「90%の確率で失敗する」と言われるほど難しい新規事業の領域。特に新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、新規事業開発が後手に回れば、そのハードルはさらに高くなる。
かつて世界第2位の経済を誇った日本は、2000年代に入ると中国・ASEAN等の新興国の台頭に後塵を拝した。この要因の1つとして、本気ファクトリー株式会社代表取締役の畠山和也氏は、日本の新規事業の不足を指摘する。
90年代までのように世界に名を轟かせるプロダクトが日本から生まれなくなって久しいなか、畠山氏は大企業とスタートアップという新規事業の主要な担い手いずれにおいても取り組みを進めてきた。さまざまな新規事業での取り組みを継続してきた畠山氏に、新規事業への思いや未来世代に対する責任についてインタビューを行った。
スタートアップの伴走者として実践的な新規事業開発支援を
—本気ファクトリー株式会社の事業内容について教えてください。
当社の事業は2つあります。1つ目はマーケティング・広報支援です。主にスタートアップからのご依頼が多く、集客のご相談から支援が始まることが多いですね。また、知名度の低いスタートアップでは、マーケティングだけでなく、採用・資金調達などあらゆる場面において自社ブランドの確立が急務です。大企業とは異なるスタートアップだからこそ必要な広報を、戦略構築から実行まで一気通貫でご提供しています。
2つ目は新規事業開発支援です。主に大企業からのご依頼が多いのですが、新規事業開発において事業アイデアの創発から実際の立ち上げまでの個別新規事業開発支援や、新規事業が生み出されていくための組織づくりや仕組みづくりのご支援をさせていただいています。
2014年の設立当初は、ウェブマーケティング支援がメイン事業でしたが、徐々に新規事業開発支援や、広報支援など業務の幅を広げ、現在に至っています。
—2014年に本気ファクトリー株式会社を創立する以前は、どんなキャリアを経てきたのでしょう?
ソフトバンクBB(現ソフトバンク)、リクルート、スターティアラボ、ラクスルの4社で新規事業に携わっていました。キャリア前半は大企業で、後半はスタートアップで、新規事業開発に携わっていました。現在はコンサルタントとして関わらせていただく場合と、取締役などの内部者として関わる場合の両方があります。私の強みは、さまざまな規模の会社で、新規事業に関するほぼ全ての業務を、当事者と外部(コンサルタント)という2つの立場で経験している点です。
—新規事業にはさまざまな業務が発生しますが、ほぼ全ての業務経験があるというのは強いですね。
起業初期にはとにかく人手がないので、必要なことをこなしていたら、何でもやる人になっていたという感じです。資金調達、システム開発、マーケティング、広報、事業開発、事業提携、ガバナンス体制構築、採用・育成、法務、会計など細かく挙げればキリがありません。
実務でさまざまな経験を積むうちに、多様なスタートアップや新規事業の研究にも興味が出て、2019年には17名の経営者による課題克服ストーリーをまとめた『17スタートアップ:創業者のことばから読み解く起業成功の秘訣』(著・編集:畠山 和也 、監修:中村 信男、出版:早稲田大学出版部)という本まで出版しました。
—『17スタートアップ:創業者のことばから読み解く起業成功の秘訣』はどういった経緯で出版されたのでしょう?
