株式会社アクティブアンドカンパニー代表取締役社長 兼 CEOの大野順也氏に、奨学金問題解決のための新サービス「奨学金バンク」の全貌とその可能性を伺った。
奨学金という社会課題
奨学金は、戦後日本の経済成長を支えた重要な仕組みのひとつだ。1943年に国策として閣議決定されて以来、多くの若者に学びの機会を提供し、優秀な人材を育成してきた。
しかし、時代の変化に伴い、その制度の在り方には課題が浮き彫りになっている。
1989年度には30.6%だった日本の大学進学率が、2023年度には60%を越え、大学進学が一部のエリート層に限られたものから、多くの若者にとって一般的な進路となっている。
また、大学授業料はこの30年間で約1.5倍まで上昇しており、大学進学率と相まって、奨学金の利用者を増加させる結果を生んでいる。
現在、大学生の約55%が奨学金を利用し、卒業時には平均310万円もの借入れを抱えて社会に出る。その返済期間は平均14.5年にも及び、4割近くが30代後半まで返済を続ける状況だ。
こうした現実は、若者の未来に影を落とす。奨学金の返済負担は、起業やさらなる学びへの挑戦を妨げるだけでなく、結婚や出産といったライフステージの変化にも消極的な姿勢を与えかねない。
実際に奨学金の返済が原因で、生活が不安定になり、自己破産に至るケースも報告されている。
奨学金は本来、学びを支援するための仕組みである。しかし現在では、若者にとって“ただの借金”と化すことも少なくない。
こうした状況を踏まえ、社会全体で奨学金返済の課題に取り組み、持続可能な仕組みを構築することが求められている。
そこで登場したのが、株式会社アクティブアンドカンパニーが提供する奨学金返済支援サービス「奨学金バンク」だ。
このサービスは、企業や学生が奨学金問題を解決する新たなエコシステムであり、学生、企業、そして社会全体にとってメリットのある仕組みである。
奨学金バンクとは
奨学金返済を支援する「奨学金バンク」は、株式会社アクティブアンドカンパニーが2024年3月に開始した新しいサービスだ。
このサービスは、奨学金という社会課題に真正面から向き合い、返済の負担を軽減する仕組みを提供することで、企業、学生、そして社会全体に恩恵をもたらすことを目指している。
「奨学金バンク」は大きく3つのサービスから成り立っている。
一つ目は、「奨学金返済型人材紹介サービス」
このサービスでは、奨学金を返済している求職者を奨学金バンクの参画企業に紹介し、その際に発生する人材紹介フィーの一部を奨学金の代理返済に充てる仕組みを採用している。
これにより、求職者は安心してキャリア形成を進めることができ、企業はモチベーションの高い人材を獲得できるというメリットがある。
二つ目は、「奨学金返済支援サービス」
既存の従業員の中にも奨学金を返済している人は少なくない。同サービスでは、企業が原資を提供し、「奨学金バンク」が返済手続きを代行することで、従業員の負担を軽減する。
これにより、従業員は経済的な不安を減少させ、企業へのエンゲージメントを強化することができる。
三つ目は、「サステナ支援サービス」
このサービスは、奨学金返済に取り組む企業をブランディングの観点から支援するものだ。企業が奨学金返済支援を行うことは、サステナブルな取組みの一環としての評価を得られる。
SDGsの17のゴールのうち、「1.貧困をなくそう」、「4.質の高い教育をみんなに」、「8.働きがいも経済成長も」、「10.人や国の不平等をなくそう」の4つの取り組みにつながるため、サステナブルな取組みを行っているということを対外的に示すことが可能だ。
参画企業に対しては、支援企業ポータルへの掲載や、専用のロゴマーク・認定証を提供し、SDGsならびに企業の社会的責任(CSR)、サステナビリティの取組みをPRするサポートを行っている。
これらのサービスを組み合わせることで、「奨学金バンク」はただの借金返済の代理サービスにとどまらず、企業の人材戦略やブランディングに直結する価値を提供している。
