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強化段ボール製の展示ブースでCO2排出量が3分の1

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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カワグチマック工業 川口社長(撮影:安井氏)

アフターコロナで増える展示会でSDGs貢献を

新型コロナが第5類感染症となり、イベントの開催が増えている。東京ビッグサイトで開かれる展示会は人だかりだ。

段ボール箱製造・販売会社のカワグチマック工業(兵庫県尼崎市)の川口徹社長は東京ビッグサイトでこう語った。

「展示場のブースを強化段ボールでつくればCO2排出量はトータルで3分の1になります」

その理由を聞いてみると、企業がSDGs(持続可能な開発目標)でやれることは身近なところにあるのに、まだまだやり切れていないことに気づく。

川口社長に7月中旬、東京ビッグサイトで開かれていた「販促エキスポ」であったのは2度目だった。

最初に会ったのは2年前。コロナ禍で増えたリモートワーク用のワークブースを強化ダンボールでつくり、段ボールの可能性を広げようとしていたころだ。

当時から展示ブースを強化段ボールでつくれば、軽く、持ち運びも便利で展示ブースには打って付けと聞いていたが、今回は木製の展示ブースに比べて強化段ボール製のブースはCO2排出量が約3分の1になるという試算を手にしていた。

りそな総合研究所の助言に基づき、製造・輸送・リサイクルのLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)でCO2排出量を試算すると、カワグチマック工業が使うスウェーデン製の強化段ボール「Re-board(リボード)」で4小間(幅6m、奥行5.4m、高さ3.6m)の展示ブースを作った場合、CO2排出量は1768kgだが、カナダ製の木材ボードで作った場合は5715kgだった。

強化段ボールの方がCO2排出量を3分の2以上も削減できる勘定だ。

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環境にやさしいだけでなく、人にも優しい強化段ボール

なぜこんなに差が出るのだろうか。製造段階でほぼ3分の2、輸送段階でほぼ4分の3も削減できる。

強化段ボールは原材料の85%が間伐材でつくられたエコ商品で、強度はほぼ木材ボードと同じなのに、重さは5分の1と軽い。軽いと輸送時のCO2排出量はぐっと少なくなる。

リサイクルの段階でも木材ボードでつくられた展示ブースの多くは産業廃棄物となるが、強化段ボールは再び段ボールの原料にリサイクルされる。

川口社長は「段ボール製のブースは軽いので、組み立て、撤去の作業も楽で高齢者でも女性でもできる。環境にやさしいだけではなく人にもやさしい」と言う。

価格も木材ボードでつくるよりも、ほぼ安くなるという。

そんなに良いことづくめなのに「販促エキスポ」に出展している300を超えるブースのうち、カワグチマック工業製のブースは2カ所、他メーカーの強化ダンボール製のブースが1カ所で全体の1%程度と少ない。

「まだ強化段ボールの存在が知られていません。私たちの努力不足です」と川口社長は苦笑いするが、上場企業や大手企業の担当者に会って話をすると「強化段ボールに興味を持ってくださり、導入を検討してもらえるようになった。SDGsのおかげです」と、最近は前向きな評価を受け始めたという。

だが大きなハードルは従来のサプライチェーンが大きく変わる可能性があることだ。

展示会などのイベントの場合、広告会社などの傘下にブースの設計・製造会社があり、そこに納入する木材ボード会社、ブース組み立て業者などのサプライチェーンが出来上がっている。

ところが強化段ボール製の展示ブースの場合は加工、印刷などほぼ全ての作業がカワグチマック工業1社で可能だ。

強化段ボール製の展示ブースの増加は、従来のサプライチェーンに大きな打撃を与えるに違いない。

大手企業の広報担当者は「良いことはわかるが、従来の取引先を変えるのはすぐにはできないかもしれない。新規のものなら可能かもしれないが」と漏らす。

持続可能性はない「変化できない会社」

時代や技術の大きな変化の潮流の中で、従来の事業モデルにこだわり、変化できない会社が多いのは事実である。

だが考えてみれば技術や市場環境は刻々と変わるのだから、事業モデルも刻々と変えないと、その事業の持続可能性はなくなるのは自明である。

従業員100人余りのカワグチマック工業の歴史をみても事業モデルを大きく変え、生き残りを模索してきた。

1969年の創業以来、同社は機械メーカーや食品メーカーなどの発注に応じて段ボール箱をつくってきた。いわゆる下請け企業として発注者の意向に大きく影響を受けるのが宿命だった。

しかも梱包材は少しでも安い方が選ばれる商材である。

2010年に銀行員から2代目社長に転じた川口社長は「このままでは事業の持続可能性がない」と判断し、強化段ボールを使った新規事業に大きく舵を切ったのだ。

それから10年余りたち、強化段ボールでつくった陳列台やデスク、リモートワーク用のブース、キャットタワーなどのペット商品の製造・販売に乗り出し、今では展示ブースの受注に力を入れている。

昨年度は約12億円の売上高のうち強化段ボール事業は2割を占め、今年度からは黒字となる見込みだ。

「いずれリボードを使った強化段ボール事業を10億円規模にして、会社を大きく変えたい」と川口社長。

そんなカワグチマック工業の変化ぶりに比べて、多くの日本の企業の変化スピードは遅いようにみえる。

東京ビッグサイトで開かれていたある展示会の最終日の終了間際に会場周辺を歩いた。解体業者が会場入り口に集まり、ゴミを搬送する大きな台車が並んでいた。

大量の廃棄物が発生し、処理場に向かって搬出されていく。イベントが終わるごとに、いつまでもゴミを大量に出し続けるのだろうか。

10年後、いや5年後にはまったく異なる「祭りのあと」を見たいものだ。日本企業のSDGsの取り組みの真剣さが問われている。

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ライター:

Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト 1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立。東洋大学非常勤講師。著書に『2035年「ガソリン車」消滅』(青春出版社)、『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

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