この本の元ネタは、2018年に早稲田大学の産業経営研究所で行った10回の講座です。講座は、17社のスタートアップ、もしくは元スタートアップの経営者に、企業の発展段階に応じた課題と克服方法を語ってもらったもので、非常に人気がありました。
人気の理由は、経営者の生々しい体験談が語られたからだと思います。例えば、パートナーに騙された、創業メンバーが突然退社してしまったなど。そんなスタートアップにありがちな出来事が赤裸々に語られた講座を書籍化したのが『17スタートアップ:創業者のことばから読み解く起業成功の秘訣』です。
実例が豊富なので、起業を考えている方には大変参考になると思います。もし読みたいという方がいらっしゃればプレゼントしますね。
—とても面白そうです。出版や実務経験、研究と幅広く行うなど、畠山さんはまさに新規事業のエキスパートですね。
ありがたいことに多くの経験をさせていただいたので、それらを通して得たメソッドやナレッジを単に共有、アドバイスするのではなく、新規事業開発にしっかりと入り込み、伴走者として実践的な支援を行うことを心がけています。
本気ファクトリー株式会社のステークホルダーに対しての思い
花島さんはECからコーポレートサイトでの集客まで、WEBマーケティングに関する幅広い知見を持ち、当社では取締役兼メディア事業部部長として活躍しています。
彼との出会いは、私がスターティアラボ株式会社に在籍していた時に参加した展示会です。展示会で名刺交換をして、後日実際に面談して話をするなかで、彼は目先の自分の利益よりも相手の利益や、相手が何を求めているかを見極めて動ける人だと感じました。非常に好印象だったので、「いつか一緒に仕事をしましょう!」と言って辞去したことを覚えています。
その後はウェブ関係で相談にのってもらう関係が続いていました。私が最初に受注した10万円のホームページ制作案件は、予算の都合上外注が無理だったので、自分でコードを書いたのですが、それも花島さんに一から全部教えていただきました。
私の隣に座ってテンプレートの色を変える方法など細かいところを丁寧に教えてくれる花島さんを見て、本当に彼はギバー(与える人)だなと思いましたね。その後、本気ファクトリー株式会社を設立し、ウェブマーケティング事業を始めた時は、一緒にやるのは彼しかいないと思ったので必死に口説きました。
花島さんなくして、今のウェブマーケティング事業の発展はありません。ウェブ関連の業務は全て彼に任せています。私の苦手な運用業務など重要だけれど手間の掛かる仕事も一手に引き受けてくれているので、本当に感謝しています。
サイバーリンク社は、1996 年に設立された台湾に本社を置く大手コンピューター・ソフトフェア会社です。あるメディアの取材で、当時のサイバーリンク社のビジネス向けコミュニケーションツールである「U」の、「Uミーティング」というビデオミーティング機能の取材に伺いました。
いろいろインタビューするなかでマーケティングの話になり、取材中ではあるもののサイバーリンク社のマーケティング改善策を提案したところ非常に喜んでいただき、最終的には広報支援業務のご依頼をいただきました。
この広報業務のご依頼がなければ、当社の広報事業はありませんでした。当社の新たな可能性を発見し、仕事の幅を広げてくださったサイバーリンク社には非常に感謝しております。なぜ当社に広報業務を依頼しようとお考えになったのかお聞きしてみたいですね。
宝本商事株式会社は京都に本社を置くリボンメーカーです。前職のラクスル時代のお客様で、私がラクスルを退職するご挨拶に伺った時に、ECサイトのリニューアルと運用をご依頼くださいました。それ以来、ずっと継続してサイトの運用を行わせていただいております。当時はまだ何の実績もなかった当社を信頼し、仕事を任せてくださったことを非常に有り難く思っています。
羽幡さんには当社で広報支援を担当いただいています。彼女は人を惹きつける不思議な魅力を持つ人で、経営者やメディアの記者たちが皆、羽幡さんの話を聞きたいと周りに集まってくるんです。
そんな彼女と出会ったきっかけは知人の紹介です。私が本を執筆することが決まった時に、知人が出版社出身で書籍のプロモーションが得意だということで、羽幡さんに引き合わせてくれました。羽幡さんは書籍だけでなく広報の仕事に興味があるということでしたので、一緒に広報支援事業を立ち上げることになりました。
当社の広報支援事業の発展は、いつも面白いご縁や出会いを持ってきてくれる彼女のおかげです。メリット・デメリットではなく、情熱や思いを大事にする彼女が紹介してくれる案件や人は当社にとってもターニングポイントとなる場合が多いので、本当に感謝しています。
有限会社アヴァンデザイン研究所は、教育コンテンツをメインとしたデザインプロダクションです。私がスターティアラボ株式会社で電子書籍ソフトの営業をしていた時のお客様です。
代表取締役の根木康仁さんは、困っている人を放っておけない心の広い方で、実は私も救われた1人です。例えば、私がラクスルを退職することになった時は「うちに来ないか?」とありがたい言葉を掛けていただき、起業を考えていることをお話しすると、設立前にもかかわらずウェブサイト制作のご依頼もいただきました。初期の苦しい時代に、当社を支え、応援していただいたご恩は決して忘れません。
地域社会への思い
