「日本は不名誉な化石賞受賞」「交渉は難航し期日延長」「途上国と先進国の乖離明確に」。これは新しい冬の風物詩?
——ここ数年のCOP報道を目にして、そんな捻くれた言葉がつい脳裏に浮かぶ人も少なくなさそう…。それくらい、日本におけるCOP29国連気候会議に関する報道は、「似たり寄ったり」のものが多い印象です。そしてとりわけ、先月終了したばかりのCOP29に関しては、現地からのレポートも少なく、そのため開催それ自体に気づかなかったり意識が向かなかったり…という人も例年よりも多いかもしれません(実際、期間中の日本での報道量は昨年比で2割ほど減っているという話もあります)。
かくいう筆者も、日米に留まらず、世界中から聞こえてくる選挙関連のニュースや、「民意に選ばれた」とされる独裁的な政権の危なっかしい動き、そして拡大を続けている紛争・戦争…などに注意・関心を奪われ、COP29の動向はスルーしてしまいそうでした。そんな折に知った、一般社団法人Media is Hope主催の「メディア向けCOP29報告会」開催。『どこよりも早く、どこよりも多様な角度からのメディア向け報告会』と謳われていることに興味を惹かれて参加してきました。
ところで、この先を読み進めていただく前に、一つご注意願いたいことがあります。 この「報告会参加感想報告」記事は、「筆者の感想」を中心としたものです。COP29そのものについては非常に簡単にしか触れていません。そのため、COP29の内容・結果を知りたいという方には、残念に思われる内容だと思われますので、ご注意ください。
COP29の報告会はさまざまな団体やメディアが実施しているので、しっかり内容確認をされたい方はそちらをチェックしていただくのがよいかと思います。また、オフィシャルな発表としては、下記でも紹介している「UNFCCCプレスリリース・日本語訳」の参照をお勧めします。
COPとはなにかを確認しておきましょう。
COPとは、「Conference of the Parties(締約国会議)」の頭文字をつなげたものです。規模や歴史などの観点から、国連気候変動枠組み条約加盟国が一堂に介して議論を行う地球温暖化対策についてのCOPが圧倒的に知名度が高いですが、他にも生物多様性条約や砂漠化対処条約のCOPも存在し、開催されています。気候変動に関するCOPは毎年11月頃に開催されており、冒頭の「化石賞」「期日延長」「乖離明確」という「よく耳にする報道」は、先月、中東の産油国アゼルバイジャン最大の都市であり首都であるバクーで開催された、COP29の報道で毎回のように報じられていたものです。今年のCOP29での主要議題は途上国支援の資金調達。2日間会期が延長されたように、その合意への道のりは険しいもので、途上国とされる国の合意文書に対する不満の声も非常に大きいという話も聞こえてきます。なお、合意文書の内容については、以下の国際連合報道センターの発表を見ていただくのがよいのではないかと思います。一部を引用します。
COP29国連気候会議、いのちと暮らしを守るべく開発途上国向け資金を3倍に増やすことで合意
(2024年11月24日付 UNFCCCプレスリリース・日本語訳)
https://www.unic.or.jp/news_press/info/51323/
* 開発途上国に向けた資金拠出の目標を、従来の年間1,000億米ドルから、2035年までに年間3,000億米ドルへ3倍に増加させる。
* 開発途上国に向けた公的部門・民間部門からの資金拠出を、2035年までに年間1兆3,000億米ドルに拡大するために、すべての当事者が協力して取り組むことを確実にする。
さてここで、筆者の立場と気候変動に対する視点を簡単にお伝えしてから、当記事タイトルにもある「メディア向けCOP29報告会」について書くこととします。
まず筆者は、上記「メディア向けCOP29報告会」に現地参加したものの、この記事が掲載されているウェブメディアcokiや、その他のウェブメディアに記事を寄稿している市民ジャーナリストで、マステメディアに所属・関連した記者ではありません。
そして気候変動については10年ほど前から一定の関心を持って見てはいるものの、特段知識量が多いわけではありません(おそらく「10年見ていた」という長さを考慮すると、「その割に知識低め」だと自覚しています)。
そして日本において、気候問題についての考えを話す際に必ず問われる原子力発電(所)に関するスタンス(直接聞かれることは少ないものの、発言はほぼ常にその人の原発へのスタンスと紐付けられて捉えられますよね)ですが、「化石燃料からの脱却」を強く願っています。ただし、「慎重に考えたい」とそこに至る方法については方針を決めかねています。きっと、サイレントマジョリティーの1人ですね。
なお、友人・知人には、声高に反原発を叫ぶ友人も、原発推進に納得を示す友人も、どちらも数多くいます。どちらの意見も理解できるし、一理あると思っています。
さて、それではここから「メディア向けCOP29報告会」の参加感想報告です。
まず、冒頭に書いたように、「COP29の動向をスルーしてしまいそうな自分」にとっては、『どこよりも早く、どこよりも多様な角度から』という報告会は、とても期待度の高いものでした。
