WeWorkから不動産ユニコーンへ転生

シェアオフィス事業「WeWork」で一世を風靡した創業者アダム・ニューマン氏が、新たな不動産スタートアップ「Flow(フロー)」を立ち上げ、再び注目を集めている。
かつて同氏は急拡大に伴うガバナンスの欠如や巨額赤字などによってWeWorkを追放されたが、今回のプロジェクトには米大手VCアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が再び巨額投資を主導している。企業評価額は25億ドルに達し、設立とほぼ同時にユニコーンの仲間入りを果たした。
新たな住宅体験:シェアハウスを“上流”へ拡張
Flowが目指すのは「住まいの再定義」だ。従来のシェアハウスの仕組みに近いが、単なる賃貸管理にとどまらない。アプリやAIを駆使したプロパティマネジメントと、高級レジデンス並みのサービスを組み合わせることで、テクノロジーとコミュニティの融合を図っている。物件にはスパ、ジム、コワーキングスペースなどを併設し、居住者専用アプリを通じたイベント運営や交流の場を提供することで、「孤独になりにくい暮らし」を訴求する。
さらに、賃貸でも物件の資産価値に何らかの形で関与できる仕組みを検討しており、今後は暮らしそのものが経済的メリットにつながる可能性を探っているという。
“再挑戦”は本物か、それとも幻か
過去、ニューマン氏は投資家や市場の信頼を著しく損ない、その後のWeWork再建はソフトバンクが主導する形となった。ゆえに今回の巨額支援には「失敗に対するガバナンスが働くのか」「白人男性で連続起業家だからこその優遇ではないか」といった厳しい視線も少なくない。
一方で、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者であるマーク・アンドリーセン氏らは、経験を積んだニューマン氏ならではのブランド構築力とイノベーションへの期待を強調している。ニューマン氏本人も「ペースを落とし、厳しい意見にも耳を傾ける」と語り、ガバナンス面に配慮しながら事業を育てる姿勢を示している。
見た目は変わったが、「本質的にニューマン流のリスクテイクとビジョン志向」はなおも色濃く残っており、失敗を乗り越えたというよりも“磨かれた同じ哲学”を感じさせる。つまり、これは全く新しい方向転換ではなく、WeWork時代の延長線上にある進化とも捉えられる。
この磨き直された再挑戦が真のイノベーションになるか、あるいはかつての幻想の繰り返しに終わるのか――。その分かれ目は、黒字化の実績と、組織としての持続性が証明されるかどうかにかかっている。
やり直しを認める社会への示唆
失敗しても再び挑戦できる米国の土壌は、多くのスタートアップを生む“原動力”でもある。度重なるトラブルを起こした起業家であっても、再び大きな投資を受け、新たな事業に挑むことができる。その寛容さこそがイノベーションを生み出す要因だという見方は根強い。
一方で、日本では一度の失敗が長く尾を引きがちで、「失敗した=人間性にも問題がある」とみなす風潮も残るという指摘がある。この対照的な姿勢が、次世代の起業家の動機づけや経済活性化にも影響しているという声は少なくない。
Flowが真に新たな住宅体験を創出するのか、あるいはWeWorkの失敗を繰り返すのかは今後のガバナンスや収益性の動向次第だろう。しかし「失敗からの再挑戦」が可能な社会のあり方については、改めて注目を集めそうだ。