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DX・SDGs・ステークホルダーなど、経営戦略SXをキーワードで読み解く

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SXサステナブル・トランスフォーメーションの概要を解説

「SX(エスエックス)」とは、「サステナブル・トランスフォーメーション(Sustainable Transformation)」の略で、シンプルにいえば「これからの時代の変化を生き残っていくための、企業体質改善の取り組み」をいう。

「これまで当たり前のようにやってきたし、特に目新しくはないのでは?」と思ったかもしれない。しかし、経済産業省などがわざわざ新しい名前を前面に押し出して警鐘を鳴らすのは、これからの変化はおそらく今までに経験したことがないぐらいに大きく、予測不能だからだ。しかも、その対応には、「DX」や「ステークホルダー資本主義」など今の時代ならではのやり方を採り入れることも欠かせない。

つまり、SXは企業が今後存続できるかどうかのカギになる経営戦略なのだ。

SXを理解するためのキーワード

SXがわかりにくいのは、出てくる単語になじみのないものがあるせいではないだろうか。まずは、キーワードをいくつか押さえておこう。

SDGs(エスディージーズ)

「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」という。「人々が地球環境や気候変動に配慮しながら、持続可能な暮らしや社会を営むために取り組むべき世界共通の行動目標」とされる。2015年9月の国連総会で、加盟193カ国の全会一致で可決された。

その目標には「貧困の解消」や「環境保全」、「格差の是正」など17ある。また、これらを実践する上での実際の行動となる169のターゲットも設定されていて、2030年までにすべてを達成するものとされている。

ここで覚えておかなければならないのは、これらの目標やターゲットは国だけに課されたものではなく、企業・団体などのあらゆる組織、そして個人のすべてに課されている点だ。そのため、日本国内でも企業・中央省庁・地方自治体から公共団体・大学などまでが、このSDGsのための計画を立ててその内容を公表し、実践中であることをアピールするようになった。

「余裕があれば取り組んでください」というものではなく、ほぼ義務と考えていい。罰則はないとはいえ、もし、取り組んでいない企業があれば早急に始めなければいけない。

サスティナビリティ

SDGsのSは「Sustainable」で、名詞形では「Sustainability(サスティナビリティ)」となる。念のためにいえば、「持続可能性」を意味する。

元は自然環境の保全など比較的狭い範囲で使われる言葉だった。しかし、今では企業活動の話題でも当たり前に見られる。たとえば、「利益を上げるだけではいけない。社会的責任もしっかりと果たすことで、長く事業を存続させる可能性を持つことができる」といった場合の、「事業を存続させる可能性」の意味で、「サスティナビリティ」が使われている。

SDGsでは、その持続性の関心は社会全体に向けられている。一方、SXについては重点は企業の持続性にあり、そのためのノウハウや概念と考えていい。

ESG(イーエスジー)

とはいえ、企業のサスティナビリティと社会全体のサスティナビリティとが、まったく別に存在しているわけではない。企業は自身のサスティナビリティに取り組みながら、社会全体のサスティナビリティにも貢献することが、SDGsの趣旨からも求められている。そのためにやるべきことがESGで、「Environment(環境)」「Society(社会)」と「Governance(統治)」の頭文字を組み合わせてできている。この中で、「Governance」は特に「Corporate governance(企業統治)」を指していると考えていい。

投資用語として広まりつつある。たとえば、環境・社会に対する貢献をし、企業統治がしっかりとしている企業への投資を「ESG投資」という。まだ、はっきりとした定義はないものの、そういった企業の銘柄を選んで株を買うことは、このESG投資の一種と考えていい。

DXとSXの関係

語感が似ていることもあって、SXと混同しやすいものに「DX」がある。DXは「ITを軸にした企業や社会のあり方の変革」であるのに対し、SXは「企業の持続可能性を高めるための取り組み」のことをいう。個々の手段としては同じものもでてくるかもしれないが、目的としてはまったく異なる。

DXとは

「DX」とは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」を略したものだ。「ITを駆使して、製品やサービスといった商品を生み出す。それにとどまらず業務内容・組織を進化させ、企業文化・企業風土まで変革する。そうやって、企業間競争に勝つ」を意味する。

単に、「ITをうまく使って、目の付けどころのいい商品を作る」ではなく、「企業文化・企業風土まで変革する」がポイントだ。実は、これがなかなか理解されておらず、単なる「IT」を「DX」と呼んでしまう例が後を絶たない。その中には経営評論家までいる。一方で、本物の専門家の中には、「日本は、70年代80年代のIT化については成功した。しかし、DXでは乗り遅れた。ジャンルによっては、アジアの新興国にさえ差を付けられている」とする人は少なくない。主な担当省庁である経済産業省も危機感をあらわにしている。

