11月14日に発売予定のロールプレイングゲーム『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』のリメイク版で、キャラクターの性別表記がなくなることが公表され、ファンの間で賛否両論が巻き起こっている。往年の名作RPGにおける大胆な変更は、ゲーム業界全体に広がる「ポリコレ」の波と、それがもたらす影響について、多くの議論を巻き起こしている。
公式サイトによると、主人公と仲間たちの「男」「女」という原作の表記がなくなり、「ルックスA」「ルックスB」に変更されるという。
開発陣からも疑問の声
この変更について、シリーズ生みの親であるゲームデザイナーの堀井雄二氏は、9月28日、東京ゲームショウ会場の千葉市から配信された動画の中で、苦言を呈している。
対談相手は、元週刊少年ジャンプ編集長の鳥嶋和彦氏。鳥嶋氏は、ドラクエのキャラクターをデザインした漫画家の鳥山明氏を堀井氏に引き合わせた人物であり、鳥山氏の作品「Dr.スランプ アラレちゃん」の敵役・マシリトのモデルとしても知られている。
そんなゲーム界のレジェンドともいえる両氏による対談中、堀井氏は今回の性別表記変更について触れ、「男女にしていったい誰が文句を言うんだろう。分からない」と、率直な疑問を口にした。
ゲーム業界に広がるポリコレの波
近年、ゲーム業界では、ジェンダーや人種、文化などに関する配慮、いわゆる「ポリコレ」を意識した作品作りが目立つ。今回のドラクエのケースもその一環と言えるだろう。
例えば、任天堂の人気シューティングゲーム「スプラトゥーン」シリーズでも、同様の変化が見られる。
これまでのシリーズでは、プレイヤーが操作するキャラクターは「イカガール」と「イカボーイ」という、明確に性別が設定された二択から選択する形式だった。しかし、最新作『スプラトゥーン3』では、ゲーム開始時のキャラクター選択画面において、「性別」という概念そのものがなくなっているのだ。
これらの背景には、多様性を重視する社会風潮や、LGBTQ+への配慮の必要性が高まっていることが挙げられる。しかし、その一方で、違和感を覚える人々も少なくないようだ。
ある男性は「映画やゲームでまでこのような形で多様性に配慮することによって、親や祖父母世代まで否定されてるような気がして生きづらいなと思う。もちろんLGBTQの方への配慮は必要だと思うし、個人的にLGBTQの友人にはもちろん思いやりを持つ。でも、その全体への配慮を常に欠かしてはならない圧が社会に溢れて多数が違和感を抱えるのも変だ」と複雑な心境を吐露する。
行き過ぎた配慮が招くリスク
しかし、行き過ぎたポリコレ配慮は、ゲーム本来の面白さや表現の幅を狭めてしまうリスクも孕んでいる。ゲームはあくまでもエンターテイメントであり、制作者の自由な発想に基づいて楽しまれるべきもの。過剰な自主規制は、創造性を阻害し、結果的に業界全体の衰退に繋がる可能性も否定できない。
また、経済的な視点からも、ポリコレ配慮の是非を問う声は少なくない。ポリコレに配慮した作品作りは、ブランドイメージの向上や新規顧客の獲得に繋がるケースもある一方で、炎上リスクや既存顧客の離反による経済的損失の可能性も孕んでいる。企業は、ポリコレ配慮と経済合理性のバランスをどのように取るべきなのか、難しい判断を迫られていると言えるだろう。
ポリコレは確かに重要だが、行き過ぎた配慮はユーザーに受け入れられない可能性もはらんでいる。
直近では、ソニーが8月24日にリリースしたAAAの新作ゲーム『CONCORD』の例が挙げられる。LGBTに配慮した多様性あふれるキャラクターが登場するとして注目を集めていたが、蓋を開けてみればユーザーの反応は芳しくなく、開発費を回収できないほどの「大爆死」と報じられている。少なく見積もっても数千万ドルの損失は避けられない見込みだ。
今回のドラクエの事例は、ゲーム業界に限らず、あらゆる創作活動において、多様性と表現の自由をどのように両立させていくべきか、改めて問い直すきっかけを与えている。行き過ぎたポリコレ配慮は、創作活動の萎縮や経済的損失を招く可能性も孕んでいることを、我々は認識する必要があるだろう。ユーザー、クリエイター、企業が建設的な議論を進め、未来のエンターテイメントの形を探っていくことが重要だ。
ポリコレの次は動物愛護団体のモンスター叩き?
筆者がドラクエ3をリアルタイムで楽しんだ時代から見れば、今日のような未来は全く想像できなかった。
この過激な流れが行きつく先はどこなのか。将来的には『ドラゴンクエストIII』に登場するいっかくうさぎやフロッガー(カエル)、おおがらす、おおありくいといったモンスターたちも、動物愛護団体から名前や見た目を変えろと訴えられるような未来が訪れてしまうかもと心配している。