「将来の姫路の姿はどうあるべきかを考えるにあたり、SDGsは欠かせない大切なカギになります」姫路商工会議所の齋木俊治郎会頭は、開会あいさつで力を込めた。
8月19日、20日の2日間、姫路商工会議所は、兵庫県姫路市のアクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)で、姫路商工会議所設立100周年記念イベント「HIMEJI SDGs EXPO 2022」を開催した。
後援は、兵庫県、姫路市、姫路市教育委員会、兵庫県商工会議所連合会、兵庫県商工会連合会。会場には、2日間で2万3,000人が来場し、講演、出展者との交流、未来の暮らしを想像させる新技術の体験を通じて、地域企業の取り組みやSDGsについて学んだ。
開催初日、エントランスには開場前から行列
8月19日、午前10時の開場を待つ列は、主催者の予想を上回るものだった。
姫路商工会議所設立100周年記念イベント「HIMEJI SDGs EXPO 2022」の会場となったアクリエひめじの入り口には、子連れの家族から学生、お年寄りまでが列をなし、その光景は、一見するとちょっとした祭会場のようだ。
しかし、エントランス付近に展示されたパネルには、「気候変動」、「パンデミック」、「飢餓」、「消滅可能性都市」など、地球規模で解決を迫られる深刻な課題のキーワードが並ぶ。
姫路商工会議所が、設立100周年を記念するイベントでテーマに掲げたのは、SDGs(Sustainable Development Goals)。
「持続可能な開発目標」に向けて、「みんなで始めよう。今日から変えていこう。」と呼びかけるものだ。
姫路市は、兵庫県の南西部に広がる播磨平野に位置する、人口53万4,127人の中核市。世界文化遺産の国宝・姫路城の城下町として栄え、京阪神、中国、山陰を結ぶ交通の要衝としての地の利もそなえている。
同市を中心に広がる播磨臨海工業地域には、鉄鋼、化学工業、電気機械の工場が集中しており、高度経済成長期の日本経済をけん引してきた。
その周辺には、これを支える技術力の高い中小企業も多数存在する。また、古くから皮革関連、マッチ、日本酒、乾麺などの地場産業が盛んな同市は、日本有数のものづくり都市として発展してきた。
この地に存在する918事業所の製造品出荷額は、実に2兆3,339億円(2020年工業統計調査)にのぼる。
将来の姫路のあるべき姿にとって「SDGsは欠かせないカギ」
そんな姫路の商工会議所が、100周年記念行事でSDGsに光を当てたのはなぜだろうか。
開会のあいさつで姫路商工会議所の齋木俊治郎会頭は、「将来の姫路の姿はどうあるべきかを考えるにあたり、SDGsは欠かせない大切なカギになります」と力を込めた。
製造業と地場産業で栄えてきた姫路市だが、2020年1月の新型コロナ拡大以降、業況は落ち込み、従来から課題だった人手不足も深刻化している。
未来に向けた「街づくり」、「モノづくり」、「人づくり」のいずれの領域においても、SDGsが掲げる課題への取り組みはもはや不可避だ。
一方で、姫路商工会議所が2019年から2021年にかけて実施した「姫路市内企業のSDGsに関する調査(回答企業の約95%が中小企業)」の結果を見ると、2030年までの目標達成までの道のりの険しさがうかがわれる。
「SDGsに基づいた取り組みを既に実施している」または「検討している」と回答した事業所は、2019年時点でわずか9.7%。2021年には40.2%へと増加したものの、未だ過半数に満たない状況だ。
齋木会頭は、オープニングセレモニーでの地球規模の問題を紹介する動画に言及し、「動画で挙がっていた世界の問題は、決して他人事ではありません」と強調。
「今回のイベントには、既に取り組みを始めている95の企業・団体が出展しています。この機会に、身近な課題から、市民の皆さんと共にSDGsについて考えたいと思っています」と、地域企業と市民とが連帯してSDGsに取り組む重要性を訴えた。
山口周氏など知識人がSDGsテーマに講演
イベントでは、全日程を通して、4つのテーマに沿ったプログラムを展開した。
1つ目のテーマは、「様々な人々と共に生きる社会の実現」
展示会場に隣接したホールでは、独立研究者・著作家・パブリックスピーカーの山口周氏による講演「SDGsが加速する社会イノベーション」をはじめとする3講演を実施。
企業がSDGsに取り組むべき理由、「サステナブル資本主義」で実現する未来、実践に向けてできることなどを掘り下げた。
また、兵庫県立大学副学長の坂下玲子氏による「子供たちが学ぶSDGs これからの地域コミュニティのあり方について」と題した基調講演と、「教育現場におけるSDGs、次世代に支持される企業経営について」討議するパネルディスカッションも行われた。
展示会場では、SDGsに関する世界各地の課題を視覚的に表したパネル展示だけでなく、車いすバスケットボールとボッチャの体験など、多様性を体感しながら学べる場を提供した。
2つ目のテーマは、「自然と共に生きる社会の実現」
同テーマでは、特にSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」に着目し、基調講演とパネルディスカッションを実施した。