代表の大野氏は、この仕組みを通じて「奨学金が持続可能なエコシステムとして機能する社会の実現を目指している」と語る。
企業と学生、双方にメリットがある奨学金バンク
学生にとってのメリット:返済負担軽減とキャリア形成への安心感
奨学金の貸与を受けた学生にとって、最も大きな不安は「返済」だ。
大学卒業後、平均14.5年にもわたり奨学金を毎月返済し続けることは、生活費や将来設計に大きな影響を及ぼす。
毎月の返済額は平均約1万5,000円だが、大卒新入社員の平均的な手取りが約18万円であることから、若者の生活を圧迫していることは明らかである。
こうした経済的・精神的な負担が、起業やキャリアチェンジ、さらには結婚や子育てといったライフステージの変化に積極的になれない原因となっている。
「奨学金バンク」を利用することで、学生は返済負担が軽減できるだけでなく、企業が支援してくれるという事実によって、安心感を得られる。
「学生にとって、奨学金返済を支援してくれる企業と出会えることは、キャリアにおいて大きな転機となる」と大野氏は語る。
また、将来の奨学金の返済負担が軽減されることで、学生は学びや成長に集中でき、収入にとらわれない長期的なキャリアプランを描きやすくなる。
企業にとってのメリット:人材定着率向上とブランド価値の構築
一方で企業にとっても、「奨学金バンク」の導入は大きなメリットをもたらす。まずに、奨学金返済を支援することで、従業員のエンゲージメントが向上し、早期離職を防止することができる。
大野氏は、「企業が奨学金返済を支援することで、従業員は会社からの支援を実感し、それが信頼感や定着率の向上に直結する」と述べる。
また、奨学金返済支援は企業のブランディングにも大きく寄与する。
前述の通り、同サービスはSDGsの17のゴールのうち、「1.貧困をなくそう」、「4.質の高い教育をみんなに」、「8.働きがいも経済成長も」、「10.人や国の不平等をなくそう」の4つの取り組みにつながる。
この取組みに参画することで、企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティ意識の高さを直接示すことが可能だ。
大野氏は「奨学金返済支援の取り組みを行う企業が増えることで、学生にも社会にも良い影響を与える。このような動きそのものが、企業の社会的な存在価値を高める。また、奨学金を受けてでも大学に進学することを選んだ人は、責任感や意欲が高い傾向がある。こうした人材を採用できる企業は、競争力の高い組織を構築できる」と述べており、奨学金返済支援が採用戦略においても大きなプラスとなることを強調した。
奨学金という社会課題の解決の第一歩を
この仕組みが広がることで、企業と学生の双方に具体的なメリットをもたらすだけではなく、奨学金という社会課題を解決し、持続可能な社会を築く基盤が整う。
大野氏は、「このサービスは、学生、企業、そして社会の三方に利益をもたらす全く新しい取り組みだ」と述べる。そして、「企業が奨学金返済を支援することが、採用の現場で新たなスタンダードになる未来を目指している」と語り、サービスの普及に向けた意欲を示した。
奨学金バンクが描く未来
「奨学金バンク」は、奨学金問題を解決するだけでなく、持続可能な就学・就職サイクルを構築し、社会全体に恩恵をもたらすエコシステムの実現を目指している。
今日、多くの若者が奨学金の返済負担を理由に、さらなる就学へのチャレンジやキャリア形成、ライフステージの変化に消極的になりつつある。
この状況は、個々の人生設計に影響を与えるだけでなく、日本全体の経済的・社会的な活力を低下させている要因となっている。
大野氏は、「奨学金返済支援の仕組みが広がることで、学生は学びに集中でき、企業は継続的に意欲的な人材を確保することが可能になる。このサイクルができれば、奨学金は本来の目的である就学支援および育英を達成するための仕組みとして機能し、社会全体が持続可能な成長を遂げる」と述べる。
