兵庫県神戸市垂水区。2024年10月に開業10周年を迎えたあかまつ歯科クリニックは、歯を失わないことを目指し、患者の口腔内の健康を保つことに真摯に向き合っている。
「予防歯科は歯科治療において当たり前のことですが、日本ではその場しのぎの治療が常態化しています」と語る院長の赤松佑紀医師。
同クリニックには、成人が600人、子どもは500人ほどの患者が定期的に通っており、メンテナンスとして5年以上通っている患者は100人を超えた(2023年12月末時点)。この数字は、同クリニックへの信頼の証ともいえる。
開業同時から真剣に虫歯ゼロ、歯周病ゼロを目指している赤松医師が考える予防歯科のあり方とは。
赤松医師の歩み
「手に職をつけることが自分には合っていると思いました」と学生時代を振り返りながら、笑顔で話す赤松医師。お父様が歯科医師で、学生の頃から自然に医療系を意識するようになったという。
勤務医を経て、2014年10月に同クリニックを開業。開業をきっかけに予防歯科に興味を持ち、今では正しい予防歯科を全国に広めようと社団法人一隅会を立ち上げ、理事を務めている。
転機となったメディカルトリートメントモデルとの出会い
同クリニックでは、「メディカルトリートメントモデル(MTM)」と呼ばれる、歯科先進国のスウェーデンで提唱され、日吉歯科診療所(山形県酒田市)の熊谷崇氏が概念を具現化した診療プログラムを採用。
診療では、まず唾液検査や歯周組織検査など、さまざまなリスクを知るための検査を行う。
そこで問題が見つかれば治療を実施し、その後は症状が出てから診療するのではなく、お口の中の病気の原因を調べ、病気が起きにくい状態にしてから各々に合った予防プログラムで定期的に管理して口腔内の健康を保つ。これがメディカルトリートメントモデルの考え方だ。
厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」によれば、25歳以上の80%以上が処置歯、または未処置のむし歯を持ち、日本では一生涯の口腔ケアがまだ十分に浸透していないことが垣間見える。
今の歯科治療に対する考え方が定まっていくなかで重要だったのは、先ほど述べたメディカルトリートメントモデルの日本における第一人者、熊谷崇医師との出会いだったという。開業時に出会った熊谷医師の考えに感銘を受け、クリニック方針の基盤にした。
「予防歯科に基づく診療を広めたい一心でしたが、膨大な初期費用の負担や、効果が見えるまでの時間には何度も心が折れそうでした。そこで活を入れてくれたのが、今もお世話になっている徳島県の川原博雄先生(社団法人一隅会の代表理事)でした」
取り入れて浸透するまでにもかなりの苦労があったが、開業して10年、同クリニックの予防歯科は患者に浸透してきているという。
10年後、20年後も患者の口腔内の健康を守る
「汚れを取るだけでなく、歯や歯茎の健康を長く保つためにメンテナンスを行うことが本来の予防歯科です。クリーニングとメンテナンスは、私にとっては意味合いが違います」
汚れを取るだけのクリーニングでは、根本的な解決にならないことが多く、赤松医師は「定期的に他の医院でクリーニングしていたという患者さんでも、実際に検査してみると、歯周病の状態もあまり良くなっていません」と話す。
「子どもなら、20歳になるまでに大人の歯が虫歯ゼロを目指し、歯茎の炎症もない健康なお口の中を作っていくことがミッションです」
本来の予防歯科の大切さを伝えるため、一時的な治療を求められる場合は、やんわりとお断りすることもあるという。それだけ予防歯科に強い意思を持って取り組んでいることから、患者からの信頼も熱い。
日本全国で歯科治療の予防プログラムを当たり前に
近年、予防歯科は注目されているが、日本で本来の予防歯科の考え方を持った歯科医院は数%にしか満たないと赤松医師は考える。
「通ってくれる患者さんのお口の中の健康を10年後、20年後も守っていけるよう、地道にコツコツと毎日診療していくのみ。ただ、自分1人では限界があります。全国に予防歯科を広めるためにも、賛同していただけるような医療従事者の方がいれば、ぜひ力を合わせて何かできたらと思っています」
赤松医師の地道な努力は、日本の歯科治療の考え方を変えられるのかもしれない。