DXの実例

その経済産業省が、牽引役になると期待する企業に富士通株式会社がある。2021年3月には、同省が定める「DX認定取得事業者」にも認定した。富士通の取り組みをみることで、ITとDXとの違いがわかるのではないだろうか。

富士通では、「野球やサッカーなど試合の映像をストック化することで高速な映像検索を可能にし、分析結果を提供する」というサービスを始め、2018年4月にはこの事業部門を分社化するまでに成長させた。今では、日本のプロ野球やJリーグだけではなくアメリカのメジャーリーグの指導者・選手にまで利用者が広がっている。これだけならば、単に「ITをうまく使ったサービス・商品」と思えるかもしれない。

DXを本格的に展開するために、富士通は2017年1月にデジタルビジネスを生み出すための組織を新設した。同時に、「デジタルイノベーター」という新しい職種も作った。従来のものでいえばシステムエンジニアだが、その範囲に収まるものではないために、呼び名までも新しくする必要があった。養成には研修やOJTなど1年を掛け、最初の2年間だけでも数百人のデジタルイノベーターが誕生している。

富士通は、電気通信機器などの製造・販売からSI(システムインテグレーション)までを行う最大手のITベンダーだ。特に現在のメインの事業となっているSIは、他社からの発注があって初めて成り立つ受託開発ビジネスで、どうしても受け身にならざるをえない。経営陣はこのビジネスモデルに将来への不安を感じ、デジタルビジネスへと思い切った舵(かじ)を切った。こういった動きが「業務内容・組織を進化させ、企業文化・企業風土まで変革する」に当たる。

SXが登場した背景

経済産業省のSXへの取り組みは、「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」に始まる。これは伊藤邦雄一橋大学特任教授(当時は教授)を座長とするもので、2014年8月に公表された最終報告書は、「伊藤レポート」の通称で知られている。このプロジェクトで大きな課題として採り上げられたのが、「持続的成長と企業価値創造」だった。

その後もこのプロジェクトは、伊藤特任教授を座長に据えたまま、「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資」研究会」や「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」といったようにテーマを進化させながら継続している。報告書も2017年10月に「伊藤レポート2.0」、2020年8月には「伊藤レポート3.0」が出された。

この「3.0」で初めて出てきた言葉が「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」だ。それまでも検討はされていたのを、ここで初めて名前を付けた。このSXについて、以下のような必要とする理由が挙げられている。

・3~5年程度の中期経営計画を基本に経営を構築することはやめるべきである。 ・前提としている時間軸を5年、10年という長期の時間軸に引き延ばした上で、「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化させた経営戦略の立案とその実行が必要である。

SXにはなにをやればいい?

SXには、①「『稼ぐ力』の持続化・強化」、②「社会のサステナビリティを経営に取り込む」、③「長期の時間軸の『対話』によるレジリエンスの強化」の3本の柱があり、互いに以下の図のような関係になっている。

SXとは
経済産業省「『サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ』について」より

SXの実現に欠かせないステークホルダーの存在

③「長期の時間軸の『対話』によるレジリエンスの強化」では、企業と投資家の間の「対話」が強調されているのに気がついただろうか。

SXには企業と投資家の間での繰り返しの対話が必要

「レジリエンス(resilience)」は直訳すれば、「復元力」や「弾力」といった意味になる。近年ビジネスシーンでよく使われるようになった言葉で、この文脈の中では「経営難・経営危機に直面したときに、それを受け止めて、跳ね返したり適応したりする能力」と考えればいい。

つまり、この図の中では、「経営難・経営危機を乗り越える能力を持つには、企業と投資家の間での繰り返しの対話が必要」としていることになる。

「企業と投資家の間の対話」は今までにもあった。しかし、ほとんどが株主総会でのやり取りに限られていたのではないだろうか。それどころか、「物言わぬ株主」という言葉があるぐらい、株主は存在感がないのが普通だった。まったく逆に改めなければ、SXは成り立たない。

ステークホルダー資本主義とは

実は、「企業と投資家の間の対話」のもうひとつ先の考え方も登場している。「ステークホルダー資本主義」という。

今まで企業は、株主のための利益追求を最優先にしていれば、それで十分とされてきた。言い換えれば「企業の社会的責任は利益を増やすことにある」だ。これを「株主資本主義」という。コスト重視での社員の削減が許されてきたのも、株主資本主義から来ている。

