「現実を見れば、都市と地方、企業規模での情報格差は厳然として存在する」。デジタルマーケティングのパイオニア、株式会社デジタリフト代表取締役百本正博氏は日本のウェブマーケティングの現状をこう指摘します。今回は、大手広告代理店を経て、デジタルマーケティング黎明期に当社を設立し、クライアントの課題を解決し続けてきた百本さんに起業の経緯、SDGsへの取り組み、ステークホルダーとの向き合い方を伺いました。
無形の価値を生むデジタルマーケティング技術
Q.まず起業の経緯からお聞きします。元々大手広告代理店にお勤めされていたそうですが、なぜ独立しようと思われたのでしょうか。
百本:学生時代からいずれは独立したいと考えていました。しかし、まずは広告業界で一人前の仕事ができるようになってからと考えて、10年間勤務しました。その間、AE(アカウントエグゼクティブ)としてメガバンクや大手通信会社、自動車メーカーなどの顧客を抱え、マーケティングについて深く学びました。退職後は一旦マーケティングの仕事を離れて、大手インターネット広告会社で営業コンサルティングをしながら、サラブレッドの輸入販売などを手がけていました。その仕事を7年ほどしていた間にデータマーケティングの分野に今後可能性があることが見えてきました。それで自分の知識や経験がそこに寄与できないかと考えて2012年に起業しました。
Qなぜデータマーケティングに可能性を感じたのでしょうか。
百本:2010年頃まではまだ、マーケティングは総合広告代理店に任せていた分野とネット広告の分野に完全に分かれていました。しかしその後、ネット分野が進化し、また2012年頃には、その境も徐々になくなってきていました。当時DSP(Demand-Side Platform)が広まり出した時期だったこともあり、まずDSPを扱う会社としてスタートしました。
Q.起業された2012年頃は現在のようなウェブマーケティングがまだ一般的ではなかった時代です。クライアントの理解を得るだけでもご苦労があったのではないでしょうか。
百本:私自身も、マーケティング業界を7年も離れていたのでブランクがありました。豊富な人脈があるわけでもなく、本当に初期の営業には苦労したのを覚えています。私は東京・杉並区出身で、地元にオフィスを構え、たった1人で事業を始めました。最初は広告代理店時代や営業コンサルティング時代の伝手を辿るところから始めました。テレアポも1日に200件したり(笑)。起業後、最初の半年ほどが一番苦しかったですね。その後、営業コンサルティング時代の部下だった株式会社Qの西原さんと再会したのですが、彼は「メールの書き方、名刺の渡し方から教えてもらった恩がありますから」と、最初のお客様になってくれました。その時は涙が出るほど嬉しかったですね。それから今も頑張ってくれている奥谷が1号社員として入社してくれて2人体制になった。2013年頃には市場の広がりも手伝い、お客様もDSPを理解してくれるようになってきました。
Q.現在はデータマーケティングだけでなくその周辺領域も含めたコンサルティングをされたり、カスタマーの意思決定にフォーカスして、効率化を図ることを主眼に置いたご提案をされていると聞きました。
百本:テクノロジーが急速に進み、できることが多くなりすぎてしまった結果、デジタル分野が操縦しにくいものになっているのが現状だと思います。我々は専門家としての知見を持っていますから、多種多様な機能の中から的確なアドバイスをクライアントに提供できます。その中には広告を出す前段階のマーケティング構造へのアプローチ、更には人材採用などまでも含まれます。それが弊社の提供する「CdMOサービス」です。実際の広告運用では「アジャイル型広告運用」を行っています。トライ&エラーを高速で繰り返しながら常に変化する状態を見極めながら最適化を図っていくスタイルです。
現在は課題解決の1つとして中小企業・スタートアップ企業向けの広告運用パッケージプラン「LIFT+」を提案しています。これは中小企業やスタートアップ企業、地方の企業など、まだ広告に多くの予算をかけられない企業やデジタルマーケティングの価値は分かるが手法が分からない企業に対し、そのメリットを感じてもらいたいと考えてリリースしたプランです。AIの活用やシステム連携で業務を自動化することで、大手では数千万円単位になる場合もある内容を10万円単位の低価格でご提案していますが、ビジネスグロースに寄与できるサービスとして、好評を得ています。
Q.お話を伺っていると「お客様に対して何が提供できるか」という強い想いが感じられます。
