
警察車両へと乗り込む際、報道陣のフラッシュが一斉にたかれる中を、どこかけだるそうに歩く奥本美穂容疑者(32)の姿があった。視線は虚空をさまよい、表情に焦点は合わず、にもかかわらず強烈な存在感が画面越しに伝わってくる。その容貌とふるまいは、ただの被疑者のそれではなく、まるでフィルム・ノワールのワンシーンのようであった。
美人すぎる容疑者にSNS騒然
SNSはたちまちこの女の正体探しに火がつき、「美人すぎる容疑者」「すっぴんでこれとは」「令和のファム・ファタール」などの声が噴き出した。容疑者が使っていたInstagramのアカウント名は“@erika_femmefatale”。そう、男を破滅へ導く妖艶な女——femme fatale(ファム・ファタール)そのものだ。
ファム・ファタールとは何か
“ファム・ファタール”とはフランス語で「運命の女」、あるいは「破滅へと誘う女」という意味を持ち、19世紀ヨーロッパの象徴主義文学に登場する魔性の女像をルーツとする。ハリウッド映画のフィルム・ノワールでも象徴的な存在となり、現代ではセクシーで危険な魅力を持つ女性の代名詞として使われている。
奥本容疑者は、そんな言葉をアイデンティティとして掲げていた。では、この“魔性”はどこから始まったのか。
京都から上京、華やかな肩書きの数々
出身は京都。地元では地方美少女の登竜門ともされる『京都美少女図鑑』に掲載されていたという。その後、上京して一時は都内の大手広告代理店に勤務していたというが、ほどなく芸能方面へと進路を変える。トヨタのレースクイーン、花王のCMモデル、グラビアアイドル、さらにはバンドのボーカルまで、肩書きはまさに“多才”にして“多面体”。
Instagramの自己紹介欄にはこれらの経歴が一列に並び、自身のプロポーションを強調するような投稿も多数。生活の拠点は都内、最近では六本木のキャバクラに勤務していたという情報もあり、少なくとも2025年の年明け頃までは店に出ていたが、突如として姿を消したという証言がある。
スピリチュアルと不穏な投稿
その姿は「定職を持たない港区女子」の典型か、それとももっと別の何かか。彼女のSNSには、突如としてスピリチュアルな言葉が散見されるようになる。
〈モットーは邪気を払ってポジティブに〉 〈盛り塩の交換〉 〈塩と日本酒風呂に入る〉 〈夢ノートを見返す〉
一方で、こんな投稿も確認されている。
〈シラフなのに職質されるなんて…。眼瞼下垂なだけだっつーの! こんな限りなく人間に近い豚がシ◯ブ中なわけねいだろwww 私、清め塩をパケに入れてて「これなんですか?」って聞かれたので撒いたろうかとおもた〉(2025年2月10日・原文ママ)
この投稿は、後に薬物所持での逮捕という現実とつながる“予言”として、ネット上で再拡散された。
事件が発覚したのは、田中剛容疑者(60)と奥本容疑者が東京都千代田区の高級ホテルに滞在していた際のこと。部屋からは覚醒剤0.208グラム、コカイン0.859グラムが押収された。警察の到着は何らかのトラブルにより呼ばれた結果とされ、室内には別の女性もいたとみられている。
彼女は破滅を選んだのか
ネット上では、逮捕後の奥本容疑者の映像に対し「港区女子の末路」「けだるげで逆にカッコいい」「魔性すぎて笑う」といった投稿があふれた。その存在は、“容疑者”であると同時に、“物語”として消費され始めている。
「ファム・ファタール」は、魅力という名の毒を武器に男たちを虜にし、そして破滅させる。だがその裏では、自らもまた呪われたように道を踏み外していくのが定番の展開だ。奥本容疑者も、男を破滅させながら、自らもまた虚無へと誘われていたのか。
「今世は諦めた」と呟いた投稿は、ただの自虐ではなく、彼女の生き様を象徴するひと言なのかもしれない。