![クラシコ BPLab](https://coki.jp/wp-content/uploads/2025/02/Classico-BPLab-TOP.jpg)
医療現場のユニフォームや白衣は、毎日の激務を支える道具でありながら、用済みになると大量に廃棄されてしまう実態がある。いわゆる「使い捨て」の慣習は当然のことのように続いてきたが、近年、こうした大量廃棄を見直す動きが少しずつ広がっている。
医療従事者向けアパレルを手がけるクラシコ株式会社のビジネスプロモーション&サステナビリティディヴィジョン部門長有岡優希氏と、繊維製品を回収・再資源化するサーキュラーエコノミーのプラットフォーム事業を展開する株式会社BPLab取締役・渡邉桂子氏に話を聞いたところ、両者が2024年6月にタッグを組み、医療従事者の白衣やユニフォームの「捨てない」仕組みづくりに挑戦していることがわかった。
昨年クラシコは、新たにミッションを刷新し、「医療現場に、感性を。」という理念のもと、メディカルアパレルブランド「クラシコ」だからこそ体現できるサステナビリティを目指している。
本プロジェクトは実際に9月から本格始動し、クリニックを中心に少しずつ回収量を増やし始めているという。かつては当然のように「燃やされる」か「埋め立てられる」かしか選択肢がなかった医療ユニフォームを、どのように循環させているのか。その全容を探ってみた。
医療ユニフォームはなぜ捨てられてしまうのか
![クラシコの白衣](https://coki.jp/wp-content/uploads/2025/02/cracico-hakui.jpg)
白衣というと、病院内を忙しく駆け回る医師や看護師の姿を思い浮かべる人が多いだろう。一定年数が経ったら廃棄されることが少なくない。さらに病院やクリニックの大規模なユニフォーム入れ替え、あるいは在庫として抱えていた販売不可品の処分など、大量の白衣やユニフォームが一気にごみ処理へ回るケースもある。
加えて医療従事者の業界では、白衣やユニフォームを個人が自費で購入する例と、病院がまとめて購入する例が混在する。病院がまとめて購入する場合は、リネンサプライ企業というクリーニングやレンタルを管理する専門会社が在庫をもつケースも多く、所有権や判断権が複雑に分かれているのが実態だ。
![渡邉桂子 BPLab](https://coki.jp/wp-content/uploads/2025/02/BPLab-watanabe-2.jpg)
渡邉氏
「ユニフォームは同じデザイン・素材が大量に出回っているので、本来はリサイクルに向いています。しかし、医療従事者が日々着用するため衛生上のハードルも高く、血液が付着する場合などは“燃やすしかない”と短絡的に処理されがちでした」
一方、病院やクリニックの経営者、あるいは個人で白衣を購入する医師たちのなかには、「使えるものを捨てるのはもったいない」「大量に廃棄すると聞くと気が咎める」という声もあった。実際に廃棄の現場を目の当たりにすると、ロッカーに積み重ねられたままのユニフォームをどうにかできないものかと頭を抱える人も多かったという。
しかし、どの企業・どの段階で回収と再資源化を行うかが不透明なまま、結局は“行き場のない在庫”として倉庫やロッカーに山積みとなる、という構図が長く続いてきた。
サステナビリティへの一歩 クラシコ社内有志の取り組み
医療ユニフォームの課題に向き合うクラシコ株式会社は2008年の設立以来、医師や看護師向けの白衣やユニフォームを手がけてきた。元々テーラードスーツの仕立て技術を応用して、体のラインが美しく映えるシルエットと機能性を両立させる独自のデザインを強みに、医師や看護師からファンを獲得してきた企業だ。
実際、同社が実施したアンケート調査(2024年8月/回答者419名)では、「クラシコを知っている」医師は47%に上るという。
そのクラシコには、従来の部署横断的に「サステナビリティを考える有志」が集まり、意見交換を行う場があった。メンバーは部署や立場にかかわらず「環境対策を進めたい」「企業としての使命感を大切にしたい」という想いでアイデアを出し合っていたが、医療従事者のユニフォームを「捨てない」仕組みづくりをするためにはどうしたらよいか、環境負荷を減らす施策の“入り口”が見つかっていなかった。
そこに2024年2月に入社したのが、ビジネスプロモーション&サステナビリティディヴィジョン統括の有岡優希氏。大学時代から環境問題の研究に携わり、環境調査会社やCSRコンサルでのキャリアを経てクラシコへ合流した人物だ。
![有岡優希 クラシコ](https://coki.jp/wp-content/uploads/2025/02/Classico-Arioka-Yuki.jpg)
有岡氏
「もちろん生産工程や素材の見直しも大切なのですが、まずは“出口”から取り組むほうが自分たちの規模でも着手しやすいのでは、と考えました。折しもBPLabさんの紹介を受ける機会があり、お話を聞くうちに『ここなら捨てずに済むスキームが作れる』と感じたんです」