百本:お客様がいない限り、私たちは私たちではいられません。弊社が提供しているサービスは考え抜いた配信構造、一つ一つの細かな思考や対応の結晶が配信データとしては残りますが、そのプロセスが形として残る仕事ではない。だからこそ、結果とともにコミュニケーションの中でお客様が価値を感じてくれることが全てなのです。会社の規模が大きくなってくると、社内で様々な問題が生まれてきます。その時に「その問題はお客様から見たらどうなのか」「お客様に何を提供できるのか」という判断の視点を常に持っていなければなりません。
またお客様に対してできること・できないことをクリアにすることも心がけています。そこを正直に伝えることは弊社が選ばれている理由の1つだと思っています。
常にお客様がスタートでありゴールなのですから。
ステークホルダーへの感謝
当社のクライアント第1号です。起業したばかりで本当に苦労していた時に前職の伝手で連絡を取り、再会しました。
西原さんは起業して大成功をされていたのですが、私のことを覚えてくれていて「百本さんにはお世話になりました。その恩があるので発注します」と言ってくれました。サイトを訪れてくれたけれどもコンバージョンしなかった方へ、バナーで訴求するリターゲティング広告。最初の契約でしたから、本当に嬉しかったですね。
出会った時はコンサルタントと受講者、私にとってはいわば教え子のような存在でした。しかし、再会した時には、西原さんは立派な経営者になられていて、立場が逆転していたわけですから、私にとっても感慨深いものがあります。
創業から1年ほど経過した頃からコンタクトを取らせていただき、私からDSPでの効果的なウェブマーケティングをご提案しましたが、当初は導入いただけませんでした。その後2年ほど継続的にお話をさせていただき、結果ご契約をいただきました。現在はその効果を実感いただき、大きな契約になっています。
契約まで時間がかかりましたが、弊社の提案に長く耳を傾けてくださった担当の方や、マネジメント層の方々には本当に感謝しています。また弊社としても会社がグロースしていく中でどうしても欠かせないお客様だと考えていましたので、その点でも感謝しております。
櫻井さんとは、起業前からウェブマーケティング業界を今後どのように発展させていくべきか、といった様々なテーマで意見を交換させていただきました。2020年にある商品の広告プランについて、競合プレゼンに参加させていただいたのですが、まず弊社をそのプレゼンに加えてくれたことについて、非常に感謝しています。
今でもトライ&エラーを繰り返しながらですが、継続的にお付き合いをさせていただき、今後のことについてもお話をいただけている。櫻井さんは色々な新規事業を立ち上げていかれると思いますが、サポート役として最大限使っていただきたいと思っています。
最初に知り合ったのは私が広告代理店に勤めていた時です。起業後に再会した際にも、私のことを覚えてくださっていました。佐々木さんはディーラーの販売促進を担当されていましたので、私が最新のデジタルマーケティングの効果性についてご説明すると、意欲的に色々試してくださいました。様々な面でお引き立ていただいた思い出のあるお客様です。
彼との出会いは弊社の親会社が新規事業を立ち上げた時です。私は営業統括のような形で参画していたのですが、そこに鹿熊が参加していました。当時彼はまだ大学生だったのですが、ずば抜けて優秀でしたね。
特に学びと理解の速さは魅力的で、新規事業が落ち着いたタイミングで「うちにおいでよ」と誘いました。彼は自分で伸びていく人。ですから会社の成長ペースに左右されてその成長が鈍化することが心配で、早いうちに彼の職掌範囲を広くしてどんどんチャレンジしてもらうように心がけました。
彼はそれに応えてくれて、半年ごとに役職も上がり、現在は取締役をやってもらっています。私と彼は23歳年齢が離れているのですが、ビジネスに対しての思考回路が似ていて、特に何らかのアクシデントが発生した際の対応が一致しているのが助かります。
弊社が、ここまでグロースしたことへの彼の貢献は非常に大きく、特に当社のAE(アカウントエグゼクティブ)として、営業組織を支えてくれています。
弊社の第1号社員です。私がたった1人で立ち上げた会社で、クライアントソースが安定しているわけでもないのによく入社してくれたと思います。しかも彼は早稲田大学理工学部の院生でマーケティング専攻からの新卒入社です。
2人で創業期の地道な営業活動から運用体制づくりまで様々なことを協力してこの会社を立ち上げてきました。今は60人ほどの規模になりましたが、第1号の彼がいなければ今日の会社はなかったでしょう。
