
自動車と造船に象徴される重厚長大産業に、電力・物流・食品容器など多様な事業が共存する広島県経済。カーボンニュートラルやDXへの対応が加速するなか、県内本社企業は連結決算の規模を武器にグローバル市場へ打って出る。本稿では決算短信・有価証券報告書・公式リリースといった一次資料のみを突合し、連結売上高(金融は経常収益)を基準に“県内に本社(登記本店)を置く企業”で作成した最新ランキングだ。
20 位 アンデルセングループ〈広島市中区〉 売上 726 億円〈2024/3・連結〉
名門ポイント: 1948 年創業、本社を広島市中区に構えるベーカリー持株会社で、2024年3月期の連結売上高は726億円に達した。旗艦店「広島アンデルセン」のほか、「アンデルセン」「リトルマーメイド」など直営・FCを合わせ全国で約270店舗を展開し、業務用冷凍パン生地も供給する総合ベーカリー事業を形成している。グループ従業員数は1,715名(2025年4月1日現在)で、デニッシュペストリーの国内普及や石窯パンの開発など技術革新に注力してきた。近年はデンマーク・ガウノー城への桜植樹や食育プログラムを通じた国際文化交流にも取り組み、「食と平和」を掲げる地域発のグローバル企業としてブランド力を高めている。
19 位 広島ガス〈広島市南区〉 売上 915 億9,500 万円〈2025/3・連結〉
名門ポイント: 広島市南区に本社を置く総合エネルギー企業で、都市ガスとLPガスの二本柱により瀬戸内地域の約42万戸へエネルギーを供給する。2025年3月期の連結売上高は915億9,500万円と前期比1.0%増となり、LPガス販売単価の上昇を受けて2期ぶりに増収へ転じた。同社は2025年度に総販売量491百万m³、お客さま戸数417千戸を計画し、LPガス子会社の広島ガスプロパンと連携して地域BCP支援や災害時のLPガス非常用発電機導入を推進する。省エネコミュニケーション・ランキングでは都市ガス・LPガス両部門で最高評価の五つ星を獲得し、最新の中期経営計画ではe-メタンや水素活用、再エネ電源の拡大を柱に2050年カーボンニュートラル実現を掲げ、域内脱炭素インフラの中核を担う方針だ。
18 位 中国塗料〈廿日市市〉 売上 1,161 億7,400 万円〈2024/3・連結〉
名門ポイント: 船舶塗料で世界3位を維持。自社開発の亜鉛フリー防汚塗料「SEAFLO NEO ZF」が国際海事機関(IMO)の温室効果ガス削減技術リストに掲載され、呉研究所では船体摩擦低減コーティングの大型海槽試験を開始。営業利益は前年比3倍超へ急伸した。
17 位 西川ゴム工業〈広島市中区〉 売上 1,206 億円〈2025/3・連結〉
名門ポイント: 2024自動車用ウェザーストリップで国内シェア約5割を握る独立系サプライヤー。2025年3月期の連結売上高は1,206億円と過去最高水準を更新し、海外売上比率は53%まで上昇した。海外8拠点体制を強化し、メキシコ子会社の組織再編をテコにグローバル供給網を再構築している。発泡TPEグラスランチャンネルなど樹脂化技術を量産化し、製造時CO₂排出を削減するとともに軽量化とリサイクル性を高めた。2030年度には売上高1,300億円以上、営業利益率10%以上を目標に掲げ、電動車の静粛性ニーズを取り込む成長戦略を描く。
16 位 ダイキョーニシカワ〈東広島市〉 売上 1,590 億1,900 万円〈2024/3・連結〉
名門ポイント: 2024年3月期の連結売上高1,590億1,900万円を計上する自動車樹脂部品メーカーで、内外装・パワートレイン向け製品を世界4極で量産している。独自のCP成形を用いたソフトインストルメントパネルなど軽量化部品をマツダやトヨタに供給し、EV用ダッシュボードや冷却パイプといった次世代車向けラインナップを拡大中だ。環境面では、東広島本社工場で2024年2月に1,380kWのオンサイトPPA太陽光を稼働させ、年間約1,070 tのCO₂削減を見込むと発表した。同社は2030年までに2013年度比でCO₂排出50%削減、2050年カーボンニュートラルを掲げ、国内外工場への再エネ導入と樹脂リサイクル技術の高度化を進めている。さらに「人とくるまのテクノロジー展2024」では、サステナブル樹脂や低反射表皮を採用した次世代インテリア・コンセプトを公開し、デザインと環境性能を両立する開発姿勢を示した。
15 位 エバルス〈広島市南区〉 売上 1,673 億円〈2025/3・連結〉
