今回はグロービズの人気講師として知られ、「エンゲージメント」をキーワードに多くの企業とともに組織開発に取り組んでいる、マッピーさんこと松林博文さんとの雑談をお届けします。
#ソーシャルグッド雑談・レギュラーパートナーの我有さんは、マッピーさんとは以前、一年近くにわたる長期プロジェクトをご一緒した間柄。
その我有さんに「マッピーさんって、どんな人?」と訊いてみると…
「変な人。おもしろい人。サーフィンと泡ワインの人。」とのこと。
あれ? おかしいな…。おれはこれまで薄くゆる〜くしかマッピーさんとは関わったことがなかったんだけど、仕事をガッツリ一緒にやっていた我有さんとまったく同じ印象じゃないですか!
ということで、「八木橋パチの #ソーシャルグッド雑談」第10回は、大阪・北浜のミラクリエイションオフィスにお邪魔して、じっくりたっぷりマッピーさんと雑談してきました。
写真中央: 松林 博文(まつばやし ひろふみ)
グロービス経営大学院講師。MIRACREATION株式会社 取締役。個人の創造性発揮、エンゲージメント向上、次世代型組織開発をライフワークとし、マーケティング・ブランディング支援、従業員・顧客満足度向上アドバイザーを務める。『組織の未来は従業員体験で変わる』(英治出版)、『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(英治出版)、『【実況】マーケティング教室』(PHP研究所)など著書・共著・翻訳書多数。
写真左: 八木橋 パチ(やぎはし ぱち)
バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社。現在は社内外で持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちとさまざまなコラボ活動を実践し、取材・発信している。脱炭素DX研究所 客員研究員。合言葉は #混ぜなきゃ危険
写真右: 我有 才怜(がう さいれい)
2017年メンバーズ新卒入社。社会課題解決型マーケティングを推進するほか、気候変動への危機感や市民運動への興味から国際環境NGOでも活動中。メンバーズ「脱炭素DX研究所」所長。IDEAS FOR GOODと共にWebメディア「Climate Creative」運営中。
■ 感情交流とエンゲージメント | マッピーさんと我有さんの出会い
■ ヒッピーになるかMBAを取るか | サラリーマン脱出方法
■ 「組織」と言って個人を見るマッピー。「個人」と言って組織を見るパチ
■ 心理的安全性と(再び)エンゲージメント
■ 感情交流とエンゲージメント | マッピーさんと我有さんの出会い
パチ
我有さんとマッピーさんは1年取り組んだっていうのは、どういうプロジェクトだったの?
我有
とある大企業をクライアントとした新規事業開発案件で、2018年から2019年にかけて、約1年間かけて新規事業の芽をその組織から見つけ出し育てていこうというものでしたね。
私が、好ましい未来をデザインする「フューチャーズ・デザイン」のワークショップなどをリードしながら、そしてマッピーが組織全体のエンゲージメント、とりわけ組織と社員の関わり合いを通じて自発的な貢献意欲を育てていく「従業員エンゲージメント」の部分をリードするものでした。
マッピー
あれはおもしろい取り組みだった。講師そして運営メンバーは個性的な顔ぶれで、メンバーズのジョン(原裕さん)そして正にここにいるガウガウ(我有さん)が合流してくれました。
特に記憶に残っている出来事は、僕がこのプロジェクトに誘った仲のいい幼なじみのメンバーが腰の重い参加者に「ちょっとあんたたち、どうして手伝おうとしないのよ!?」ってクライアントである若手参加者を叱りつけたこと。彼女は愛あるむちで正直に語った。
紆余曲折、山あり谷ありいろいろあったけれど、最終発表では真剣な取り組みに感極まって何人かは涙ぐんだりしてね(笑)。
我有
懐かしい〜。それはなっちゃんこと、株式会社しごと総合研究所の山田 夏子さんですね! 本当に楽しい仕事でした。でもあれは、楽しいだけじゃなく私にとってはとても衝撃的でかつ大事な体験でもあったんです。
それまでは、私は企業向けのワークショップや仕事においては、「強い感情は封印するのが当たり前」と思い込んでいたんです。
でもあのプロジェクトを通じて、なっちゃんやマッピー、そしてご参加いただいた方たちから、「むしろ感情こそ適切に共有していくべき」ということを学びました。
マッピー
そうそう。組織は人の集まりだし、その場で起きる感情交流はエンゲージメント向上にとっても有効だし、最近いろいろなところで言われている「心理的安全性の高い職場」づくりにも欠かせないものでもあるし。
■ ヒッピーになるかMBAを取るか | サラリーマン脱出方法
パチ
マッピーさんは10年近く前からずっと「エンゲージメント」をキーワードに組織開発や組織文化支援に取り組んでいるけれど、そもそもなんでエンゲージメントなの? そしてそれはどこから来ているの?