同年3月、BPLabと面談を重ねた結果、6月には両社の契約が成立。「社内で抱えていた廃番サンプルや検品不合格品など、いわゆる再販が難しい商品をまず回収しよう」と動き出した。その第一弾の回収量は約1トン。廃棄する以外に方法がなかったはずの大量の在庫が、循環に回されることになった。
回収から再資源化まで――BPLabがつなぐ循環の輪
クラシコのパートナーであるBPLabは2021年に創業し、本社は東京・外苑前に置く。「繊維製品の回収・再資源化・再製品化」を一手に担う、いわゆるサーキュラーエコノミーのプラットフォームを運営する企業だ。取締役の渡邉氏によれば、2024年度(2025年3月期)には年間1万トン近い繊維製品を回収・循環化へと回す見通しで、「それでもまだ日本国内の繊維廃棄量全体からみればごく一部」なのだという。
![渡邉桂子 BPLab](https://coki.jp/wp-content/uploads/2025/02/BPLab-Watanabe-Keiko.jpg)
渡邉氏
「服飾業界では、すでに“リサイクル素材を使った服”が一定の広がりをみせています。ただ、実際には、ペットボトル由来のリサイクル繊維が多く、必ずしも廃棄衣料のリサイクルには直結していないんです。つまり“循環経済”としては不十分で、『日本で出た繊維を日本で再資源化し、また日本の製品に活かす』という仕組みはまだまだ少ない。
そこを一社単独で実現するのは難しく、私たちのように複数の工場、分別先、資源化先をつなぐプラットフォームが活かされるのです」
BPLabは、回収した繊維製品を分別することによって、その製品の混用率に沿って、適切な再資源化に振り分ける。ポリエステルXナイロンなどの2種類以上の混用率のものはリサイクルがまだ技術的に難しく、混紡として自動車内装材にリサイクルされる。
さらにネーム刺繍や病院名ロゴなど、個人情報やセキュリティ上の懸念があるパーツも厳重に管理・処理する。こうした多角的な工程をすべて包括するシステムを企業側に提供しているのだ。
渡邉氏
「医療ユニフォームは、使い終わると管理が曖昧になるケースが多い。そこに BPLabが、回収リサイクルのスキームを提供することで、ユニフォームを適切に回収して、循環させることができます。そうすることで初めて捨てずに済む選択が可能になるんです」。
現場の声――「もったいない」思いから動き出す個人医師たち
クラシコでは、2024年の夏から秋にかけて試験的なキャンペーンを実施。実際にクリニックの医師や看護師が不要となった白衣・ユニフォームをクラシコ宛てに送ると、商品の割引に加え、希望者には買い替えにより不要となったユニフォームの回収を無料で行う仕組みを導入した。
これによって自宅やロッカーに眠っていた医療ユニフォームが少しずつ回収されている。
![クラシコ BPLab](https://coki.jp/wp-content/uploads/2025/02/Classico-BPLab.jpg)
有岡氏
「中には『送るための送料は手間だけど、それでも捨てたくなかった』とおっしゃる先生もいました。白衣は日々の業務をともに過ごした“相棒”のような存在なので、処分する際に心が痛む方は少なくない。廃棄せず循環できるなら協力したい、という声を多数いただいています」
まだ回収総量は決して大きくはないが、着実に動きが広がりつつあるのを社内でも手応えを感じているという。メーカー側の在庫だけでなく、実際に医療の現場で使い終わったユニフォームが循環に回ることで、捨てられるはずだった繊維の多くが再び資源として生まれ変わる見通しだ。
医療ユニフォームから始まる可能性 業界内外への波及効果
渡邉氏によれば、2023年頃からユニフォーム業界全般に「回収して捨てない」動きが少しずつ高まっているという。企業制服や作業着は、数年ごとに大幅な入れ替えが行われ、そのたびに大量の廃棄が発生してきた。ユニフォームは同質・同素材でまとまった量が出るため、分別作業がしやすいメリットがあるものの、セキュリティ上の懸念や所有権の所在などクリアすべき課題は多い。
渡邉氏
「クラシコさんが、医療用ユニフォームという『一番セキュリティ意識の高い領域』で回収を始めたことは非常に意義があります。ユニフォームが流出すると医療機関の名入りのまま人が出入りできてしまう”というリスクもある。だからこそ厳重管理が必須ですが、その分プラットフォームを通じてうまく循環すれば“こんな難しい分野でもできるんだ”という成功モデルになり得るんです」
その他の医療ユニフォーム企業に対して、この取り組みは良い刺激になっているという。クラシコの例を参考に、同業各社が「うちも導入したい」と問い合わせをする動きがあるというのだ。医療機関やクリニックにも波及し、次第に「廃棄は仕方ない」という発想から「まずは回収・再資源化を検討してみよう」という風土が広がりつつある。