名門ポイント: メディパルホールディングス傘下で医薬品・医療機器・試薬を扱う卸商社。本社は広島市南区と岡山市北区の二本社制。2025年3月期連結売上高は1,673億円で、中国地方の医療インフラを担う。広島・岡山・山口・鳥取・島根に計20拠点と広島・岡山のALC(高機能物流センター)を設け、約2万SKUを即納体制で管理する。2020年稼働の広島ALCは独自開発の需要予測システムで欠品リスクを低減し、冷凍・冷蔵設備を強化した。免震構造や自家発電、三日分の緊急備蓄を含むBCPを徹底し、大規模災害時でも検査薬・ワクチン供給を切らさない体制を整え、地域医療機関のDX支援にもつなげている。
14 位 ティーエスアルフレッサ〈広島市西区〉 売上 1,766 億2,480 万円〈2025/3・連結〉
名門ポイント: 中国地方26拠点を束ねる医療総合商社で、2025年3月期の連結売上高1,766 億2,480 万円を計上した。本社を含む従業員数は1,192名(2025年4月1日現在)に達し、尾道・宇部の2大物流センターを核に24時間監視体制と顔認証管理を備えるGDP準拠の保管・配送網を構築する。2024年2月には廿日市市の中山間地域・離島向けにドローンによる医薬品輸送実証を実施し、災害時の迅速供給手段を検証した。医療機関・薬局への保冷配送では独自開発の「alf-GDP®Shipper/Container」で温度逸脱リスクを低減し、高度管理品の安定供給に寄与している。こうした取り組みにより、同社は地域医療のライフラインとしての責務を強化しつつ、グループのデジタル物流戦略を牽引している。
13 位 ひろぎんホールディングス〈広島市中区〉 経常収益 2,013 億6,800 万円〈2025/3・連結〉
名門ポイント:広島銀行を中核に証券・リースなど14社体制で総資産12兆1,319億円を抱え、地域総合サービスを拡大する。スマホ完結の住宅ローン電子契約を導入し、非対面取引を強化した。2024年7月にはCVC「ひろぎん Innovation 投資事業有限責任組合」(総額20億円)を設立し、スタートアップ支援と投資残高1,000億円目標(2028年度)を掲げる。法人ソリューションとエクイティビジネスの拡充で2026年3月期に経常利益570億円を目指す。
12 位 青山商事〈福山市〉 売上 1,936 億8,700 万円〈2024/3・連結〉
名門ポイント: 広島県福山市に本社を置く紳士服最大手で、2024年3月期の連結売上高は1,936億8,700万円だった。展開店舗は「洋服の青山」「SUIT SQUARE」など国内746店(2023年12月末時点)に達し、実店舗とECを連携させたOMO戦略を強化している。とりわけ自社アプリを核としたデジタル会員は750万人規模へ拡大し、アプリ経由の来店・購買を促進。ビジネスカジュアル需要に対応した「ゼロプレッシャースーツ」などセットアップ商品が好調で、スーツへの依存度を下げつつ客単価向上を図る構造改革が進行中だ。
11 位 ハローズ〈福山市〉 売上 1,954 億4,400 万円〈2024/2・連結〉
名門ポイント: 中四国で24時間営業スーパー広島・岡山など7県に107店を数え、神戸新聞 NEXTによれば全店が24時間営業を続けることで夜間需要を取り込んでいる。流通専門誌「商人舎ニュース」は、香川県坂出ロジスティクスセンターの稼働により、常温・低温・冷凍の3温度帯商品を1拠点でカバー。生鮮物流を一括管理できると報じた。長期ビジョンでは「180店・3,000億円構想」を掲げ、プライベートブランド「ハローズセレクション」の拡充や自動発注による在庫回転向上など、物流とデータ活用の効率化で持続成長を狙う。
10 位 中電工〈広島市中区〉 売上 2,010 億2,500 万円〈2024/3・連結〉
名門ポイント: 2024年3月期連結売上高は2,010億2,500万円(前期比6.3%増)で過去最高を更新した。同社は有価証券報告書で「中電工グループ2030ビジョン」を掲げ、2027年度に連結売上高2,700億円・営業利益230億円・ROE7%超を目標とするなど、成長軌道を数値で示した。事業拡大の柱には再エネPPAや蓄電池設置、EV充電インフラを位置づけ、自治体との包括協定で案件獲得を進める。保守領域ではドローンとAI解析を組み合わせた鉄塔・送電線点検システムを実用化し、現場作業時間を従来比60%短縮、画像解析効率を2倍に高めたと地元報道で紹介された。こうした攻守両面の施策により、受注残高5年分相当の事業ボリュームを維持しつつ、2027年度目標の達成を目指している。
