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なぜマルちゃんはメキシコで国民食になり得たのか?

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イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!14

最近の経済現象をゆる~やかに切り、「通説」をナナメに読み説く連載の第14回!イマドキのビジネスはだいたいそんなかんじだ‼

世界的な日本食人気で、全国的なコメ不足に

新型コロナはまだ完全に消滅したわけではない。が、訪日外国人はうなぎのぼりだ。おかげで地方出張で泊まるホテルはどこもじわじわ値が上がっている。しがないライター、編集者家業、出張交通費・宿泊費は経費としてクライアントに請求できることになっているが、「できるだけ安くしてね」という圧は常に感じており、地方に行く際は圧縮比の限界値まで挑んで、目を血走らせて取材に向かっている。

それにしても昨今は地方の隅々でも外国人の姿を見かけるようになり、日本人よりその土地に詳しい外国人も増えている。当然グルメにも詳しく、ある動画では、欧米系の外国人が聞いたことも見たこともないような御当地野菜を癖のある日本語で紹介していたりして、思わず、「ひょーえー」といった感嘆とも感心ともつかぬ音声を出してしまっていた。

日本の食の奥深さは発信してほしいと思うが、さすがに今年のコメ不足の一因が、そういった情報によって惹きつけられた訪日外国人の増加のせいだとなれば、さすがに「おいおい、俺達のコメをそんなに食うなよ」と思ってしまう。

我々しがないフリーライターに対する経費削減圧に反して、いま世の中の値上げ圧は凄まじいから、コメの値段はどんどん上がっていく。しかも一旦上がった価格というものは下がらないというのが、いにしえからの経済原則である。であるから我が家のエンゲル係数は上方修正が続く模様だ。

対策としては、激安スーパー情報を比較し、仕事の合間を縫って夕方6時以降に出陣からの特売コーナーチェック、タイムセール、見切り品、とくに食品を狙うことになる。

タイミングよく閉店近くの生鮮品コーナーをうろつくことができれば、ほんの1時間前の食材が半額でゲットできることもある。るんるんである。

さらに日持ちのする麺やカレールーなどをゲットすれば、ワタシの幸せホルモンはフル生産されることになる。

メキシコでバカ売れ、世界食「カップヌードル」を抜いた「マルちゃん」

こうしたワゴンに盛られるのは、ナショナルブランドのロングセラーが多い。日清のカップヌードルはその代表であろう。

日本人の誰もが知るカップ麺の開祖であるばかりか、21世紀を代表する「世界食」である。

2021年現在、世界80カ国で年500億食を販売しているという。地球上の人が少なくとも年6回は食べている計算だ。

その日清のカップヌードルが勝てない国があるという。あの元サッカー日本代表監督アギーレさん(忘れてしまったか…)の母国、メキシコだ。じゃ日清はメキシコのどこに負けているか――MARU CHANだ。そう地場のコングロマリット企業ではない。

『赤いきつね』とか『緑のたぬき』なんかが知られているマルちゃんこと、東洋水産である。

メキシコで「マルちゃん」と言えば、そういう命名のカップ麺を指す。メキシコ人は、そのマルちゃんにチリソースをかけて真っ赤っかにして食べたり、ちょい辛のサルサなどを振って食べる。さっさとね。

その人気はすさまじく、「マルちゃんする」と動詞化されているほどだ。「マルちゃんする」は、「一緒にランチする? マルちゃんで」ではなく、「素早くさっさと終わる」という意味で使われる。

用例としては「会議がマルちゃんして助かったよ」とか、サッカーで素早いカウンターを「マルちゃん作戦」などと呼ぶ場合もあるらしい(嘘っぽいけど本当だ)。

なぜメキシコでマルちゃんが国民食たり得たのか? 

マルちゃんは、最初アメリカでそこそこ話題になった。味もそこそこ、いろいろトッピングもできたりした。何より安い。それを出稼ぎに来ていたメキシコ人が家族の土産に大量に買い込む例が増えていったのだ。いわば、報酬なしの試食会が勝手に大々的に行われたのだ。

そうこうしているうちに出稼ぎ土産はマルちゃん→メキシコの家庭でもマルちゃん→別に出稼ぎしなくても買えるマルちゃん→スーパーで買いこんで、自分でトッピングができるマルちゃん→マイマルちゃんとなって、国民食マルちゃんとなった。もちろんマルちゃんが、日本メーカー製カップ麺であることなど知らない。

問題はこれを特殊な例とするか、ありうるマーケティングとするか、だ。メキシコのマルちゃんは確かに特殊だ。しかしモノが売れるということは、常に生産者の予測を超えたファクターが潜んでいる。それはその場に立ち、暮らして初めてわかることがある。