一方、「企業は従来の株主に加えて、従業員や取引先、地域、地球環境などすべての利害関係者(ステークホルダー)に貢献しなければならない」とするのが、ステークホルダー資本主義だ。これは、まず2019年8月、米国トップ企業の経営者らでつくる「ビジネス・ラウンドテーブル(Business Roundtable)」が出した「企業の目的に関する声明(Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’)」で打ち出された。

ステークホルダー資本主義は2020年1月のダボス会議でも重点テーマになった。「ダボス会議」とは年1回、スイスの保養地であるダボスに、世界中から政治・行政・経済のトップが集まって開催されるセミナーのことをいう。日本からも2014年と2019年に安倍晋三首相(当時)が出席した。

ステークホルダー資本主義を掲げている企業、あるいは、熱心に取り組んでいると見られている企業には、日清製粉グループ、キリングループ、ヤマハグループなどがあり、現在も増え続けている。

ステークホルダー資本主義と三方よし

実は日本にはこれ以前から、ステークホルダー資本主義に近い考え方があった。近江商人の心得である「三方よし」だ。「売り手よし・買い手よし・世間よしの3つのよしがあって、しかも社会貢献ができるのがよい商売である」とされる。 現代でも近江商人の流れをくむ企業を中心に、「三方よし」を社訓・社是とするところが少なくない。産業機械メーカーで、計量包装機器では最大手の株式会社イシダはその典型だろう。また、総合商社の伊藤忠商事株式会社を含む伊藤忠グループは2020年4月、企業理念を「豊かさを担う責任」から「三方よし」に変更した。その理由のひとつとして、「SDGsにも沿う」を挙げている。

その直前、鈴木善久社長兼最高執行責任者(COO)は約2,000人の社員を前に年頭のあいさつの中で次のように述べている。

「伊藤忠の総合的な企業価値は、利益はもちろん、環境に、社会に、社員や株主にどれだけの価値を生み出しているかで評価される時代になっています。そのよりどころとなるのは、現代のESGやSDGsにも通じる『三方よし』の理念であり、2020年をその原点に立ち返る年にしたいと思います」

ステークホルダー資本主義だけではなく、SXまでをも踏まえた宣言になっているのではないだろうか。

ステークホルダーへの対し方

金融機関

金融機関との関係でいえば、かつては金融機関側の力が強く、特に経営難のときは企業の意に反した事業再編が迫られたこともあった。しかし、SX時代には企業と金融機関の間でも立場は対等に近くなり、より対話を重視した関係が必要になるのではないだろうか。

従業員

従業員が対話に参加するためのものとしては、かつては労働組合が機能していた。しかし、組合の組織率は低下し、存続しているところも力が落ちている。従業員と企業の間での対話を取り持つための新しい工夫は必要だろう。従業員らからの自発的な動きも必要なので、企業側からできることは限られているようにも思える。ただ、少なくともかつての「組合つぶし」のようなことは厳に慎まなければならない。

「従業員側からの発案を待つばかり」といった姿勢も、SXやSDGsを推進する企業の経営陣としては避けたいところだ。まずは、「社員を尊重している」というメッセージを発信することから始めてはどうだろうか。それが対話の第一歩になるはずだ。これは、顧客や地域社会に対しても同じことがいえるだろう。

これから変動性・不確実性・複雑性・あいまい性の時代がくる

かつて、『不確実性の時代』という本がベストセラーになり、タイトルのままの言葉が流行語になったことがある。アメリカの経済学者、ジョン・K・ガルブレイスが著したもので、日本では1978年に翻訳が出された。特に経済について「予測ができない時代」といった意味だ。

今また、同じように「不確実性の時代」と呼ぶ人もいる。それどころか、その不確実性も含めて「VUCA(ブーカ)」という言葉も経済界では使われるようになってきた。「Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(あいまい性)」を意味する。「この4重苦を乗り越えるための方法はどうする」という問いへの答がSXだ。

(文・柳本学)

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ライター:

大阪府出身。かつて活字メディア2社に勤務し、取材記者でスタートしたのが、のちにカメラマンに転向した。お会いした有名どころの代表は、松田聖子さん(歌手)、沢口靖子さん(女優)、長谷川町子さん(漫画家)、スティーヴン・ホーキング博士(理論物理学者)。海外取材は香港・韓国・タイ・パキスタンなど。今は関西・北陸を主な活動範囲とするフリーで、ライターとカメラマンの“二刀流”。

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