三井物産 岩佐達朗氏(左)、中野製薬 坪西慎氏(右)、中央はCFP算定済製品ナカノスタイリングタント(脱炭素EXPO、三井物産ブースにて)
頭髪化粧品業界では初めて(※)製品単位のカーボンフットプリント(CFP)算定を導入した中野製薬株式会社(以下、中野製薬)は、三井物産株式会社(以下、三井物産)が提供するLCA Plusの支援のもと、未来を見据えた活動を推進。
その背景やLCA Plus導入の決め手、その効果について、中野製薬 執行役員 研究開発本部長 総括製造販売責任者の坪西慎氏と三井物産LCA Plusチーム プロジェクトマネージャーの岩佐達朗氏に話を伺った。
※中野製薬調べ(2024年6月27日時点)。
中野製薬のサステナブル経営
中野製薬は、京都市山科区に本社を置く理美容プロフェッショナル向けおよび一般向け頭髪化粧品メーカー。海外展開やOEM事業、コンシューマー向け商品の開発にも注力している。
さらに、グループ会社のハートランドを通じ、ペット用化粧品事業も展開。
同社は「CHANGE the ALWAYS ~未来を変える今にする~」をスローガンに掲げ、未来を見据えたサステナブル経営を推進している。
2020年には「サステナビリティプロジェクト」を立ち上げ、環境負荷の低減を目指した取り組みを本格的に開始。中でも、製品単位でのCFP算定に注目し、その導入を進めている。
中野製薬の決意:環境意識の高まりを受け、業界の中で一歩先へ
なぜサステナビリティ活動の一環としてCFP算定に注目したのですか?
坪西
頭髪化粧品業界では、当時サステナブル活動への意識や取り組みがまだ高くありませんでした。
しかし、我々はこの状況をチャンスと捉え、業界でいち早く行動を起こすことで競争優位性を確立できると考えました。
製品単位でのCFP算定に取り組むことで、環境負荷を見える化させ、そのデータを公表することで業界内外にアピールできると判断しました。
岩佐
中野製薬さんのように、業界全体の意識がまだ十分に高まっていない段階で先行して行動を起こすことは非常に意義があると感じています。
特に消費者や取引先に対して環境配慮をアピールできる点で、CFP算定は製品競争力の強化に直結します。こうしたリーダー企業の取り組みが、業界全体の変革を促すきっかけになると思います。
CFP算定を進める上で課題となった点は何でしょう?
坪西
化粧品の処方は多種多様な原料から成り立っていますが、それぞれの原料の一次データは少ない(CFPに取り組んでいる原料メーカーが少ない)状況です。
また、CFPを算定しようにも、そもそも算定に必要な専門知識が社内にはなく、データ処理や算定基準についても自力で対応するのは非常に難しいという点があります。
これらの点から、我々はCFPの算定を検討した際に、自力では難しいと判断しました。
岩佐
坪西様がおっしゃられた通り、多くの企業様が同じ課題にぶつかります。
今多くのお客様が直面しているCFP算定の課題は、データ収集にあると考えています。特に原料が多岐にわたる場合や製品数が多い業界は、一次データの収集が大きな壁となります。
LCA Plusでは、原単位データベースであるIDEAを内装したり、算定支援の伴走サービスを提供することで、こうした課題を解決している点は強みの一つです。
LCA Plusの魅力:算定精度と柔軟性が選定の決め手
数ある算定ツールの中から、LCA Plusを選定した理由について教えてください。
中野製薬 坪西氏(脱炭素EXPO、三井物産ブースにて)
坪西
最初は、CFP算定ツールといっても、どれを選ぶべきか全く分からない状態でした。
いくつかの企業と話をしましたが、どこも一律に『パッケージ化』されている印象が強く、私たちのニーズに合わない印象が強かったです。
その点、LCA Plusは必要な時に必要な機能や支援だけを選べる柔軟なオプションがとても魅力的でしたね。
岩佐
それはLCA Plusの大きな特徴の一つですね。基本サービスを土台に、各企業のニーズに合わせたオプションを追加できる仕組みを採用しています。
そのため、中野製薬さんのように特定の課題にフォーカスしたいお客様にも柔軟に対応できる点は強みの一つと自負しています。
坪西
そうですね。特に、データの紐付け作業に関しては、LCA Plusのサービスセンターで細かくサポートしてもらえたおかげで、スムーズに進められました。
化粧品業界では、原料が非常に多岐にわたりますし、それぞれの原料に対応した二次データとの紐付け作業は、とても自社だけでは手に負えませんので。
紐付け作業という課題について、もう少し詳しく教えていただけますか?