当社の重要案件を支えてくれており、特に複雑な構図を紐解いて適正化する能力に長けている管理職です。
実は、彼は内定後に別のチャレンジをすることになり、その時は入社には至らなかったんです。しかしその後、半年か1年ほどしてから、もう一度会えませんかと連絡をもらいました。居酒屋でテーブルを囲みながらどうしたの?と聞いたら「色々考えた結果、御社に行きたい」と。二つ返事で大歓迎だよ!と答えました。彼はEC分野の経験もあるので、営業としてとても頼りになる存在です。
彼が弊社に応募してきた頃は、まだデジタルマーケティングが一般化しておらず、入社希望者に毎回その仕組みを説明していました。その中で彼は難解な仕組みも1回で理解してくれ、しかも入社後1カ月でその話をマニュアル化してくれた。次の新入社員からはそれを渡して勉強してもらいました。
彼は正に弊社の知の泉ですね。理解が抜群に速い。運用型広告はたくさんの知識が必要ですが、それを熟知しています。彼がいてくれるおかげでメディアにも専門家がいる会社と取り上げてもらえますし、資金を預けてくれるクライアントへの信頼を担保することにもなる。
組織貢献度が非常に高い存在です。とはいえ、彼は一度別の道を歩んでいた時期があるのですが、鹿熊と一緒に説得し、戻ってきてくれたというストーリーもあり、思い入れの強い社員です。
荒井さん(シニアマネージャー)
ベンチャー企業では管理部門の体制が十分でないケースがあると思いますが、弊社は石塚と荒井を中心に管理部門が頑張ってくれているおかげで会社の安定性と機能性が支えられています。品質担保もしっかりと機能しています。
営業と管理の関係も良好です。これは営業部門の鹿熊と青島、そして管理部門の石塚と荒井が互いにより良い会社にしたいという想いで協力してくれているからです。私が安心して仕事に注力できる環境を作ってくれている頼もしい存在です。
私がマーケティングの現場に戻ってきた時に、営業スタイルやテクニカル面など色々教えてくれたのが三瓶さんです。私より年下なのですが、当時からさん付けで、自然と敬語で話していましたね。今でも定期的に連絡を取り合って情報交換しています。彼としてはいきなり自分より随分年上のオジサンに最先端のウェブマーケティングを教えなければならない立場にされたのですから、大変だったと思いますよ。
これは特定の人を指すわけではありませんが、デジタルマーケティング業界で働く中で、ツールとして使っていくうちにその高性能・高機能、そして効率化を追求するスタイルに触発され、社内の様々なDXを進めるきっかけになりました。Googleのようなインスパイアされる存在が、この社会に存在していることに感謝をしたいと思っています。
白川さんは私の先輩で、スポーツ&マーケティングの専門家として現在もその分野のコンサルティングをされています。スポーツマーケティングと弊社のデジタル分野での知識を融合し、コンソーシアムを組んで幾つかの会社にプレゼンさせてもらいました。その後の実行検証なども共同で手がけています。
澤田さんとは創業当時からデータの活用によるクライアントの事業発展を共に志して、クライアントのビジネスサポートやデータを活用したプロダクト開発も共同で行ってきました。数年前までは毎日2時間ほど電話でミーティングしてましたね(笑)。
両社で新たなデータビジネスの構想から実装までを創業から今でも行い続けています。
私はオフィスには意識的に植栽を入れるようにしています。
この仕事はどうしてもPCを見つめている時間が長いですし、細かい数字との格闘にもなるので殺伐としやすい。ですから植物の緑によるリフレッシュ効果を期待しています。
しかし緑は少しでも枯れている部分があると見栄えが良くなく、逆に心理的負担にもなる。そこで株式会社プロトリーフ様に緑のメンテナンスをお願いしています。
彼らのおかげもあってオフィス環境が良好に保たれています。新しいスタッフが入社すると緑の多さに驚いていますよ。
株式会社プロトリーフ様と同様、オフィス内にある水槽と熱帯魚のメンテナンスをお願いしています。
弊社のオフィスには大きめの水槽が2つあり、当初は私と荒井の2人でメンテナンスしていたのですが、2人が片手間でやるには限界が来て、アクアフォレストさんにお願いすることにしました。
受付にある水槽に淡水フグを入れてもらったのは私のワガママです(笑)。
正式な組織ではありませんが、様々な分野で活躍しているOBたちとの繋がりやビジネス連携などの緩やかな共同体があります。新卒で広告代理店に入社しなかったら今の自分はないと思っていますし、今でも相談する相手がいるのは助かっています。
