ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

株式会社ALTA

https://altababy.jp/

〒336-0907埼玉県さいたま市緑区道祖土1-19-13 サイドガーデン西館102

048-829-9517

株式会社ALTA 上田厚作「株式資本主義と家族の幸せが矛盾する構造的な不幸を打破したい」

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
リンクをコピー
ALTA 上田厚作社長

東京都、埼玉県、千葉県で30の認可保育所と小規模保育事業所を運営している株式会社ALTA(以下、ALTA)。8期目となる2024年現在、従業員数は300人を超え、年商約15億円(2023年)を達成している。

独自性を打ち出しにくい許認可事業でありながら、同社は「すべての子どもに満ち足りた時間を提供する」をコンセプトに掲げ、子どもや従業員の主体性を育み、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高める取り組みを展開している。

同社代表取締役の上田厚作社長に、事業経営者、そして保育の実践者としての想いを伺った。

「許認可事業という枠内でできることを最大限」

2018年4月、一人ひとりの子どもの主体性の尊重を謳った「新保育所保育指針」が施行された。以来、「主体性」が保育業界における重要テーマとなっている。

指針が施行されて数年間は、東京大学名誉教授の汐見稔幸氏や玉川大学教授の大豆生田啓友氏を中心に指針の解釈がなされてきた。

寺子屋式の「一斉保育」でいかに子どもの興味・関心を重視した「自由保育」を実践するか。

悩ましいところではあるが、試行錯誤した中で、「一斉保育の中で子どもたち全員の興味・関心が一致したら、それを重視して自由保育を実践する」という方向性が固まってきた。現在は、各園がそれぞれの方法を模索し、実践している段階にある。

ALTA代表取締役の上田厚作社長は、事業経営者であると同時に保育の実践者に他ならない。2011年に通信会社の営業職を辞め大学院で子育て中の母親のメンタルヘルスと保育を学んだ。

首都圏の保育所や幼稚園に3,000人規模の生活習慣調査を実施し、養成校の教員時代と併せ300以上の幼稚園や保育所を訪問した。

そして、保育者養成機関で教鞭をとり、発達心理学を保育学生に教えつつ幼少期からの睡眠習慣改善が重視されていることやこれがその後の人間関係構築に大きく関わっていくことを教え、2016年に許認可保育所開園に着手した。2017年に開園を迎えて以来、「許認可事業という枠内でできることを最大限やってきた」と振り返る。

「成熟した主体性」を育む独自の「アート・プログラム」を展開

上田社長は、「主体性には、周囲のことを考えられる成熟した主体性と未熟な主体性がある」と言う。

「成熟した主体性」を育てるために、ALTAでは子どもが夢中になって没入できる「アート・プログラム」を展開している。

「妻がピアノ科を卒業していることもあり、はじめは音楽を取り入れることを検討していた。しかし音楽は人生の経験や人間模様、心情を表現する比較的高い年齢に合う活動。

また、音符に従ってその通りの音を出すべきとされていて、自由度があまり高くない。一方、芸術活動は音楽より年齢に合っているし、何をしても『その子らしさ』が表れる。箱庭療法に見られるように、子どもの心理が出ることもある」と、上田社長。

プログラムの講師には、上田社長の妻でありALTA代表取締役でもある上田満裕子統括本部長の人脈を辿り、シンガポールでアート講師をしていた人物を招いた。

現在、各園で月に1回のペースでプログラムを実施している。
2024年5月には、生魚の表面に絵の具で色をつけて半紙に押す「魚拓」を実施した。

子どもたちは、指に絵の具をつけて直接魚に触れ、それぞれが好きな色を塗る。夢中になって魚に触れ、色付けした成果が、半紙に映し出される。

子どもたちはその日の出来事を誇らしげに保護者に語り、保護者たちは廊下に掲示された魚拓の前に行列をなして眺めていたそうだ。

家庭での会話でも、「今日はアートの日だよ!」と、月に1度のプログラムを楽しみにする子どもの声が聞かれるという。

保護者のQOLを上げる調査研究を始動

ALTA 上田厚作社長

同社では、契約相手としてのお客様である保護者のQOLも重要視している。「保護者や子育て中の皆様が、人生の見通し・意味・参加感覚を持てるような環境を作っていきたい」と、上田社長。

直近では、ALTAの各園で「家族を喜ばせる工夫」の調査委員会を立ち上げた。きっかけは、少数のインフルエンサーが子育て期の母が姑との関係性構築等に苦労していることや解決方法を取り上げており、またこれまで母親のメンタルヘルスと子どもの発育は大きな関連があることを研究し、都市部の子育て家庭の核家族化故に相談相手がいないことを理解していたからだ。

多くの保護者を対象にしたアンケートで「お父さんからのサプライズ」や「サンタさんが子どもを喜ばせた心温まる方法」、そして「妊娠・出産・産褥期のメンタルをどのように良好に保つことが出来たのか」という悩みや成功事例を調査し、保護者にフィードバックしている。

自尊心が世界一低いと評されている日本の女性の子育て期により良い思考習慣を学びとることは、心身の健康にプラスに作用する。

幸いにも「大学院時代には幼児を子育て中の母親のメンタルヘルスに関して精神科医の元で学んでおり、最も問題意識を持ってきた分野」というキャリアと創業当初から満裕子統括本部長の就労する母親像を見てきた経験からの後押しもあり、本プロジェクトがが始動した。

