
AIや自動化技術の進展が加速し、「仕事がなくなるのでは」と不安を抱く声が増えている。一方で、企業現場ではAIを活用した生産性向上や新たな役割創出が進み、働き方は大きな転換点を迎えつつある。福岡県宗像市で実証が進む自動運転バスを手がかりに、統計と専門家の見解をもとに、雇用はどう変わり、私たちは何に備えるべきかを探った。
宗像市で進む自動運転バス実証
福岡県宗像市では、運転手不足や高齢化に対応する地域公共交通の再構築を目指し、自動運転バスの実証実験が段階的に行われている。宗像市の公式発表によると、2025年2月には自由ヶ丘コミュニティセンター~JR赤間駅南口の約2キロの区間で実証運行が行われ、事前予約制・無料乗車で1日5往復が実施された。
実証走行は、運転手が常に運転席に座り、必要に応じて手動操作に切り替えられる「レベル2」の自動運転方式で行われた。車両には多数のカメラやセンサーが搭載され、最高時速は35キロ程度に抑えられている。宗像市はこうした公道でのレベル2実証を重ねながら、特定条件下で運転手を不要とする「レベル4」での本格運行を目指す方針を示している。
実証運行では「時々ブレーキが強めにかかる」という乗客の声もある一方、「安全を優先した慎重な運転」と評価する意見も聞かれる。急ブレーキに備えた手すりの設置など、安全面を重視した車内設計が特徴だ。
技術基盤を支える企業 ― アイサンテクノロジーと東海理化
宗像市の実証には複数の企業が参画している。アイサンテクノロジー株式会社は高精度3次元地図の提供や技術支援を担い、自動運転バスの運行を支えている。
また、東海理化は車内外カメラによる映像データを取得し、乗客安全支援システムや遠隔監視・安全運行支援の検証を進めている。
こうした企業連携により、地域の公共交通実証は「車両の運行」にとどまらず、地図データ、センシング、遠隔監視といった複数の技術を組み合わせた総合的な取り組みとなっている。
九州のセンサー・半導体技術が支える自動運転
自動運転やロボット技術を支える基盤として、センサー・半導体技術の存在感も増している。ソニー・セミコンダクタソリューションズは車載向けイメージセンサー事業を強化しており、車載カメラ市場でシェア拡大を狙う。
車載イメージセンサーの「多眼化」が進んでおり、多い車では8〜12個ほどのカメラが搭載されるとされる。カメラの多眼化は、自動運転支援や高度運転支援システムの精度向上に直結する。
九州はこうした車載用半導体・イメージセンサーの拠点が集積する地域でもあり、宗像市の取り組みは地域産業と社会実装が結びついた例と位置づけられる。
高校生・若い世代が感じるAIへの不安
AI技術の進展は、これから社会に出る高校生や若い世代にも不安をもたらしている。2025年のアンケートでは高校生の約6割が「AIが仕事を奪うのでは」と懸念しており、思考力低下などへの不安も指摘された。
他方で「AIを使いこなすスキルを学びたい」という前向きな回答もある。AIの普及は、不安と学び直しニーズを同時に生み出していることがうかがえる。
企業でも生成AIの導入が進む一方、経験豊富な人材にとっては役割の再定義を迫られ、雇用への影響は職種やスキルによってばらつきが出ている。
「すべての仕事がなくなるわけではない」専門家の見方
専門家の間では、AIや自動化があくまで「タスクの代替」にとどまり、人間らしい判断力や創造性、対人コミュニケーションが求められる領域には人的な価値が残るとの見方が主流だ。
定型的な事務作業などは自動化されやすいが、信頼関係の構築、状況判断、創造的工程などは人の役割が大きい。AIは「人を完全に置き換える存在」ではなく、業務分担を見直す契機となる。
海外の自動化リスク ― 予測と現実
米国・欧州
オックスフォード大学の研究で「米国の仕事の約47%が自動化の潜在リスクにある」と推計されたが、これは「現に47%が失業する」ことを意味するものではない。技術導入の速度や制度が影響し、現時点では大量失業が顕在化している統計は確認されていない。
一方、スキルの高低によって格差が拡大する「スキル・ポーラリゼーション」への懸念は続いている。
中国
国家戦略としてAI導入が進む中国では、製造現場でロボットが業務を置き換える事例が増えている。雇用への懸念も指摘され、「ロボット税」を含む労働利益の再分配策が議論されている。ただし制度化には課題が残り、国際的にも議論段階にある。
自動化を進める地域戦略と課題
再教育とリスキリング
運転手やオペレーターなど現場の労働者が、自動運転監視者や保守技術者など新たな役割へ移行できるよう、行政と企業が連携して学び直しの機会を確保する必要がある。
安全性・信頼性の確保
ブレーキ挙動など、実証段階で得られた利用者の声を反映させ、安全対策と情報提供の両面で改善を積み重ねる取り組みが欠かせない。
社会受容性・制度設計
無人運転を前提とするには、法制度、責任の所在、データ利用のルール整備が不可欠となる。試乗会などを通じて住民理解を深める努力も重要だ。
雇用と働き方はどう変わるのか
AIと自動化は仕事の量だけでなく中身を変える。単純業務が減り、人が付加価値の高い業務へ移行する可能性もあれば、逆に格差拡大のリスクもある。
鍵となるのは、
- 地域実証を通じたデータと経験の蓄積
- 世代を問わず学び直し機会の確保
- 利益を広く共有する制度設計
宗像市の自動運転バスは、「地域の足」を守りながらAI時代の働き方を探る取り組みであり、雇用と技術の共存に向けた重要な実験場といえる。
AI時代の雇用と働き方 ― 結論
信頼できる国際的な調査結果から、AIの影響は次のように整理できる。
- 雇用が急減している統計は確認されていない
- 代替されやすいのは仕事ではなく仕事の中の一部のタスク
- AI導入が進む産業ほど新しい職種が生まれている
つまり、AIの発展は「仕事が無くなる未来」でも「全ての課題が解決する未来」でもなく、働き方が大きく転換する未来である。
今後、重要となるのは、
- リスキリングによるスキル移行支援
- 教育制度や企業の人材政策の更新
- AI導入利益の社会的な還元
である。
AIの未来が明るいものになるか、格差を広げるものになるかは、社会の選択次第だ。
宗像市の取り組みは、その行方を占う試金石と位置づけられる。