マッピー
ひと言で言うなら、しあわせに働く人が増えてほしいから。高いエンゲージメントは個人の働きがいをもたらすと確信しているから。
でも、企業の管理者にはなかなかその本質が伝わりづらいこともあって、経営論的な話やマーケティング的な観点から伝えることも多いね。
「エンゲージメントは企業の業績に直結していて、エンゲージメントを高めることで働きがいも生産性も高くなるし、イノベーションも起きやすくなりますよ」のように。
実際、それは事実なんだよ。
「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。」は多くの人が引用する格言だけど、同じように、「関係性が変われば職場が変わり、組織が変わり、成果が変わり、未来が変わる」から。
ところで、「それはどこから来ているの?」っていうのはどういう意味?
パチ
マッピー
あーそういうことね。僕は初めて社会に出るときに、「社会人になりたくない、組織人って自分に合いそうにない」と思っていた時期があったんだ。
入社してからも特に不満があった訳てはないけれど、漫然と「サラリーマンから抜け出そうか、日本から飛び出そうか」って考えてはいたんだけど、気がつけばもうそれなりの年齢になっていたこともあって、今からアーティストに転身して食っていくのも、ヒッピーになるのも大変そうだなって思って。
それで、周囲からやいやい言われるのもめんどくさいし、MBA取得でアメリカに行くのなら、誰も「なんでわざわざそんなことを」とは言われないだろうと思ってさ。
それでアメリカの大学院でMBAを取得したんだけど、学んだものの中で自分にすごくしっくりくるものが、クリエイティブ・シンキングとエンゲージメント、だった。
パチ
なるほどね。じゃあ、本当はMBAじゃなくてなんでもよかったんだね。
それなら納得。
だってさ「型にハマった考え方はやめて、もっと自由に発想しよう。感性と創造力を大事にしよう!」ってマッピーさんは呼びかけることが多いでしょ? どちらかというと、組織よりも個人一人ひとりに注目するよね。
だから、「どうしてそういうタイプの人が、そもそもMBAなんていう『経営管理の型』をわざわざ学びに行くのかねぇ?」って、ずっと疑問だったんだよね。
■ 「組織」と言って個人を見るマッピー。「個人」と言って組織を見るパチ
マッピー
ところでさ、僕も「この人はおもしろいなあ」って、結構昔からパチのことを観察しているんだよね。それで聞いてみたかったことがあって。
パチは「おれは組織よりも個人に興味がある。だから集団としての組織より個人に注目している」ってよく言うけどさ、実際に書いたり発言したりしているものをちゃんと見ると、その多くが組織論であったり、組織開発に関することだったりするよね。
あれはどうして?
パチ
…鋭いな! でもたしかにその通りだね。おれは個人がなによりも大切だと思っているから、その個人が自分らしさを失わずしっかり発揮できる状態を作り出したいんだよ。
自分ごととして言うと、おれという個人が最も価値を置いているのは「自由」であって、自分の自由を守るためには、周囲の人たちや他者の自由を守る必要があるんだよね。
「自由の相互依存性」って言うのかな。たしか。
で、自分のためにもおれの好きな人たちのためにも、その自由を守ってしっかり楽しもうとすると、チームやコミュニティー、企業や組織への提言であったり実践アプローチであったりになるんだよね。
マッピー
やっぱりそうか。でもおもしろいよね。「組織開発」「エンゲージメント」って言っている僕が「個人」に働きかける一方で、「個人」「自由」って言っているパチが「組織開発」的なアプローチを呼びかけている。
ちょっと僕たち「合わせ鏡的」なところがあるよね。
我有
本当だ〜! たしかに逆になってる! 今の話は両方のお二人を知っている私には相当おもしろいです。
マッピー
もう一つ、これは質問っていうか、話してみたかったことなんだけどね。
パチはさ、どこに行っても一人称を「おれ」から変えないじゃない。「偽らない自分でいたいので」とか枕詞をつけたりして「偉そうにしているわけじゃないですよ」とアピールしながらさ。
あれがさ、「パチという犬の散歩」みたいでおもしろいんだよね。
パチ
え? パチという犬の散歩?? 全然意味わかんないんですけど!?
マッピー
知らない人にいきなり声をかけたり、かけられたりするのってやっぱり心理的に抵抗を感じるじゃない。
でも、その人が犬を散歩させているとさ、「大きなワンちゃんですね」とか「おいくつなんですか?」とか、声をかけやすいでしょう?