「子どもにも保護者にも、生活習慣改善を通して人生により意味を感じてほしい。意味を感じられると、満ち足りた気持ちになる。家族仲の向上作戦もその一環としてのメソッド。思考習慣を改善してQOLを上げる活動を通して、『幸せを犠牲にして得る利益』という子育て家庭が直面している労働市場の構造的な矛盾を打破したい」(上田社長)。

「成熟した主体性を持ち共同体の中で自分を磨き上げれば、誰しも満ちた人生を送れる」

ALTA 上田厚作社長

―現在の保育業界で「主体性」がテーマとなっているとのことだが、上田社長ご自身はいつから「主体性」を意識するようになったか。

教員時代に発達心理学の講座を受け持っていた際に扱っていたので、「主体性」という概念は理解していた。

ただ、保育所を運営する上で「最も大切な土台となる要素」だと認識したのはここ3~5年ほどのことだ。

それまでは「早寝・早起き・朝ごはん」という「当たり前のことを当たり前に」できる生活習慣作りに奔走してきた。

10期目でALTAがひとつの完成形を成すとしたら、8期目の今は完成に近い状態まで来ている。そう考えたときに、「主体性」がキーワードだと思った。

同じ共同体に生きる従業員、子どもたち、保護者の方々が、どのような主体性を持てば共同体がより良くなるかを考えるようになった。

―ALTAを通して子どもたちや従業員にどうなってほしいと考えているか。

成熟した主体性を獲得してほしい。今や主体性があるかどうかよりも、成熟した主体性か未熟な主体性かが問われる時代だ。

私は、成熟した主体性を持ち、共同体の中で自分を磨き上げれば、誰しも満ちた人生を送れると信じている。成熟した主体性を育むには、人権意識を高めなくてはならない

従業員には、多様な考え方を認め、言葉を使って状況を整理し、課題を見つけて主張できるようになってほしいし、子どもたちにもそんな人間に育ってほしい。

まずは保育士が、自分自身に「私たち一人ひとりが宇宙で二度と再現不可能な固有の存在」だと言い聞かせられて、食事、睡眠、運動といった生活習慣を主体的に管理できるようになることだ。

それを子どもたちに伝えていくことで、子どもたちの自信と自己肯定感も育まれる。

現在の保育では、持続可能な未来を志向する「SDGs」も重要テーマとなっている。SDGsに掲げられている「環境」や「人権」は、成熟した主体性を獲得するためにも不可欠なテーマだ。

20年後の未来を生きる子どもたちと接する以上、保育士もアップデートされた最新のテーマを踏まえて子どもたちと接するべきだと考えている。

―経営者として何に最も苦心しているか。

日本語はあいまいな言語で、ロジックに弱い。

「当たり前の前提を議論しづらい」と感じることが多々ある。「あなたの意見は何ですか?」という問いに対して主張できない、前提の議論をしたがらない、「主体性が未熟な人」が多いと感じている。

政治においても、あいまいな言葉でやりとりしている人に政治を委ねることになってしまう。これを放置していると、必ずしっぺ返しがくる。

少なくとも私は、理解できていないことがあれば言語化して整理するよう心掛けている。

そういう方針で進んできたら、一定の評価を得られた。苦心したことを克服して成長できたし、「プラクティショナーとしての自分の立場でやるべきことをしてきた」という自負がある。

―今後の展望は。

集団的SOCの低下を危惧している。もはや社会全体が、憲法で保障されている最低限度の幸福も得られないような状態になっている。

「SOC」とは発達心理学の用語で、1970年代に医療社会学者のアーロン・アントノフスキー氏が提唱した考え方。「首尾一貫感覚」とも呼ばれている。

「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」が揃えば精神的な健康が保たれ、困難な状況下にあっても自浄作用で健康な状態に戻る力が備わっているという考え方だ。

「把握可能感」とは、パターン化された状況から「分かる」と思えること。

「処理可能感」とは、状況を把握できているためストレスに対処できること、「有意味感」とは、人生に意味を感じているということ。これら3つの要素が揃えば、健康で幸せに生きていける。

一方、例えば「意見が反映されないから意思決定に参加しない」というスタンスで生きていると、SOCは低下する。

SOCの13項目は政治の在り方を図る指標のひとつになり得るだろう。健康という領域は政府が介入すべき領域だと思う。

まずは許認可事業の保育所から健康に介入できるよう、子ども家庭庁をはじめとする国の行政機関にも働きかけていきたい。

許認可事業とは独自の色を出しにくい事業だが、コンセプトがなければサービス・プロダクトとして成り立たない。

コンセプトを明確に打ち出しながら許認可事業を展開することはひとつの挑戦だが、自分なりに興味・関心のある分野でPDCAを回しながら思うのは、「行政に働きかけていくべき時期に来ている」ということ。

私は「株式資本主義と家族の幸せとが矛盾する構造的な不幸を打破したい」という思いで事業に取り組んでいる。

保育所を運営していると、この構造的な不幸が、母親・父親の最もピュアな子育て期にふりかかってくるという現実を目の当たりにする。

コロナ禍で制度不備が明るみになり、行政にとっても困難な局面があっただろう。私自身の主体性も成熟させながら、共に課題解決に取り組みたい。

ALTA 上田厚作社長

Tags

関連記事

タグ