ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

中小企業支援の光と影。補助金頼みからの脱却を

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
リンクをコピー
中小企業診断士 吉岡裕之

人手不足や原材料費の高騰、エネルギー価格の上昇など、中小企業を取り巻く経営環境はコロナ禍を経ても引き続き厳しい状況が続く。こうしたなか、政府は様々な補助金制度を打ち出し、中小企業の経営を下支えしようとしている。しかし、その実態は十分に機能しているとは言い難い側面もある。

中小企業支援の最前線に立つ中小企業診断士の吉岡裕之氏(ワイスメック 代表)に、補助金制度の現状と課題、そして中小企業が真に成長していくために必要な支援のあり方について聞いた。

目的と実態にずれ、効果に疑問符も

補助金制度の目的は、中小企業の経営を安定化・成長化させ、ひいては日本経済の活性化を図ることにある。「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」といった設備投資を支援するものから、「事業再構築補助金」のように新規事業展開を後押しするものまで、その種類は多岐にわたる。

吉岡氏は、補助金制度のメリットとして、資金調達の選択肢が増えること、設備投資や人材育成などに取り組みやすくなること、そして新規事業に挑戦するきっかけになることなどを挙げる。一方で、デメリットとしては、申請手続きが煩雑であること、補助金の交付までに時間がかかること、そして補助金頼みの経営に陥ってしまう可能性があることを指摘する。

中小企業診断士 吉岡裕之

「補助金はあくまでも資金援助に過ぎず、上手く活用できなければ経営課題の解決にはならない。補助金に頼り切った経営では、補助が終わった途端に経営が行き詰まってしまう可能性がある」(吉岡氏)

例えば、「事業再構築補助金」は、コロナ禍で影響を受けた事業構造を転換・改革しようとする中小企業を支援するために、2020年度第3次補正予算で設けられ2021年に造成された。しかし、スタートすると、申請要件を満たすために無理な事業計画を立ててしまい、補助金が下りたものの、かえって経営が悪化してしまうケースが見られるようになった。

さらに、資金獲得狙いとみられる安易な申請も相次いだ。例えば、財務省は2023年10月に、直前の9月の1か月間でゴルフ関連で79件が採択されたと明らかにしている。シミュレーションゴルフなどよく似た事業プランが目立ったようだ。

ついには事業再構築補助金を巡っては、効果検証を求める声が上がり、有識者によるレビューでは、制度設計や運用方法の見直しを求める厳しい意見も出るようになった(※)。今後、抜本的な見直しや、制度自体が継続されない可能性も浮上している。

中小企業診断士 吉岡裕之3

「補助金ありきで事業計画を立てるのではなく、あくまで自社の経営課題や将来ビジョンに基づいた計画の下で活用することが重要」(吉岡氏)。

経営戦略とマーケティング不足が根本原因

吉岡氏は、産業機械大手メーカーで10年間、海外営業を担当し、その後、中小企業向けの半導体商社で17年間勤めてきた。海外事業展開や、事業規模の大小による経営の違いを肌で感じてきたという。「中小企業は大企業に比べて、経営資源が限られているため、スピード感と柔軟性を活かした経営が求められます。しかし実際には、長期的な視点に立った経営戦略や、顧客ニーズを捉えたマーケティングが不足していると感じています。また、後継者不足や人材育成の遅れといった課題も深刻です」と語る。

そうした課題意識から、日本生産性本部の中小企業診断士養成課程を修了し、2020年に診断士の資格を取得。経営戦略やマーケティング、補助金申請サポートを得意分野とし、中小企業の経営課題解決を支援している。

コロナ禍で話題となった「ゼロゼロ融資」についても、吉岡氏は懸念を示す。「『ゼロゼロ融資』は、コロナ禍で資金繰りに苦しむ中小企業にとって、一時的な資金繰り支援としては一定の効果があった。しかし、返済が本格化する中で、経営状況が改善しないまま、多額の借金を背負い込んでしまった企業も少なくありません」と語る。

当初は、金利負担がないことに加え、元本返済の猶予期間も設けられていたため、危機感を感じていなかった経営者も多かった。しかし、猶予期間が終了し、ここにきて、経営の行き詰まりが顕在化してきている。特に、飲食業や観光業など、コロナ禍の影響を大きく受けた業種では、売上が回復せず、返済が滞ってしまうケースが目立つ。

中小企業診断士 吉岡裕之 4

「本来、『借り入れ』は返済義務のある資金調達。しかし、コロナ禍という緊急事態であったこと、そして、国が積極的に融資を促したことから、『返す意識が希薄になってしまった』と勘違いしてしまった経営者もいたのではないでしょうか。その結果、必要以上の金額を借り入れてしまい、返済計画が破綻するケースも出ています」(吉岡氏)。

企業の自立的成長促す支援を

吉岡氏は、真に必要な企業に、必要なタイミングで、必要な額の補助金が交付されるよう、制度設計や運用方法を改善していく必要性を訴える。そして、「補助金ありきではなく、企業の自立的な成長を促すような制度設計」が重要だと強調する。

中小企業自身も、目先の資金繰りだけでなく、中長期的な視点に立った経営戦略を策定し、実行していくことが重要だ。そのためにも、経営環境の変化を常に把握し、市場調査や顧客分析を通じて、顧客ニーズを捉えた商品・サービスの開発や、新たな販路開拓に取り組む必要がある。

金融機関、社会保険労務士、コンサルタントなど、支援者側の役割についても、それぞれの専門性を活かしながら、中小企業に対してきめ細やかな情報提供やアドバイスを行うことが重要だ。また、関係機関同士が連携し、ワンストップでサポートできる体制を構築していくことも求められる。

吉岡氏は、「中小企業は、日本経済の屋台骨であり、地域社会を支える重要な存在。中小企業がそれぞれの強みを生かし、持続的に成長していくことができるよう、これからも中小企業診断士として、全力で支援していきたい」と語った。

※中小企業庁の事業再構築補助金に対するレビューhttps://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/2024/240423kobo.html

【プロフィール】
吉岡 裕之
1966年大阪府東大阪市生まれ。関西大学経済学部卒業後、半導体商社を経て、2020年5月に中小企業診断士として独立。現在、(株)ワイスメック代表取締役。
株式会社ワイスメック
https://www.y-smec.com/

Tags

ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

関連記事

タグ