何度かオフィスを移転していますが、その都度、近くにある行きつけの飲食店と親しくしています。思い出深いのは2014年から15年にオフィスがあった六本木の鳥貴族さん。当時は私も現場で仕事をしていた時期だったので、仕事が終わるのはいつも夜9時とか10時。それからメンバーと食事をしていたのが鳥貴族さんで、週に3回は通っていましたね。
西麻布にオフィスを移転した後は、アウグストビアクラブさん。残念ながらお店が移転してしまいましたが、それまでは会社の納会や歓迎会、面接までお店を利用させていただきました。あれだけお世話になっていたのに、今では連絡もできないので、この記事をどこかで見ていてくれたら嬉しいですね。
そして中華料理の天府苑さん。中国の方が経営しているのですが以前、喫煙禁止やコロナの注意事項を把握するのに困っていたようでしたので、会社で翻訳版を作成してお持ちしましたね。今もランチなどでよく利用しています。
どこも会社の未来やプライベートの話などをする席として、いつも利用させていただきました。
非常にやりやすく仕事をさせていただいているので感謝しています。基本的に弊社の毎期の方針に対して寛容に見守ってくださっています。いつも自由にさせていただいているのはありがたいです。その分、業績でお返しする、良い関係だと思います。
弊社の株主ですが、私の広告代理店時代の先輩でもあります。私がサラブレッドの事業をしていた時に、当時の知人で馬を買える人を思い浮かべたら彼しかおらず、話をお持ちしたのですね。弊社の創業にあたっても相談しましたし、アドバイスもいただきました。
大きな団体の広告配信をお手伝いしています。運営資金の多くをまかなうために寄付会員を募る広告活動をしています。より多くの方に団体の活動を伝えることで、我々も間接的にですが、環境保護のお役に立ちたいと思っています。
株式会社デジタリフトのSDGsの取り組み
SDGs8:サテライトオフィスで目指す、地方経済の発展と雇用拡大のために
近年では地方でも仕事ができる環境が整ってきました。弊社は千葉と宮崎にオフィスを構えています。地方で暮らしたい人たちへの環境提供・ディーセントワークの推進はもとより、先方の自治体も雇用の確保に積極的なので、自治体と連携を取りながら地域経済への貢献をしていきたいと考えています。
SDGs9:高水準のデジタルマーケティングテクノロジーを誰にでも
ネットビジネスに地域格差はないといわれますが、現実として考えると、やはり情報格差は厳然として存在します。地方でウェブマーケティングをしようとしても、自分たちでやるか地方の広告代理店に頼むしか手がない。それを解決するために、弊社の持つ十分な経験とノウハウを地方でも提供できるようにと考えたのが、先ほどご説明した中小企業・スタートアップ向けウェブ広告運用支援サービス「LIFT+」です。
クライアントの予算規模に応じて、高品質なサービスを最適な運用プランでご活用いただくことが可能になりました。このサービスにより、都市と地方、企業規模などによる情報格差なく誰でもウェブマーケティングの恩恵を受けられるようになれば、地方の産業基盤の改善にも繋がっていくと考えています。
当社が直接お取引するのは広告主ですが、その先にいるのはカスタマー、エンドユーザーです。
当社はデジタル領域におけるデータマーケティングカンパニーとして歩んできました。デジタル広告運用の豊富な実績に基づく知見を活かし、カスタマーが求める情報を、欲しいタイミングで、適切に提供できるように、情報の内容や頻度を精査し、最適な手段を選択し続けることができます。
そして、カスタマーの利益を最大化し、広告主とカスタマーの中長期的な関係構築に寄与したい。それが私たちの最大の目的です。
この状態を実現するために、私たちは、世の中のあらゆるデジタルツール、デジタルソリューションを理解し、クライアントニーズとカスタマーの利益の双方を満たすべく、最適なものを選択していきます。
学生にとっては分かりにくいことをやっている会社、という自覚はあります。ですが弊社の理念に興味を持ってくれたり、共鳴してくれる人がいたら是非仲間になってほしい。弊社の門はいつでも開いています。大歓迎です。
<プロフィール>
百本正博
大学卒業後、総合広告代理店でアカウントエグゼクティブとして10年間勤務の後、インターネット広告会社のコンサルタント、ITスタートアップアドバイザーを経て、2012年に株式会社デジタリフトを創業。現在代表取締役。
株式会社デジタリフト
〒106-0031 東京都港区西麻布4-12-24 興和西麻布ビル7F
03-6434-9896