パチはさ、「おれはパチ」って名乗ったり「混ぜなきゃ危険」って標語言ったりしながら、「変わった名前ですね」とか「なんて犬種なんですか?」って、相手が話しかけやすい場づくりをしているんだよね。
それで、相手が二言三言と話して打ち解けたところで、「飼い主のパチです」って本人が出てくる感じなんだよね。わかる? 伝わるかな?
パチ
「パチという名の犬の散歩」ってメタファー、初めて聞いたけどおもしろいな、納得。やっぱりマッピーの捉え方と表現はおもしろいな。
■ 心理的安全性と(再び)エンゲージメント
我有
話をエンゲージメントに戻しちゃいますけど、ちょうど今日、職場で、エンゲージメントと働きがいについて考えさせられる出来事というか、ちょっとモヤモヤすることがあったんです。
手短に言うと、全社員参加の大型社内イベントが開催されたんですが、運営が上手くいきませんでした。
私は運営現場にいたわけじゃないので詳しくはわからないんですが、その根幹に大企業病というか、エンゲージメントの問題がある気がしました。
マッピー
メンバー一人ひとりが「割り当てられた作業」だけしか見ないから、全体がうまく回らなくて失敗した、みたいな話かな?
我有
そんな感じです。自分の仕事の意義や価値を十分に理解し、腹落ちして、共感して仕事に取り組むのと、割り当てられた一つの作業として捉えるのとでは、パフォーマンスは全然変わってくると思います。
今回の運営チームは、どうだったんだろうなあと。うまくいかなかったという事実の受け止めについてもかなり温度差があったようで…
マッピー
それは明確に指摘すべきなんじゃないかな。然るべきときにしっかり感情とその理由を伝えることは大切なことだと思う。
パチ
違うよ。働かせているわけじゃなくて、頭が勝手にそう思うんだよ。だって昔の自分がそうだったから。
それからもう一つ。今の話にも少し関係するけどさ、さっきから何度か「心理的安全性」って言葉が出ているじゃない。でも最近、ある人とこんな話になったんだよね。
「心理的安全性は本来、それが必然的に必要とされる場でなければ、意味をなさない」って。
我有
興味深いけどよくわからないです。どういうことですか?
パチ
元来、心理的安全性の高さと高パフォーマンスの相関が明確になったのは、失敗や事故が命の危機を招く、救急病棟や軍隊、宇宙開発などの現場の研究からなんだよね。
逆に言うと、失敗しても大事にならない場においては、心理的安全性は安心と居心地の良さはもたらすものの、高パフォーマンスとはさほどの関係はないだろうってこと。
気配りや遠慮、周囲の反応に気を遣って機を逃してしまうことは、「人の生き死に」に関わる場においては絶対に避けるべきことだよね。だから、ズバッと言える関係性を育んでおく必要性があるのは間違いない。
でも、「心理的安全性が大事!」と声高に言っているあなたの職場って、本当にそれだけ切迫した状況とつながっていましたっけ? …という話だったんだ。
マッピー
その話、メチャおもしろい。なるほどたしかに、表面的な心理的安全性がそこに存在しても、それを生かそうとする意思と目的が意識されなければ、単なる仲良しクラブに終わりかねないよね。
もちろん、仲良しクラブ自体が否定される理由は一つもないけれど。
ただ一方で、「生き死にに関わる状況下においてこそ」という考え方は、人間だけじゃなくて「法人」の死にも当てはまる。そう考えると、自分たちの仕事っぷりが、生き死にに関わるものだとも考えられるよね。
…なんて話を続けたいんだけど、でもおなかも空いたし、そろそろ場所を変えて、続きは泡ワインを飲みながらにしない?
我有
いいですね! 私もおなか空きました。そうしましょ〜。
この後、オフィスからほど近いマッピーさんの「秘密基地」に移動したところ、なんと、ミラクリエイションの方たちが、パチ&我有のためのパーティーを準備してくれていました。嬉しい! ありがとう!!
マッピーさんが「僕たちには合わせ鏡的なところがある」と言ってくれたけど、おれにはこういう「心配りを形にしよう」とするところが足りないのかも?
それにしても、いつもそれなりに分析的な視点を持ちつつ雑談しているつもりのおれだけど、今回は逆にマッピーさんにしっかり分析されたような気が…。
ともあれ、この日は3人ともすっかり酔っ払って、LOVE&PEACEな大阪の一夜となりました。ありがとうマッピーさん!
さあ、次は誰と雑談しようかなー。