9 位 エフピコ〈福山市〉 売上 2,221 億円〈2024/3・連結〉
名門ポイント:食品トレーで国内首位のメーカーで、2024年3月期連結売上高は2,221億円と過去最高を更新した。会社四季報オンラインによれば国内シェアは約3割に達する。使用済みトレーやPETボトルを再生する「トレーtoトレー」「ボトルto透明容器」を全国9拠点のリサイクル工場・選別センターで実施し、独自物流網が全国約1万1,000カ所の店頭回収を支える。リサイクル施設の累計見学者は2023年に50万人を超え、循環型モデルを社会へ公開している。さらに2024年11月、DICと共同で色柄付き発泡トレー由来の再生ポリスチレンを年間1万トン供給できる設備を三重県四日市で稼働させ、化石由来プラスチック削減を加速している。
8 位 リョービ〈府中市〉 売上 2,933 億円〈2024/12・連結〉
名門ポイント: 2024年12月期に連結売上高2,933億1,400万円(前年比3.8%増)を計上し、ダイカスト世界3位の地位を維持した。主力のダイカスト事業では、EV用大型アルミ部品の需要増に対応して静岡・菊川工場に6,500トン級「ギガプレス」を2025年3月稼働で導入済みと公表し、国内メーカー向け試作受注を獲得した。印刷機器部門はデジタル印刷とサービスを組み合わせた新製品を投入。海外売上高比率は63%に達し、北米・欧州での自動車軽量化需要を取り込んでいる。さらに2030年度までにダイカスト売上3,000億円を目指す中期計画を掲げ、生産・開発拠点のグローバル最適化を進めるなど、次世代車向け“ギガキャスト”市場を視野に成長戦略を加速している。
7 位 福山通運〈福山市〉 売上 2,875 億6,300 万円〈2024/3・連結〉
名門ポイント: 路線トラックを主力に企業間小口貨物を扱う総合物流大手である。2024年3月期の連結売上高は2,875億6,300万円に達し、営業利益104億円を確保した。車両保有台数は約1万6,664台、全国394拠点網で大口・重量物にも対応する。個人宅向け配送は日本郵便へ委託し、経営資源をBtoBに集中させる体制を続ける。環境分野では専用ブロックトレイン「福山レールエクスプレス号」やダブル連結・FCトラックの導入を通じ、年間8万トン超のCO₂排出削減を報告し、モーダルシフトを加速している。さらに2025年4月にはタイのフォワーダー企業を60%出資で買収し、ASEAN域内の国際物流サービスを拡充した。
6 位 ツネイシホールディングス〈福山市〉 売上 3,656 億円〈2024/12・連結〉
名門ポイント: 造船・海運・商社などを束ねる持株会社で、**2024年12月期の連結売上高は3,656億円(前年比16%増)**と過去最高を更新した。中核の常石造船は、風圧抵抗を低減する独自の「AEROLINE」技術を採用したエコバルカー TESS66 を開発し、2024年11月にメタノール二元燃料モデルを進水。NOx80%・SOx99%・CO₂10%削減を実証し、EEDIフェーズ3にも適合する次世代船として注目を集めた。さらに 商船三井・三井E&S造船と共同でアンモニア燃料液化ガス船の開発を進め、ゼロエミッション船の市場創出を狙う。デジタル化では、顔認証プラットフォーム「FreeiD」を国内外9拠点に導入し、入退管理と勤怠を無人化することで生産現場の省人化を加速している。環境技術とDXを両輪に、建造コストの低減と付加価値向上を図り、世界市況の波を先取りする体制を固めている。
5 位 イズミ〈広島市東区〉 売上 5,241 億4,200 万円〈2025/2・連結〉
名門ポイント:2025年2月期連結営業収益は5,241億4,200万円(前期比11.2%増)となった。これは決算短信によるもので、営業利益率は4.9%を維持した。同社は中四国・九州を中心に総合スーパー「ゆめタウン」や食品スーパー「ゆめマート」など265店を展開し、ドミナント戦略とM&Aで店舗網を拡大している。電子マネー「ゆめか」の累計発行枚数は1,067万枚、ゆめアプリ会員は231万人に達し、購買データ分析を活用した需要予測と個別販促で収益性を高めている。さらに、2024年7月に中国電力と再生可能エネルギー電力のオフサイトPPA契約を締結し、中国地方5店舗で使用電力を100%再エネ化するなど脱炭素施策も加速する。長期ビジョンでは2030年度に営業収益1兆円、300店舗体制を掲げ、九州の大型SC開発やDX投資を通じ地域小売シェアの拡大を狙う。