なぜなら、バクーに出向いて見聞きし感じたものが複数視座から持ち寄られることで、「のっぺりした型通りの報道や発表」が、筆者の中でより立体的で手触り感のあるものとなるのではないかと想像していたからです。
結果としては、その期待は半分が叶えられ半分は失望に終わった、というのが正直な感想です。ただ、失望の理由は多分に筆者個人の意識的、あるいは無意識のバイアスがその原因となっていました。
では、叶ったポイントと失望ポイントをそれぞれお伝えします。
● 叶ったポイント
- 専門家による総括を聞き、COP29の全体感はつかめた。
- 3人のYouth世代スピーカーにより、若者世代のミクロ視点とマクロ視点での捉え方を理解することができた。
- バクー市民の目線や反応に目を向けているメディアの存在とアプローチを知ることができた。
特に、Climate Youth Japan(CYJ)の和田優希氏、関口政宗氏、 Japan Youth Platform for Sustainability(JYPS)の橋本輝氏による発表はとても興味深く、NGOやユース団体がCOPに参加することの意味を改めて感じさせてくれるものでした。
以下、今後より詳しくCYJとJYPSに聞いてみたいと思った、発表の中で触れられていたポイントです。
- 省庁からの参加者や海外ユースとの交流・ネットワーキングの場として積極活用
- 各国のユースカウンシル(若者協議会・会議)の実態をアンケート調査(分析結果は今後発信予定: CYJ)
- 途上国ユースと日本政府(環境省・外務省)との意見交換会の実施(JYPS)
- 他国の「ユースイベントを積極開催し、ユースの声を聞こう」というスタンスの強さ
- 開催国の立ち振る舞いによって結果が出て大きく変わってしまう危険性
- 気候変動対策分野においては、日本は決して遅れていない
- 「国の代表意見」にユースの意見が入るようにするための施策が必要
● 失望ポイント
- 「多様な角度から報告」と銘打たれた報告会でしたが、多様なのは職業や所属、年齢などであり、視座や主張は似ていた気がしました。
- 専門家や企業からの発信は現場感少なめで、正直「それは行かなくても分かる話では?」と思う点も少なくありませんでした。
- パネルディスカッションは、「批判的視点」が取り込まれておらず、参加メディアが「社会への伝え方」を検討するには不十分と思われた。
報告会の報告の〆として、登壇者の1人でもあったメディアコンサルタント 市川裕康氏の発表内容を紹介します。
市川 裕康 氏
株式会社ソーシャルカンパニー / メディアコンサルタント
気候変動・脱炭素・気候テックなどをテーマにニュースレター「Climate Curation」を日英で毎週配信。海外と国内における情報のギャップを埋めることに注力。国内外のデジタルメディアの動向を踏まえ、大企業、政府機関、メディア企業、NPO団体などにコンサルティングサービスを提供。
● 市川氏の発表内容
- 世界全体からは3,500名強の、日本からは110名強のジャーナリストが訪れていた(NHKからが圧倒的に多い)。
- 海外のメディア関係者には「日本では化石賞の報道がそんなに話題になっているのか!」と驚かれる(他国では化石賞に対してあまり関心が持たれていない)。
- 昨年のCOP28と比較して、日本国内でのメディア放送は20パーセントほど減った模様。これはCOP29の議題設定が昨年より「地味」に感じられるものだからか。
- COP29会場でインタビューに応じてくれたメディアも複数。海外には10年〜15年と長期に渡り気候変動を追い続けている記者が多数いることを実感。また、気候変動報道の重要性とともに、分かりやすさや多様な角度からの報道の大切さが指摘されていた。
【市川氏が発表で使用されていた資料の一部】
個人的には、市川さんの話が一番「COP29開催現地の様子」を感じられました。ですから、市川さんの持ち時間がわずか5分というのが残念でした。
最後に、改めてイベント全体についての感想を。個人的には「多様な角度」を感じられまなかったことが残念でした。
登壇者の肩書は学生、会社員、専門家と多様でしたが、皆同じように「リベラル」で、日本の「気候政策」の現状に強い不満を持っている人だけだったと感じました。
単独参加者・団体ではなく、複数スピーカーによる「メディア向け報告会」という貴重な設定だったので、現地での体験や見聞きしてきたことが複数の視点から重なり合うことで、よりニュートラルな視点から「是々非々」で、メディアを通じてこの問題について考える機会を提供できるのではないかと思えたからです。
極論かもしれませんが、あの形式では、「リベラル向けメディアのためのメディア報告会」と捉えられかねない、とも…。
数日前、市川氏と報告会振り返りと意見交換を行わせていただきました。
そこで気づかせていただいたのは、筆者の中に「日本のメディアの気候報道」に対して、思い込みが相当強く入っていることでした。
筆者のバイアスや思考・認識のクセについて多くの気づきをもたらしてくれた市川氏には、ここに改めて感謝申し上げます。
もう一度是々非々で、気候政策と原子力発電(所)について自分の考えを深めていこうと思います。
皆さんもいかがですか?