
2025年8月18日、コレックホールディングス(東証スタンダード、6578)は、子会社AoieおよびC-clampにおける助成金の不正申請について、外部調査委員会の報告書を公表した。買収からわずか1年余り、太陽光・蓄電池という「成長事業」の裏側で、制度を食い物にした不正の構図が浮かび上がった。
コレックHDとAoieの素顔
コレックHDと聞いても馴染みのある人は少ないだろうが、エヌリンクスと聞けば、「あのNHKの集金代行の会社か!」となる人は多いハズだ。NHKの集金代行業務が契約終了となってから、同社はお世話になっていたNHKとの決別を示したのか、社名までNHKのエヌを捨て去り、コレックHDへと転生していたようである。
同社の歴史をおさらいしておくと、2010年に設立され、NHKの契約・収納代行業務で知られた企業だ。その後、アウトソーシングやメディア事業を経て、近年は新たな柱を求めエネルギー分野に参入している。
今回の不正はそんな同社の子会社Aoieを舞台にしたものである。コレックHDに2024年4月にM&AされたAoieは、東京都国分寺市に拠点を構え、家庭向けの太陽光発電設備や蓄電池の提案から工事までを手がける新興企業だった。ウェブ集客を武器に急成長を遂げていたが、まさにその急拡大の陰で「補助金頼みのビジネス」が暴走していたことが明らかになった。
同社を買収した当時、コレックHDは「太陽光事業の垂直統合によって販売から設置までを一貫対応し、収益性を高める」と説明していた。
決算説明会では、既存子会社C-clampとのシナジー効果も強調された。仕入れや信販会社へのスケールメリット、ウェブ販売チャネルの追加、訪問販売ノウハウの掛け合わせ、さらに設置業務をグループ内に取り込むことで外部流出していた費用を内製化できる点など、財務的・非財務的に大きな効果が見込まれるとされていたのである。
経営陣は「これらの相乗効果で太陽光事業の売上・利益を拡大していく」と自信を示していたのだが……。
二重契約書のトリック
8月18日に適時開示された報告書が示したのは、まさに“制度の隙間を縫った”巧妙な手口だった。顧客と取り交わした契約書とは別に、助成金申請用の「水増し契約書」を作り上げる。そこではキャッシュバックや値引きを反映せず、実際以上に高額な契約に見せかけていた。こうして得られた助成金は本来よりも膨らみ、225件にのぼる事例で不正が確認された。
さらに契約金額そのものは一致させつつ、内訳を操作する「帳簿上のマジック」も発覚した。助成率の高い蓄電池の費用を増額し、助成率の低い機器を圧縮する。結果、顧客の負担を抑える形を装いながら、実際には制度の趣旨を歪める申請が197件にも及んだ。加えて国や他の自治体の補助金を申告せず、二重に助成金を受け取るケースも69件確認され、合計で約1億4,514万円の過大受給につながったと試算されている。
発覚の契機は「顧客の告発」
事件の端緒は、顧客が放った一言だった。「契約書が2通ある」。不審に思った顧客が指摘し、公益財団法人東京都環境公社(クール・ネット東京)が動いた。そこから社内調査、外部委員会の設置と進み、ついに“二重帳簿”の実態が暴かれた。調査では数万件規模のメールやチャットが精査され、現場で交わされていたやり取りまで明らかになった。
ガバナンス崩壊の構図
報告書は、今回の不正が長期間続いた背景として、いくつかの構造的欠陥を指摘する。M&Aの検証は表面的で、助成金ビジネスのリスクを深掘りできなかった。デューデリジェンス(DD)の難しさはどんなM&Aでも言われていることで、いささか可哀そうではあるが、結果としてこのような不正を見抜けなかったことをもってしてはDDを依頼したFAや、同社のM&A担当の目利きのなさと指摘されても仕方あるまい。
また、買収後の統合作業(PMI)も経験不足で、現場の商慣習に潜む不正を抑える力を持たなかったということではないだろうか。
報告書では、取締役会での報告は業績偏重で、リスクやコンプライアンスの議論はほとんど行われなかった。内部監査も年2回、定型的なチェックにとどまり、事業特有の危うさを察知できなかった。そして現場では「顧客のため」「他社もやっている」といった大義名分のもとに、売上至上主義がルールを凌駕していたようである。
教訓と時代性
本件が突きつけるのは、M&Aをめぐる企業統治の盲点である。買収は単なる入り口に過ぎず、統合後のPMIで文化や監査体制を根付かせられるかが成否を分ける。信頼よりも検証を重視するガバナンスが不可欠であり、経営トップが法令遵守を優先する姿勢を鮮明にしなければ、現場は業績のプレッシャーに屈してしまう。
いま政府は再生可能エネルギー普及のため助成金制度を拡充している。しかし、制度を逆手に取る「補助金ビジネス」のリスクは増大する一方だ。
コレックHDの事案は、制度を利用する企業に求められるガバナンス水準を改めて問い直すものであり、カーボンニュートラル時代の企業経営に警鐘を鳴らしている。
NHKの集金代行は誰かがやらなければならなかっただろうことであり、事業で莫大な売り上げを築いた同社の事業そのものは否定されるべきではないだろう。ただ、集金の取り立て手法の悪辣さや不良のあんちゃんのような見た目で夜に訪問する集金取り立て担当者たちの非常識な手口が度々ネットで炎上していった過程で、NHKの取り立ての象徴となり、悪名高き会社となってしまった同社。NHKの呪縛から逃れたと思った矢先での不正発覚は残念である。
どのように巻き返しを図るのか注視したい。