4 位 大創産業〈東広島市〉 売上 6,249 億円〈2024/2・連結〉
名門ポイント: 2024年2月期の連結売上高6,249億円(前年比6.0%増)と過去最高を更新した。100円ショップ「DAISO」は国内4,341店、海外26の国・地域に984店を展開し、全世界5,325店体制を構築する。商品数は約7万6,000アイテムで、月1,200点の新商品を投入する自社開発主導型モデルが強みだ。中価格帯業態「Standard Products」は2025年3月末で186店まで拡大し、良質素材の300円商品で新市場を開拓している。さらに坂町や神奈川の最先端RDCではAGVや自動仕分け設備を導入し、倉庫運営コストを従来比3〜4割削減するなど高効率物流を実現し、年間400店規模の国内外出店を支える体制を固めた。
3 位 エディオン〈広島市中区〉 売上 7,210 億8,500 万円〈2024/3・連結〉
名門ポイント: 家電販売にリフォームや太陽光発電施工を組み合わせるオムニチャネル戦略を推進する量販大手。本社事務所は大阪市だが、創業地広島の店舗網が中四国の集客基盤となる。決算短信〔日本基準〕(連結)によれば、2024年3月期の連結売上高は7,210億8,500万円で過去最高圏を維持した。アナリストレポート(ストーム・コーポレート)によると売上構成は家電85%、EC経由5%、リフォーム・太陽光などELS事業8.6%を占める。流通専門誌BCN+Rは旗艦店「エディオン蔦屋家電」(広島市)が余裕ある陳列と書籍導入で顧客滞在を長引かせ、固定客化を図る店舗モデルだと報じる。統合報告書2023年版によれば、直営454店・FC748店の全国ネットを基盤にEV充電器や蓄電池施工を拡大し、2030年度に売上1兆円を目標とする長期ビジョンを掲げている。
2 位 中国電力〈広島市中区〉 売上 1兆5,292 億円〈2025/3・連結〉
名門ポイント: 中国5県の電力を担う広域電力会社で、2025年3月期の連結売上高は1兆5,292億円、営業利益1,291億円を計上した。送配電部門は2020年4月に「中国電力ネットワーク」として法的分社化し、鉄塔点検DXなど機動的な投資を進める。再エネ拡大では、北九州市・響灘沖で3,000kW浮体式洋上風力の商用運転を2025年4月に開始し、国内初のバージ型設備で運営ノウハウを蓄積した。さらに島根県隠岐諸島で6,200kWハイブリッド蓄電池実証を完了し、離島系統での出力変動抑制技術を確立。グループは2050年カーボンニュートラルを宣言し、水素・アンモニア混焼やCCUS導入を検討中で、瀬戸内洋上風力と大容量蓄電池を組み合わせた「グリーンパワーリンク構想」を通じ、脱炭素と安定供給の両立を目指している。
1 位 マツダ〈安芸郡府中町〉 売上 4兆8,277億円〈2024/3・連結〉
名門ポイント:マツダは2024年3月期に売上高4兆8,277億円(前期比26%増)を計上し、同社として過去最高を更新した。決算説明資料によると、米国・メキシコ販売がともに過去最多となり、北米が成長を牽引した。広島・防府の両工場では既存ラインでガソリン車と次期EVを混流生産する計画を進め、初期投資と立ち上げ期間の圧縮を図る。物流面ではモーダルシフトを進め、2023年度の国内鉄道輸送比率は25%に達し、CO₂排出量を約159トン削減した。また、広島大学との産学連携で微細藻由来バイオ燃料の実証研究を続け、多様なパワートレーン戦略を支える。2025年夏には東京・麻布台ヒルズに生成AIなどソフトウエア開発を担う新R&D拠点を開設し、次世代EVとコネクテッドサービスの競争力強化を図る計画である。
総評
ランキングを俯瞰すると、マツダ(売上 4.8 兆円)と中国電力(同 1.5 兆円)の二社が県内総生産をけん引し、その下に「エディオン/イズミ」の流通2強、「ツネイシホールディングス/福山通運」の海運・物流勢が続くピラミッド型構造が際立つ。20位圏にはアンデルセングループやオタフクソースなど地場の未上場食品企業が台頭し、広島ブランドの裾野を広げる。各社共通のキーワードは脱炭素とデジタル変革だ。マツダは鉄道比率五割の低炭素サプライチェーン、中国電力は洋上風力と大容量蓄電池の“グリーンパワーリンク構想”で先行し、造船や食品容器分野でもCO₂削減技術が浸透する。併せてMO/AGV/AI点検などデジタル投資が一段と加速しており、産業間シナジーを生かした地域発イノベーションが広島経済の次の成長エンジンとなろう。