
熱中症に対する危機意識が社会全体で高まっている。背景には、地球温暖化による猛暑の常態化と、命に関わる重篤な事例の増加がある。住友生命グループが提供するスマートフォン専用保険「熱中症お見舞い金」は、2025年度に入って過去最速で1万件の契約を突破。さらに6月からは、事業者に対し熱中症対策を義務化する新たな省令が施行される。個人と企業の双方に対策が求められる中、自治体や国の支援制度にも注目が集まっている。
スマホから即加入 保険で“万が一”に備える個人
住友生命傘下のアイアル少額短期保険が提供する「PayPayほけん」の「熱中症お見舞い金」は、スマートフォン決済アプリ「PayPay」専用で契約できる手軽さが好評だ。加入者が熱中症により病院で点滴を受けた場合には治療保険金が支払われ、1泊2日以上の入院を要した際には入院保険金も受け取れる。保険料は月額型で200円、期間選択型は1日100円からという低額設定だ。
この保険は毎年4月から10月の期間限定で提供されており、2022年の提供開始以来、利用者数は右肩上がり。2024年度は13万2,000件を突破し、2025年も5月8日の時点で契約数が過去最速で1万件を超えた。加入者の多くは、屋外作業者や高齢者、通勤通学中の家族を持つ人々だと見られている。
企業にも義務と罰則 6月施行の法改正
厚生労働省は2025年6月より、省令改正に基づいて事業者に熱中症対策を義務づける。義務化される対象は「暑さ指数(WBGT)28以上または気温31度以上」の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超える作業を行う事業所。
企業には以下の対策が求められる:
- 連絡体制の整備:症状を訴えた労働者が迅速に報告できるよう、事業所ごとに担当者と連絡先を設置する。
- 症状悪化の防止策:冷却処置や医師による診察など、症状進行を防ぐ対応策の明文化。
- 従業員への周知:作業前の教育や注意喚起の徹底。
違反した場合は、懲役6カ月以下または罰金50万円以下の罰則が科される可能性がある。これは、2022年・2023年ともに30人以上の労働者が職場で熱中症により命を落とした事態を受けた措置である。
熱中症の応急処置――命を守る行動とは
万が一、身近な人が熱中症と疑われる症状を訴えた場合、迅速な応急処置が命を救う鍵となる。以下は、専門機関が推奨する主な対処法である。
1. すぐに涼しい場所へ移動させる
屋内のエアコンが効いた部屋や日陰など、直射日光を避けられる場所へ速やかに移動させる。
2. 衣類を緩め、身体を冷やす
首筋、脇の下、足の付け根などを中心に、保冷剤や濡れタオル、うちわなどで冷却する。服のボタンを外すなどして通気性を確保する。
3. 水分と塩分を補給する
意識があり、飲み込む力がある場合は、冷たい水やスポーツドリンク、経口補水液などを少しずつ飲ませる。意識が朦朧としている場合は無理に飲ませず、速やかに救急車を呼ぶ。
4. 意識や反応の確認
返答がはっきりしない、反応が鈍い、けいれんを起こしている場合は、重症の可能性がある。ためらわずに119番通報を行う。
国や自治体による支援制度
1. エアコン設置助成(高齢者・低所得世帯)
一部自治体では、熱中症リスクの高い高齢者世帯や生活困窮世帯を対象に、エアコン設置費用を補助する制度を実施している。たとえば東京都世田谷区では、所得に応じて上限10万円の補助金が支給されている。
2. 熱中症予防キットの配布
埼玉県など一部自治体では、独居高齢者に向けて水分補給用ドリンクや冷却シート、経口補水液を含む「熱中症予防キット」を無料で配布している。
3. 中小企業向け補助金・助成金
中小企業を対象に、作業環境の改善(スポットクーラーの導入、遮熱資材の購入など)や健康管理体制の強化に向けた費用を支援する補助金制度も各地で実施されている。
- 【例】厚労省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・職場環境改善コース)」
- 支給額:対象経費の3/4(中小企業)、上限100万円
4. 教育機関での啓発支援
文部科学省は、学校における熱中症対策マニュアルの更新と、屋外活動時のWBGT測定器の導入支援を行っている。
高まる“自衛”と“共有”の意識
熱中症は予防可能な災害であるにもかかわらず、毎年多くの命が失われている。スマホアプリによる手軽な保険加入、法制度による企業の義務化、自治体の支援と、社会全体での備えが急速に進んでいる。個人のリスク管理と組織的な対応の両輪で、この“見えない災害”に立ち向かうことが求められている。