「モノづくり」からも挑戦――AI活用で裁断ロスを削減
クラシコは、出口側の取り組みだけでなく、生産プロセスでもサステナビリティ強化を進めている。2025年1月にリリースしたメンズ白衣「ショートコート・MOVE」は、AIによるパターン設計で生地の裁断ロスを低減するSynflux社の独自技術の技術を採り入れた商品。次のステップとしては、医療ユニフォームの定番ラインへの技術導入を検討しているという。
有岡氏
「医療ユニフォームはシーズンごとの流行に左右されにくいため、ひとつの型を長期間継続生産するケースが多い。そこにAIパターンを適用することで、時間が経つほど無駄が減り、結果的に長く使われる。それこそ真のサステナビリティだと思います」
さらに、医療従事者からのフィードバックを細かく反映させるのもクラシコの特長だ。ポケットの位置や数、タブレット端末を入れる大きめのポケットが欲しい、聴診器を引っかけるループを付けたいなど、多岐にわたる要望を開発段階で吸い上げる。スタイリッシュさを保ちつつも、現場で使いやすいディテールを実装することで着用者の満足度を上げ、1着を長く着続けてもらう施策につなげているのだ。
まずは自社がやり、少しずつ業界を変える
クラシコは認知度向上を背景に、いまなおファン層を拡大している。もともとテーラードスーツの技術を応用した美しいシルエットが特徴で、従来の「ペラペラした白衣」のイメージを覆すアプローチで注目を集めてきた。近年はモダンなデザインのユニフォームも人気を博し、リピート率の高さが同社を支えている。そうしたユーザーとの信頼関係を活かしながら、「捨てる」以外の選択肢を提示していく考えだ。
有岡氏
「私たちはまだ100人規模の企業で、大手のように一気に業界構造を変えられるわけではありません。けれども、まずは自分たちが真剣に取り組む姿勢を見せることで、“捨てないバリューチェーン”を少しずつ確立していきたい。そこに同調してくださる医療機関や販売パートナーが増えれば、業界全体のスタンダードにもつながるはずです」
BPLab側も、医療ユニフォームの循環化が軌道に乗れば社会的インパクトは大きいと期待を寄せる。「医療現場の必需品」であるユニフォームは、これまでは、廃棄を当たり前にしてきた。しかし今、その“当たり前”を見直し、循環の風が吹き始めているという。
渡邉氏
「在庫やサンプル、使い古したユニフォームまで合計すると、年間数万~数十万点の廃棄を抱える企業は少なくありません。そこから『捨てない』をスタートすれば、日本の繊維廃棄を大きく減らすことができるはずです」。
“捨てない”医療ユニフォームが示す未来
ユニフォームは、働く人たちの「もうひとつの顔」。特に医療従事者にとって白衣やユニフォームは、日常の激務を支える欠かせない存在であり、ときにモチベーションを高める重要なパートナーでもある。ところが、寿命を迎えたユニフォームの多くが焼却や埋め立てに回り、使い道を失っているのが現状だ。
クラシコとBPLabが取り組む循環型スキームは、「廃棄物」だったユニフォームを再資源化して新たな製品の原材料に変え、最終的には100%リサイクルを実現する道を切り開く。「捨てるのが当たり前」という医療業界の固定観念を崩し、持続可能な価値を創出する試みが着実に前進している。
今後、さらに病院や企業がこの取り組みに参画すれば、白衣やユニフォームから取り出された繊維が再び新しい医療ユニフォームへ生まれ変わる日も遠くはないだろう。
「まずは自分たちの在庫やお客様の不要品から、できるところから始める」
そんなクラシコの姿勢が、医療ユニフォーム業界のサステナビリティへの道筋を照らし出しつつある。
さらに、クラシコは「医療現場に、感性を。」というミッションのもと、医療現場に美しさや心地よさ、心を動かす要素を取り入れることにも注力している。単にデザインや機能性を改善するだけでなく、医療従事者や患者に温かさと心の豊かさを届けることを目指す。
医療現場の環境をより良く変革し、持続可能で豊かな未来を創造するため、今後のクラシコの挑戦に注目したい。
有岡優希……クラシコ株式会社
Business Promotion & Sustainability Division, Head
大学卒業後、環境調査サービスやサステナビリティに関するコンサルティング、化学メーカーでのCSR業務に従事。クラシコのミッションに共感するとともに、サステナビリティとの親和性の高さを感じ、2024年2月にクラシコに入社。
渡邉桂子……株式会社BPLab取締役
大手アパレル会社でキャリアをスタート。海外ライセンスブランドからSPAブランドまで、幅広く経験する中で、ファッションにおける、廃棄の現場を自らが体験。循環型産業への転換を目指し、サーキュラーエコノミーによる循環プラットフォームの運営会社BPLabの立ち上げに参加。