
AIスタートアップの雄とされたBuilder.aiが破産。AI自動化を謳いながら実態は人海戦術。不正会計も明るみに出ており、AI業界全体に影を落とす事件となった。
AI企業の急成長とその裏側
イギリス・ロンドンを拠点とするAIスタートアップ「Builder.ai」は、「誰でも簡単にアプリを作れる」というノーコード開発プラットフォームを掲げ、MicrosoftやSoftBank、カタール投資庁などから総額4億4500万ドル(約640億円)を調達。一時は企業価値15億ドルのユニコーン企業と評価された。
同社が開発したとされるAIアシスタント「Natasha」は、利用者の希望に沿ってアプリを自動生成する画期的な技術とされていたが、実際には約700人のインドとウクライナのエンジニアが手作業でコードを書いていたことが発覚。AIの名を借りた“偽装”であったことが明るみに出た。
実態と乖離した売上高予測
Builder.aiは2024年の売上を2億2000万ドルと投資家に報告していたが、実際には5500万ドル程度しかなく、報告値の4倍にも及ぶ売上水増しが行われていたとされる。2023年の売上も同様に、報告値1億8000万ドルに対して実績は4500万ドルにとどまっていた。
このような虚偽の財務報告は、インドのVerSe Innovationとの間で行われた循環取引(ラウンドトリッピング)による架空売上計上が一因とされている。VerSe側は関与を否定しているが、重大な会計不正の構図が浮かび上がっている。
経営交代と最終的な破産
2025年2月、創業者のサチン・デブ・ドゥガル氏が退任し、後任にはマンプリー・ラティア氏が就任。財務の健全化を図るため監査法人による調査を実施するも、時すでに遅し。同年5月、債権者のViola Creditが3700万ドルを差し押さえたことで、Builder.aiは資金繰りに行き詰まり、破産申請に至った。
同社の資産は差し押さえ直後、現金残高が5百万ドル以下となり、従業員への給与支払いも不可能な状態となっていた。
AI企業の信頼性に打撃
Builder.aiの破綻は、単なるスタートアップの失敗ではなく、業界全体における「AIウォッシング」問題の象徴的な事例といえる。名ばかりのAI技術で資金を調達し、実態は人力に依存していた同社の手法は、多くのAIスタートアップに共通する構造的な問題を浮き彫りにした。
CB Insightsによると、2024年にはAIスタートアップに対するベンチャー投資が1000億ドルを超えたが、その多くが実用性に乏しい技術やビジネスモデルを抱えているとの指摘がある。
顧客企業への深刻な影響
Builder.aiを利用していた中小企業やスタートアップにとっても、影響は計り知れない。プラットフォーム上で開発されたアプリやウェブサイトが突然使用不能となり、ソースコードやデータへのアクセスも断たれた。再構築には時間と資金が必要であり、事業継続への影響は甚大である。
この事件を契機に、「SaaSエスクロー」などのベンダーリスク対策の重要性が改めて注目されている。
AI業界の今後と教訓
Builder.aiの破綻は、AIスタートアップの実力と誇大広告との間にあるギャップを突きつけた。実際、多くの企業がGPT-4やClaudeなどの汎用AIに依存し、自社の技術的差別化を果たせないまま市場に参入している。
業界専門家は、「2026年までにAIスタートアップの99%が淘汰される」と予測。過度な期待と資金が一部企業に集中するなか、実体のない企業が生き残ることは難しいとされる。
まとめ:AI業界に突きつけられた現実
Builder.aiの崩壊は、単なる企業の失敗ではなく、AI業界が直面する「技術幻想」と「投資過熱」の危うさを浮き彫りにした。AIの未来に希望があることは確かだが、その実現には地道な開発と透明性、そして持続可能なビジネスモデルが求められる。
投資家、開発者、顧客すべてがこの事例から学ぶべき教訓は多い。次なるBuilder.aiを生まないために、AIブームの裏側にある現実を直視する必要がある。