7月にHDJに対して立ち入り検査を実施。その後の調査で、HDJが取引上優越する立場を利用し、販売店に対して一方的な義務を課したことを「優越的地位の乱用」に当たると判断した。
独占禁止法では、立場の強い企業が自社の利益のために取引先に不当な不利益を与えることを禁止している。今回のケースでは、「ノルマ達成できなければ契約打ち切り」「自社購入による実績作り」といった行為が、明確な違反行為とされた。
これを受けて公取委は、ハーレーダビッドソンジャパンに対し、再発防止を求める排除措置命令と、約2億円の課徴金納付命令を出す方針を固めた。処分案はすでに通知済みで、今後HDJ側からの意見を聴いたうえで正式決定される見通しだ。
輸入バイク市場でトップシェアも…ブランドに傷?
日本自動車輸入組合によると、ハーレーダビッドソンは2024年度の輸入小型二輪車の新規登録台数でシェア30.6%を記録しトップとなっている。2023年度も1位を維持しており、日本市場でも人気の高さがうかがえる。だが、今回の問題は、そうしたブランド力を背景にした不公正な取引慣行の疑いが浮き彫りになった格好だ。全国のディーラーに支えられてきたハーレーの国内展開だが、その関係性に大きな疑問符がついた。
今後の焦点は「再発防止」と「取引の公正化」
HDJがどのように対応するかが今後の焦点だ。販売店との信頼関係をどのように修復し、公正な取引環境を築いていけるのか。再発防止策の実効性と共に、企業としての説明責任も問われている。
一方、外資系メーカーによる強引なビジネス慣行が社会的関心を集める中で、今回の事例は他の輸入車ブランドや販売代理店にも波及する可能性がある。市場競争の健全性を維持するためにも、公正なルールの徹底が求められている。