この取り組みは、学生と企業の間だけに留まらず、社会全体の仕組みとして機能する可能性を秘めている。
奨学金を利用する学生が安心して学び、就職後には返済負担を軽減されることで、社会における経済的不安が減少し、新たな挑戦やイノベーションが生まれる余地が広がる。
奨学金バンクを利用する企業側も「奨学金返済支援を導入することで、社会貢献度を高めると同時に、採用競争で優位性を持つことができる」とし、奨学金バンクが社会全体に与える効果の大きさを示唆した。
「奨学金バンク」が目指すのは、奨学金問題の解決を通じて、経済と教育の持続可能なエコシステムを確立することである。その実現には、より多くの企業や大学がこの取り組みに参加することが不可欠だ。
大野氏は、「3年から5年の間に、企業が奨学金返済の下支えを行う割合を奨学金総貸与額約10兆円の2割から3割(2兆から3兆円)にまで引き上げたい」と目標を掲げる。
これが達成されれば、日本における奨学金返済の仕組みが大きく変わり、社会全体にポジティブな影響を与えることが期待される。
また、大野氏は「奨学金バンクは、企業、学生、社会全体に利益をもたらすもの。この取り組みを通じて、より多くの人々が学び、挑戦し、社会に貢献できる未来を創造したい」と語った。
インタビュアーのインサイト
奨学金問題は、教育機会の平等性や若者の将来設計に深く関わる社会課題である。
この問題に対し、「奨学金バンク」は単なる返済支援にとどまらず、企業、学生、そして社会全体にとっての新たな価値創造を目指す。
学生にとって、このサービスは奨学金返済という経済的・精神的な不安を軽減し、キャリア形成や人生設計を見直す大きな機会を提供する。
一方で企業には、人材定着率の向上や優秀な人材の確保という具体的なメリットをもたらす。
このように「奨学金バンク」は、企業と学生の双方に恩恵を与えながら、奨学金返済の仕組みを持続可能なエコシステムへと進化させていく。
さらに、大野氏が掲げる「3~5年で企業による奨学金返済支援の割合を全体の2割から3割に引き上げる」という目標が実現すれば、奨学金問題の解消に向けた大きな一歩となると感じた。
この取り組みが広がることで、奨学金が本来の目的である「就学支援」の役割を再び取り戻し、若者が安心して学び、社会に貢献できる環境が整うことが期待できる。
「奨学金バンク」の使命は、奨学金という制度が抱える不具合を解消し、教育と経済の持続可能なサイクルを構築することだ。
大野氏は、「奨学金バンクを通じて、質の高い教育と豊かな社会を次の世代に繋げていきたい」と語っていた。
その言葉には、奨学金という課題を越え、持続可能な未来を創造したいという強い意志が込められている。
企業、学生、そして社会の三方に利益をもたらす「奨学金バンク」は、奨学金問題に苦しむ多くの人々にとって希望の灯火となりつつある。
この取り組みが広がりを見せる中、未来の日本社会がどのように変化していくのか、その行方が楽しみである。
◎企業概要
社名:株式会社アクティブ アンド カンパニー
設立:2006年1⽉5⽇
本社:〒102-0074 東京都千代⽥区九段南3-8-11 飛栄九段ビル5階(受付4階)
資本金:5,000万円(資本準備金 8,305万円)
◎プロフィール
株式会社アクティブアンドカンパニー代表取締役社長兼CEO。1974年、兵庫県出身。大学卒業後、株式会社パソナ(現パソナグループ)で営業を経験後、営業推進、営業企画部門を歴任し、同社関連会社の立ち上げなども手がける。後に、トーマツコンサルティング株式会社(現デロイト・トーマツコンサルティング株式会社)にて、組織・人事戦略コンサルティングに従事。2006年、株式会社アクティブ アンド カンパニー創立・設立。2024年3月、日本初の奨学金返還支援プラットフォーム「奨学金バンク」をローンチし、奨学金の代理返還支援を通した持続可能な就学・就業サイクルの実現に取り組んでいる。