先端半導体を巡って米中の対立が深まる中、日本政府は3月末、最先端の半導体製造装置など23品目について対中輸出規制を敷くことを発表した。
今回規制対象となるのは繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置、洗浄・検査に用いる装備など23品目で、朝日新聞の報道によると、幅が14ナノメートル以下の先端半導体を製造する際に重要な装備品が対象になるという。
裏にはバイデンからの強い要請?
この決定の背景には、バイデン政権からの強い要請があった。バイデン政権は昨年10月、先端半導体関連の技術が軍事転用される恐れから、中国への半導体輸出規制を強化し、先端半導体に必要な製造装置で高い世界シェアを有する日本やオランダに同規制に加わるよう要請した。今年1月に岸田総理とオランダのルッテ首相がそれぞれホワイトハウスを訪問した際に要請したとみられる。
一方、中国は、日本が先端半導体の製造装置など23品目で対中規制を発表したことについて強い不満を示し、中国は国益を守るために断固とした対抗措置を取ると強くけん制した。中国はバイデン政権が日本に同規制で足並みを揃えるよう要請した時から日本を強くけん制してきたが、今回の決定を受け、今日、電気自動車や風力発電用モーターなどに欠かせない高性能レアアース磁石の製造技術の禁輸を検討しているという。
このような一連の動きは、半導体関連企業に限らず多くの日本企業にとってリスクになる恐れがある。
問われる日本の姿勢
そのリスクを政治と経済の関係という文脈から考えてみたい。これまで日本では経済界を中心に、対中国では政治と経済を分けて捉え、そこには「政冷経熱」という雰囲気が強く漂っていた。実際、長年チャイナリスクという言葉が聞かれる中でも、多くの日本企業は世界の工場としての中国との関係を重視してきた。最近、脱中国を巡る企業の動きが一部で拡がっているが、脱中国は実際難しく、多くの日本企業で今でも政冷経熱という雰囲気が漂っている。
トランプ政権以降の米中貿易摩擦に印象付けられるように、今日、中国は米国が政治と経済の境界を越え、経済を武器化する、経済・貿易の領域で紛争を展開してくることを熟知しており、中国も輸出規制や関税引き上げなどにより米国を”経済攻撃”している。米中双方とも、軍事衝突に至れば被るダメージが寛大になるのは熟知しており、その分経済や貿易の領域が主戦場になっている。
一方、中国は今日、日本が米国と中国との間でどのような姿勢を堅持するかを注視している。当然ながら、中国にとっても日本は重要な貿易相手国であり、必要以上に日本との関係を悪化させたくない。しかし、日本が米国と足並みを揃えることには強い不満と警戒心があり、言い換えれば、日本が政治と経済の壁を越え、米国のように経済を武器化する、経済・貿易の領域で紛争を展開してくるかを観ている。日本としてはそういう認識でなくとも、中国側にはそう映る。
そして、今回の23品目対中規制というものは正にそうなる恐れがある。今回、日本が規制を決定した背景に米国からの強い要請があったことは事実であるが、中国軍のハイテク化によって米国以上に安全保障上の脅威に直面するのは日本であり、今回の規制の背景は安全保障上の強い懸念があるのだ。
一方、中国がそれを”日本が政経分離を覆した”、”安全保障上の目的のために経済領域で攻撃をした”と認識することは想像に難くない。今後、中国がそういった認識を強めれば、中国は政治や安全保障(尖閣の領有権問題など日中は政治問題で既に争っている)だけでなく、経済の領域でも日本へ威嚇的な態度を強め攻勢をエスカレートさせるリスクがある。そうなれば、半導体関連を問わず、中国と関連のある多くの日本企業が影響を被るリスクが高まるだろう。