パーティー券と現金封筒 10年にわたる“支援”の実態

石破茂首相(68)をめぐる重大な証言が、元側近の口から飛び出した。5月7日配信の「週刊文春 電子版」および翌8日発売の誌面において、石破氏の元随行係であり、政治団体「石破茂政経懇話会」の元代表でもある下根正宏氏(66=仮名)が、同首相に対して約10年間、現金で献金を行っていたと証言した。
下根氏は、2003年から2014年ごろまでの間、石破氏の政治資金パーティー券(1枚2万円)を毎年100〜300枚単位で現金購入。多い年には600万円に達したという。また、陣中見舞い名目で現金100万円を5回にわたり手渡したと語っており、総額は「3000万円は優に超える」と述べている。
封筒に詰めた現金を直接手渡しし、領収書の宛名や金額が空白のまま返されていたとも証言。文春が確認した政治資金収支報告書には、下根氏の氏名や社名の記載は一切なく、20万円以上の購入者を記載するよう定めた政治資金規正法に抵触する可能性がある。
石破事務所に対して週刊文春が取材を申し込むと、「政治資金については、法令に従い、適正に処理し、その収支を報告しているところです」との一文の回答にとどまった。
なぜ“今”暴露したのか 破られた仁義と“墓場まで”の裏切り
今回の告発が、なぜこのタイミングで表に出たのか。週刊文春はその理由について明言を避けているが、考えられるのは「何らかの便宜供与を期待したが拒否されたのではないか」という見方だろう。
政治的信頼関係にあったはずの両者が決裂した背景には、裏切られた側近の怨嗟がにじむ。政界では「一度“毒饅頭”を食べたら最後、共犯のまま沈んでいくのが仁義」と揶揄されるが、今回の暴露はまさにその“仁義破り”である。
とりわけ注目すべきは、これほど多額の支援を受けながら、その支援者に対して何ら報いなかったとされる石破氏の“非情さ”である。ここまで尽くし続けた元側近が、公然と「裏切られた」と感じ、告白に踏み切るほどの怒りを抱いたという事実そのものが、石破氏の人間関係のあり方を示しているといえる。
政界ではかねてより、石破氏に対し「人を使い捨てにする」といった否定的な評価も少なくない。信頼を寄せてくれた者すら顧みない姿勢は、今回の暴露を通じて一層明らかになったと見る向きもある。下根氏との長年の蜜月関係がこうして決裂を迎えたことは、石破氏が背負う“政治的人間関係の脆弱さ”を象徴する一件でもある。
文春の取材が突きつけた“もう一つの顔”
「週刊文春」では今回、訴訟資料や過去の写真を用いて、下根氏の告白を補強する数々の証拠も提示。もしこれらの内容が事実であれば、石破氏が政治資金の不記載だけでなく、架空事務所の偽装工作、領収書の偽造依頼まで関与していた可能性も浮かび上がる。
かつて「クリーンな政治家」として自民党の主流派から距離を置き、“異端の改革派”として期待を集めた石破首相だが、今となっては“その清廉さこそ虚像ではなかったのか”という根源的な疑問が生じている。
特に注目すべきは、文春が取材で掘り起こした下根家の故郷・鳥取での証言や現地資料、さらには偽装事務所の存在を示唆する過去の動きに至るまで、客観的情報と証言の整合性が非常に高い点である。記事全体を貫く緻密な検証と関係者証言の蓄積は、読み手に強い確度を印象づける渾身の調査報道といえよう。
仮に事実なら「完全にアウト」 参院選にも影響必至か
政権発足当初から、党内における“派閥裏金”問題を逆手に取り「クリーンなイメージ」を前面に出していた石破首相。だが、就任早々に発覚した2000万円支出問題や商品券配布の不祥事により、すでに支持率は低空飛行。今回の件が仮に事実であれば、石破氏の政治生命どころか、政権の存続自体が危ぶまれる深刻な局面に突入する。
NHKの世論調査では、内閣支持率が30%台に沈み、不支持率を下回る状況が続く中、参院選を控える与党にとって、この「闇献金」疑惑はまさに決定的な一撃になりかねない。とりわけ、自民党が少数与党に追い込まれるほどの支持基盤の脆弱さが露呈するなかで、首相自らが“金の問題”の渦中にいるという構図は、参院選において旗色をさらに悪くする要因となりそうだ。
政治資金にまつわる数々の疑惑と証言。そしてそれが“実際に記録に残っていなかった”という事実――。「週刊文春」による今回の報道は、単なるスキャンダルの域を超え、政権の命運を左右しかねない重大局面を告げるものといえる。