ヨーロッパには冷蔵庫はない。あるのは『冷えるキャビネット』

冷蔵庫のイラスト

たとえば冷蔵庫。日本の家電はすごい。省エネや鮮度保持機能など性能はピカイチだ。それでも欧州では苦戦をする。パナソニックの齋藤さんという冷蔵庫営業の職人のような人によれば、「日本やアジアの人間は、冷蔵庫を家電だと思っていますが、ヨーロッパでは『冷えるキャビネット』という見方をしている」という。つまり冷蔵庫はインテリアの一部なのだ。昔から冷蔵庫は扉が2枚なのだそう。我々が目にする5つドア、6つドアといったマルチ収納型は、冷蔵庫とみなされないのだという。

じゃ洗濯機もインテリアか、というとそれは違うという。

「機能性が重視されて、おばあちゃんの時代からの信頼性がモノをいう」らしい。機能性と信頼性なら日本は負けない。パナソニックは「だったら」ということで、「ななめドラム」の最新鋭で挑んだらしいが、惨敗した。サイズがでかすぎて、キッチンカウンター下のスペースに収まらなかったからだ。洗濯機は昔から標準とされるサイズが暗黙のうちに決まっていて、それを逸脱しては「洗濯機」と認められていないらしいのだ。

こうしたことは何も欧州だけではない。

インドの冷蔵庫は金庫でもある

インドでは冷蔵庫は金庫でもある。つまり鍵がついてないと売れない。人口世界一となったインドはドメスティックメーカーに日本、韓国、中国、欧州勢入り混じっての家電戦国時代を迎えている。そこで最初に頭一つ抜け出たのは韓国勢だった。日本勢が例によって機能や形を訴求したが、韓国のLGは、ごっつい出で立ちに鍵をつけたら大ヒットした。

冷蔵庫を買えるインド人はそこそこリッチな層。こういう家庭にはお手伝いさんがいるのだが、こういうところのお手伝いさんは、割と自己中だったりするので、勝手にいろいろなものを私物化する。そういったお手伝いさん対策として登場したのが、この鍵つき冷蔵庫だった。

庫内の明かりが点かない冷蔵庫がバカ売れしたインド

鍵付きだけではない。インドでは日中は庫内の明かりがつかない冷蔵庫が人気となっている。省エネとかエコとかセコいとかではない。インドの人はだいたいヒンズー教徒だが、他にも仏教、キリスト教、シーク教、イスラム教など、さまざまな宗教を信じてる人が混在している。

そのなかで庫内に明かりが点かない冷蔵庫を欲しているのはイスラム教の人たち。理由はラマダンのときにできるだけ食べ物を避けたいからだそう。イスラム教徒はラマダン中、日中は食べ物を口にしてはいけないことは知られているが、実は食べ物に触れてもいけないし、見てもいけないのだそうだ(個人差はありそうだが)。そのニーズに応えたのが、庫内の明かりが点かない冷蔵庫だ。

ニクイのは、ラマダンのときだけ消せることだ。消せるというか、ドアを開けても明かりが点かないしかけになっている。これがバカ受けしたのだという。しかも新品でなく、中古品に「明かりが点かない機能」を付加して売って、バカ売れしたというから笑いが止まらない。

残念ながらそのメーカーは日本ではなく韓国らしい。

韓国は実は家電の現地化を世界に先駆けて行ってきた。国家プロジェクトとして、だ。彼らのマーケティング力は素晴らしく、ほかにもインドでは機能性を落として価格を下げてヒットした電子レンジがある。

インドは結構パーティー文化で、週末になると富裕層邸宅ではお互いの家族を招き合ってワイワイと過ごす。だいたいの富裕層邸宅にはメイドさんがいて、料理などの準備はしてくれる。そのとき使うレンジが多機能すぎるとメイドさんが使いこなせない。

日本製は品質が良いのは確かだが、無駄に機能が多く、値も張る。そこを狙ったのがまたしても韓国メーカーで、性能はそこそこあって機能を絞り込み、価格を抑えた電子レンジを売り出したところ、大ヒットしたのだった。

結論。すべての市場はガラパゴスである!

当たり前だが、どんなに機能性能が優れていても、受け入れられるかは、その地域の価値判断次第だ。

「こっちが便利じゃん。使えば分かるじゃん」と訴えても懇願しても、響かないものは響かない。

日本のインバウンドが好調なのは、ほぼ日本人が情報発信していないからだ。日本にやってきて体験した驚きと感動を素直に発信しているだけである。これこそがメイドインジャパンと言って世界に売り出しても売れないのである。

よく日本の市場をガラパゴスと呼んだりして自嘲気味に語るケースがあるが、市場はそもそもガラパゴスだと思ってかかったほうがいい。逆にとんでもない進化を遂げるかもしれない。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

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ライター:

フリーランス歴30年。ビジネス雑誌、教育雑誌などを中心に取材執筆を重ねてる。小学生から90代の人生の大先輩まで取材者数約4,500人。企業トップは500人以上。最近はイラストも描いている。座右の銘「地の塩」。

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