
「土がない、職人がいない」。そんな悲鳴が上がる磁器の聖地・有田で、ある老舗が「厄介者のゴミ」を宝物に変える魔法をかけた。再生された土と、紙から生まれた彩りが溶け合い、手肌に馴染む温かな器が誕生する。
年間400トン。ひっそりと捨てられてきた「土の涙」
佐賀県有田町。美しい磁器が並ぶ華やかな街の裏側で、職人たちが長年胸を痛めてきた光景があった。陶土を作る工程でどうしても混じってしまう、サラサラと粘り気のない土「珪(けい)」の存在だ。
これまでは「成形できないから」と見捨てられ、その量は年間でなんと400トン。処理費用だけで1000万円もかかる、まさに産地の「お荷物」だった。 「このまま捨て続けるだけでいいのか」 そんな問いを抱え続けてきた東洋セラミックスの久野友靖代表。彼が見据えていたのは、いつか底をつく天然資源への危機感だった。
飽くなき挑戦。厄介者が「主役の土」に化けるまで
そんな絶望を希望に変えたのは、たゆまぬ研鑽が生んだ再生技術だった。粘り気がなく、そのままでは形にすらならない「珪」を細かく粉砕。そこに粘性を上げる土などを絶妙な配合で混ぜ合わせることで、ついに成形可能な陶土「NEO CLAY®」を誕生させたのだ。
だが、驚きはこれだけではない。この再生土にさらなる「命」を吹き込んだのは、意外すぎる素材との出会いだった。それは、私たちが普段使っている「紙」の原料、パルプだ。
一般社団法人アップサイクルが回収した古紙から生まれたパルプを、今回は「顔料」の一部として採用。再生された土の上に、紙の息吹を宿した彩りを施す。 こうして、従来の有田焼の「完璧な白」とは違う、どこかホッとするような自然のぬくもりを宿した器が完成した。
「特別な誰か」ではなく、みんなの食卓へ
2月25日から順次発売される「NEO CLAY®×TSUMUGI」シリーズ。驚くべきは、その価格設定だ。
最新の再生技術を使い、手間暇をかけた製品でありながら、お値段は従来の有田焼とほとんど変わらない。 「サステナブルだから高いのは当たり前、という壁を壊したかった」 そんな老舗の意地が、手の届きやすい価格を実現させた。
良いものだからこそ、気取らずに毎日使ってほしい。そんな使い手への愛情が、ひとつひとつの皿やマグカップに込められている。
捨てればゴミ、紡げば未来。この器が教えてくれること
いま、日本の伝統工芸は「受注が減った」「後継者がいない」と、暗いニュースばかりが目につく。けれど、東洋セラミックスが示したのは、伝統とは決して止まっているものではない、という力強いメッセージだ。
捨てられるはずだった成分を再び土へと戻し、紙資源で彩りを添える。その一歩が、有田の、そして日本のモノづくりの未来を明るく照らしている。この器を手に取るとき、私たちはただ食事を楽しむだけでなく、400年の歴史が未来へと繋がっていく、優しくも力強い物語の一部になる。