坪西
例えば、化粧品の成分にはAという原料やBという原料が含まれていますが、それらに対応する排出係数データを一つひとつ紐付ける必要があります。
この作業には専門的な知識が必要で、しかも非常に緻密なプロセスが求められます。最初は、正直どうやって進めるべきか見当もつきませんでした。
三井物産 岩佐氏(脱炭素EXPO、三井物産ブースにて)
岩佐
その点は多くの企業様も悩んでおられます。LCA Plusでは、サービスセンターというオプション機能にて、この紐付け作業を全力でサポートすることに力を入れています。
具体的には、弊社の専門スタッフが原単位データベースから適切な排出係数を選定し、中野製薬さんが実際に使用している原料に紐付けるプロセスを支援しました。
この伴走型の支援が、企業の負担を大幅に軽減でき、ご好評いただいています。
坪西
まさにその点が魅力的でした。支援がなかったら、そもそも一歩目をどう踏み出せばいいのか分からなかったと思います。算定結果に自信を持てるのも、LCA Plusのこうしたサポート体制があったおかげです。
精度の話がありましたが、LCA Plusの積み上げ方式についての感想を教えてください。
坪西
積み上げ方式は、按分方式と比べて精度が高いと聞いています。化粧品業界では、原料の種類や製造プロセスが異なるため、按分方式では全体の平均値として出てくる結果が実態に合わないことがあります。
積み上げ方式で細かく分析できたことで、製品ごとの正確なGHG排出量が算定できました。
岩佐
そうですね。LCA Plusは積み上げ方式を採用しているため、排出量の算定結果が非常に具体的になります。
その結果、『どの原料や製造プロセスがどれだけGHGを排出しているのか』が明確になるため、削減施策を考える際にも役立ちます。
また、精度の高いデータは、顧客や取引先に対しても信頼感を与える重要な要素となります。
坪西
そうした精度の高さも、私たちがLCA Plusを選んだ理由の一つです。CFP算定において、信頼できる結果を得られることは非常に重要ですし、その結果を業界内外に公表する際の安心感にもつながっています。
初めてのCFP算定とのことでしたが、算定ができるようになった時の感想を教えてください。
坪西
最初は本当に不安でしたが、LCA Plusを使い始めてからその不安は一気に解消されました。
特に、岩佐さんをはじめとする三井物産の支援体制が心強かったです。ツールの使いやすさだけでなく、我々の取り組みを後押ししてくれる伴走型のサポートが、大きな安心材料になりました。
岩佐
ありがとうございます。中野製薬さんのように熱意を持って取り組んでいただける企業とご一緒できることは、私たちにとっても大変嬉しいことです。
LCA Plusは、単なるツールではなく、企業に寄り添い、サプライチェーン全体の最適化を達成できるように、これからも進化を続けていきます。
LCA Plus導入の効果:業界を牽引するリーダーに
実際にLCA Plusを導入して、どのような効果を感じていますか?
坪西
LCA Plusを使ってCFPを算定した製品は、コンシューマー向け商品の『ナカノスタイリングタント』シリーズです。
この製品は私たちが最初に公表したCFP算定済の製品でもあり、頭髪化粧品業界では初めての事例でした。この結果を公表したことで業界内外から非常に大きな反響を得ました。
CFP算定済の「ナカノスタイリングタント」一覧(中野製薬HPから当社作成)
岩佐
『ナカノスタイリングタント』シリーズを算定した際は、私たちもデータの紐付けや算定サポートを伴走しながら取り組ませていただきました。
はじめての算定ということでしたので、算定範囲の設定や、どの排出係数を紐付けるかなど、細かい部分を慎重に進めてきました。
その結果、精度の高いデータが算出できたことは我々としても大きな成果だと思います。
坪西
この算定結果を公表したことで、顧客や取引先から『中野製薬はサステナブルな取り組みを積極的に行っている』という評価をいただけるようになりました。
美容師さんたちにもこの取り組みについて説明すると、非常に関心を持っていただけている実感があります。
また、サプライヤーからも『ここまで進んでいる会社は珍しい』というお声をいただき、良い刺激になっています。
数値を公表することで得られる競争優位性について、どのように考えていますか?