基調講演では、「不都合な真実」(アル・ゴア氏著)の翻訳を手掛けた、幸せ経済社会研究所所長兼ブルー・カーボンネットワーク代表兼大学院大学至善館教授の枝廣淳子氏が、「海から見えてくる、まちと地球の未来」について語った。
パネルディスカッションでは、姫路市立美術館の「オールひめじ・アーツ&ライフ・プロジェクト」の招聘作家のアーティスト・日比野克彦氏らをパネリストに迎え、海洋プラスチック問題をはじめとする海洋環境の現状とこれからについて議論した。
展示会場では、不要衣料から作られたバイオ燃料で実際に走行したことのある「デロリアン」、水素で走る車「MIRAI」、2021年4月から姫路の街を走行している水素バス「SORA」の展示が、注目を集めていた。
また、両日とも、災害発生時の混乱を再現した会場からの脱出を試みるアトラクション「体験型防災サバイバル」を、各日4回実施。親子参加も多く、参加者らは、用意された謎を解くプロセスで、災害時に役立つ知識や技術を身につけた。
地元の飲食店が出展する飲食ブースに囲まれたにぎわい広場では、「ソーラークッカー」の普及を目指す市民団体ソーラーリーグが、カレーやゆで卵を調理して来場者にふるまった。
ソーラークッカーは、太陽熱を利用して料理を作る、姫路発祥のエコな調理器具。電気もガスも必要とせず、太陽熱だけで最高加熱温度160℃を実現できる。
解体して飛行機の手荷物扱いでの運搬が可能で、アフリカや中東などのインフラが十分でない地域にも導入されている。
NPO法人Colorbath(カラーバス)と協働して、アフリカ・マラウイ、モザンビークの医療現場に「ソーラーボイラー」として導入された実績もあり、医療器具の殺菌用にも重宝されている。
自動走行ロボの試乗などでSDGsが目指す街の未来を体感
3つ目のテーマは、「生活を豊かにする技術 地球に優しい技術」
展示の目玉は、隣接する岡山県から上陸した「空飛ぶクルマ」。
同機は、2021年6月、国内初の無人試験飛行に成功した。買い物や通院が困難な地域の暮らしを豊かにし、農業、観光、防災面でも活用し得るモビリティとして、期待が寄せられている。
展示会場では、株式会社ZMPが展開する歩行速ロボの実演も。飲食コーナーでは、目(映像)と耳(音声)で人とコミュニケーションを取りながら、非接触で利用者や周囲の人をサポートする宅配ロボット「デリロ」がサービスし、屋外展示場では、センサーやカメラで障害物を避けながら自動走行する一人乗りロボ「ラクロ」の試乗が行われた。
新しいモビリティとして期待が高まる電動キックボードの試乗体験、VRの板渡り体験、ドローンの操縦体験も、人気を集めていた。
4つ目のテーマは、「SDGsに取り組む企業・団体」
播磨地域を中心に集結した60の企業・団体が、地球にやさしいものづくり、SDGsを加速させるテクノロジー、地域課題解決に向けた活動などを各ブースで紹介した。
日本で初めて幕の内弁当を販売したことで知られるまねき食品株式会社は、食品ロス削減を目指して2021年に本格始動した「冷凍弁当」や、容器や食材などにSDGsの観点を取り入れた「SDGs弁当」を紹介した。
「SDGs弁当」の食材の一部には、ASC養殖場認証、MSC漁業認証を受けた生産者から仕入れた魚介を使用している。
また、掛け紙のデザインは、地域生活支援事業や就労生活支援を行っている社会福祉法人みのりの利用者が手がけた。
総合アミノ酸メーカーとして、「令和元年度 ひょうご オンリーワン企業」にも選ばれた播州調味料株式会社は、アミノ酸の残渣をリサイクルして有機肥料の製造に活用する取り組みを紹介した。
同社のアミノ酸残渣は、安全・安心・環境型の機能性ある肥料作りを手がけるエムシー・ファーティコム株式会社によって、家庭用園芸肥料「アミノイロ」へと生まれ変わっている。
姫路ウォーカブル協議会は、ロボットなどのデジタル技術で、“ウォーカブル”な街づくりを目指す団体だ。
ウォーカブルな街づくりには、移動手段だけでなく、それを搭載できる建物の構造や機能も踏まえた都市デザインが求められる。
そのため、自動運転ロボット「デリロ」、「ラクロ」などを手がける株式会社ZMP、NTTコミュニケーションズ株式会社、神姫バス株式会社、株式会社日建設計、株式会社博報堂など12社が集結した。
各分野の技術・ノウハウを集積し、「歩行者優先の居心地や良く歩きたくなるまちなか」を目指して活動している。
つながり合い、市民を巻き込む企業の取り組みがSDGsを推進
いかにして姫路の豊かな未来づくりに貢献できるか、それぞれの企業や団体が模索し、独自の取り組みを展開している。
本記事で紹介した企業・団体のように、他社や他団体と連携することで地域貢献や環境課題の解決を目指す動きも、盛り上がりを見せている。
イベント開催中の会場には、自分たちが暮らす街を「良くしたい」との想いのもと、出展者として参画する市民の姿、地域企業の技術を体験する子どもたちの姿、地元の飲食店の味を楽しむ家族連れやビジネスパーソンの姿が、あふれていた。
企業と市民、そして行政が、共に未来の街の姿を描き、暮らしのあり方をアップデートする。
姫路商工会議所100周年を記念した「HIMEJI SDGs EXPO 2022」は、その大いなる一歩となるだろう。SDGs推進を本格始動させた姫路の未来に、期待が高まる。