H.I.F.株式会社は、決済代行業・売掛金保証業を行うBaaS(Banking as a Service)プラットフォーム企業です。代表取締役の東小薗光輝さんが、株式会社エイチ・アイ・エス代表取締役会長兼社長(CEO)の澤田秀雄氏が主催する澤田経営道場の二期生だった時に、私が研修のピンチヒッター講師として参加したのが出会いのきっかけです。東小薗さんが独立する際にはいろいろ相談にのり、今ではH.I.F.株式会社の取締役として関わらせてもらっています。
東小薗さんは、誰に対してもフラットに接し、相手の肩書や身分で態度を変えることのない素晴らしい方です。まだ何者でもなかった私の話も熱心に聞き、すぐに実行してくれました。スタートアップはとにかく資金不足なので、短期的な収益に重点を置きがちですが、東小薗さんはひとり親世帯の支援や、貧困問題で苦しむ人を救いたいという世のため・人のためという考えを第1に会社を運営しています。
だからこそお会いするといつも楽しく、刺激を与えてくれる人ですね。そんな東小薗さんにとって、私はどのような存在であり続ければいいのか、ぜひお聞きしたいですね。
株式会社BYDは、「3rd Class」というスクール事業を展開する会社です。事業企画講座やプレゼンテーション指導、ロジカルシンキング&クリエイティブ制作など社会で役立つユニークで実践的な講座を開講し、学生の支援に精力的に取り組んでいます。
代表取締役の井上さんとは、学生の自立というテーマで意気投合し、3rd Classの運営支援に関わるようになりました。正直なところ運営支援は時間コストを考えると割の良い仕事とは全く言えませんでしたが、多くの若者たちが3rd Classで一生懸命自分の人生を考えている姿を見るのは心が洗われる気持ちでしたし、自分を鼓舞する刺激にもなる非常に良い仕事でした。関わらせてもらって本当に良かったと感謝しています。
品川女子学院高等部で学内のビジネスプランコンテストの運営に携わらせていただきました。このコンテストは生徒が個人的な体験をもとに社会問題の解決策を提案するビジネスプランの発表会であり、約200人の高校1年生が参加しました。大勢を相手にリモートで実施するというのは私にとっても初めて体験でしたので、担当の河合先生と試行錯誤しながら進めていきました。
相手の理解度や全体の進捗度合いを画面越しにどう判断するかなど、非常に勉強になりました。発表会では非常にクオリティの高いビジネスアイデアが多数出て日本の未来に明るさを感じさせてくれました。
未来世代と未来のステークホルダーへの思い
日本の歴史を振り返ると、世代の引き継ぎが上手くできていないために問題が起こっていると感じます。例えば、幕末は維新の志士たちが死力を尽くし近代化を行いましたが、その次世代の新官僚や軍部が勝てるはずのない戦争を始めて日本をボロボロにしてしまいました。
戦後も第1世代が復興に明け暮れましたが、その次の世代に元気がなく、今でも第1世代が力を持っているのが現状です。本来ならば次世代が舵を取って日本を良くしていかなければならないのに、それができなかった。
このように世代の引き継ぎが上手く行えずに、前の世代が幅を利かせ過ぎているのが日本が停滞し続けている大きな理由の1つだと思います。
失われた30年と言われた期間に日本は「最も豊かな国」ではなくなってしまいました。このままの状態が続けば、日本はものすごい勢いで「貧しい国」になっていってしまいます。
その流れに抗える環境をつくるのが次世代である私たちの使命なんです。勝負どころは、2030~2040年の間だと考えています。それまでの期間に日本を再び豊かにすることができる人材を育てておくことが我々世代に課せられた使命です。新しい時代に必要とされる事業に支えられた経済なくしては、平和も豊かさも得ることができません。
とは言っても、私は日本の未来を悲観してはいません。日本は、過去の敗戦からの復興を見ても、ピンチに強い国民性があります。状況を変えるために必要な力は備わっています。この力は絶対に失ってはいけないんですよ。より強い力にして、次につなげていくのが今を生きる私たちの役割です。
自分が生きる価値は未来への貢献だと考えているので、目の前にある課題を1つずつ乗り越え、豊かな日本をつくることに尽力していきたいと思います。それが未来世代と未来のステークホルダーにできる唯一のことだと思うのです。
<プロフィール>
畠山 和也
本気ファクトリー株式会社 代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、ソフトバンクBB(現ソフトバンク)、リクルート、スターティアラボ、ラクスルとの4社で新規事業に携わった経験を経て、2014年に本気ファクトリー株式会社を設立。複数のスタートアップにメンバーとして参画する傍ら、大企業を中心に新規事業開発支援を行う。実業で培った経験を社会に還元するため学生向けの起業塾も運営している。新規事業に「支援」「実行」「教育」「投資」の4軸で携わる複業家。
<企業概要>
会社名:本気ファクトリー株式会社
ホームページ:https://honki-factory.co.jp/
所在地:107-0061 東京都港区北青山2-7-20 猪瀬ビル2階
設立:2014年
事業内容:新規事業開発支援、デジタルマーケティング企画・制作・運用、システム開発