坪西
数値を公表することの意義は非常に大きいと感じています。例えば、カロリー表示が食品選びの一つの基準になっているように、今後、環境負荷の数値が商品選択の基準になる未来が来ると考えています。
その未来を見据えて、いち早く取り組むことで、業界内でのポジションを強化していきたいと思っています。
岩佐
環境性能の数値を公表することは、コストだと感じる企業も多いのですが、実際には大きなメリットがあります。
数値を公表することで、顧客や取引先からの信頼が高まり、新たなビジネスに繋がるケースも増えています。
また、消費者側としても、環境価値の高い製品は数ある製品の中から選ぶ理由の一つになっています。そのことを考えると、コストよりもメリットの方が大きいと思います。
また、中野製薬さんのように業界をリードする企業が率先して数値を公表することで、業界全体の意識も変わっていくことが期待できますので、非常にありがたい取り組みです。
CFP算定を進める中で、社内での変化はありましたか?
坪西
算定を進める過程で、社内全体のサステナブル意識が高まったと感じます。
当初は『なぜそんなデータが必要なのか?』という疑問もありましたが、プロジェクトが進むにつれて、社員やサプライヤーもこの取り組みの重要性を理解してくれるようになりました。
社内外の意識が変わり、『中野製薬はサステナブル経営を本気で進めている』という印象を持ってもらえるようになったのも大きいですね。
岩佐
嬉しいですね。実際に、LCA Plusを通じて算定を進めることで、ただ数値を出すだけではなく、企業全体の意識改革につながるという点は、多くの企業で共通して起きている変化だと感じています。
特にサプライチェーン全体を巻き込む形で進めることが、長期的な競争力の向上につながるので、早い段階で導入することは大きなメリットになります。
坪西
そうですね。業界を先駆けてCFP算定をしているので、今回の算定結果を元に、OEM事業においても『CFPを算定できるメーカー』というアピールポイントを持つことができるようになりました。
これは新規案件の獲得や、既存の取引先との関係強化に役立つことが期待できるので、我々としても大きな一歩です。
改めて、中野製薬さんにとってCFP算定はどういった意義がありますか?
坪西
CFP算定は、単なる環境活動ではなく、今後のビジネス戦略の一環だと感じています。
私たちも最初は、何から手をつければいいのか分からない状態でしたが、LCA Plusを活用することで『算定を進める』だけでなく、それを武器にして次のビジネス展開に繋げることができると感じています。
特に、算定結果を公表することで、会社の信頼や競争優位性を高めることができたので非常に有意義な取り組みだと感じています。
三井物産 岩佐氏(脱炭素EXPO、三井物産ブースにて)
岩佐
仰る通り、CFPの算定は、環境負荷を見える化するだけでなく、企業価値の向上にもつながります。
特に海外では、CFP算定が製品販売の条件となる国も増えてきますし、国内でもより重要視される傾向にあります。
CFP算定は、『やらなければならない』という義務感だけでなく、新しい市場を開拓するチャンスとして捉えていただきたいです。
中野製薬の今後の展望:業界を牽引するリーダーとして歩む未来
今後、中野製薬さんとしてCFP算定をどのように展開していきたいですか?
坪西
現在はまだ一部の製品のみの公表ですが、今後は複数の製品も公表していく予定です。また、将来的にはOEM製品にも広げていきたいと考えています。
特に、OEMのクライアントと共にCFP算定製品を展開していくことで、サステナブル製品の価値をより多くの企業に伝えられるようにしていきたいです。
岩佐
OEM企業との展開は非常に重要だと思います。特に、BtoBの取り組みでは、サプライチェーン全体での環境対応が求められる時代になっています。
中野製薬さんのように先進的な企業が、クライアント企業との共創を通じてサステナブル製品を展開することは、業界全体にとっても大きなインパクトがあると思います。
三井物産として、今後どのように中野製薬をサポートしていきたいですか?
岩佐
中野製薬さんのように業界で先駆けた取り組みを進めている企業に対しては、引き続きLCA Plusを通じた伴走支援を行っていきたいですね。
特に、CFP算定の精度向上や削減シナリオの策定など、次のステップに進むためのサポートを強化していきたいと考えています。
また、今後はOEMクライアントを巻き込んだ活動の支援にも力を入れていくということなので、例えば、クライアント企業に対してLCA Plusの活用方法を提案したり、共同で算定を進めるプロジェクトを組んだりすることで、中野製薬さんとその取引先が一体となってサステナブルな取り組みを推進できるようなお手伝いをしたいと思っています。
坪西
三井物産さんの伴走支援がなければ、ここまでの取り組みは実現できなかったと思っています。今後も引き続きサポートをお願いしたいですし、さらに連携を深めて、新しい挑戦を実現していきたいですね。
中野製薬 坪西氏(脱炭素EXPOでの三井物産との基調講演にて)
坪西
私たちは、LCA Plusを活用してCFPを算定するだけでなく、そのデータを活かしてサステナブル経営をさらに前進させていきます。
業界リーダーとしての責任を果たしつつ、理美容室向け化粧品業界全体の意識改革にも貢献していきたいです。
また、OEM事業や新製品開発を通じて、より多くの企業や消費者にサステナブルな価値を提供していきたいと考えています。
岩佐
素晴らしいですね。中野製薬さんのような企業が業界をリードすることで、頭髪化粧品業界全体が変わる可能性を秘めています。
LCA Plusはその変革を支えるツールとして、引き続き進化し続けます。私たちも中野製薬さんと共に歩みながら、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと思います。
メッセージ:これからCFP算定を始める企業へ
LCA Plusはどのような企業にとって有益なツールだと思いますか?
坪西
私たちのような算定したいけどどうすればいいか分からないという企業にとって、LCA Plusは非常に使いやすいツールでした。
使用したいニーズに合わせたオプション設定や、三井物産さんの伴走支援があったおかげで、負担を最小限に抑えながら取り組むことができました。
特に、CFP算定が初めてという企業には、非常におすすめだと思います。
岩佐
ありがとうございます。LCA Plusは、業界や企業規模を問わずご活用いただけるツールです。特に、これから算定を始める企業や、データ収集の方法に悩んでいる企業には最適だと思います。
私たちは、ツールを提供するだけでなく、具体的な課題に寄り添い、解決していくことを目指しています。まずはお気軽にご相談いただければと思います。
今、導入を迷っている企業に向けて、一言お願いします。
坪西
CFP算定は、今後間違いなく企業に求められる重要な取り組みになります。
今回、我々が取り組んだ事例は、頭髪化粧品業界の中でも初めてのものでしたが、だからこそ先んじて取り組むことができ、業界内でのポジションをより強化できたと感じています。
これから導入を検討されている企業にも、ぜひLCA Plusのようなツールを活用して、自社の強みを最大化してほしいと思います。
岩佐
CFP算定に取り組むことは、環境への責任を果たすと同時に、企業が未来を切り拓くためのステップでもあります。
LCA Plusは柔軟で使いやすいツールであり、私たちはその活用を全力でサポートします。ぜひ一緒に、持続可能な社会の実現に向けた第一歩を踏み出しましょう。
◎プロフィール
坪西 慎
中野製薬株式会社 執行役員 研究開発本部長 総括製造販売責任者
2001年中野製薬株式会社入社。頭髪化粧品の研究開発に従事し、同社のメインブランドである酸化染毛剤caradecoの開発を担当。2020年4月から同社の社内プロジェクトであるサステイナビリティ推進プロジェクトに参画。2024年4月より現職。
岩佐 達朗
鉄鋼製品本部 次世代事業開発部 バリューチェーンソリューション室 LCA Plus事業推進チーム プロジェクトマネジャー
2007年三井物産株式会社入社。鉄鋼製品本部にて物流、事業管理、新規投資案件や海外駐在(台湾)等を経験。2023年より現職。プロジェクトマネジャーとしてプロジェクトを率いながら製品開発にも従事。
◎企業概要
中野製薬株式会社
設立:1959年9月
資本金:1億円
URL:https://www.nakano-seiyaku.co.jp/
三井物産株式会社
設立:1947年(昭和22年)7月25日
資本金:342,560,274,484円 (2023年3月31日現在)
URL: https://www.mitsui.com