
中小企業や個人事業主にとって、国や自治体の補助金・助成金制度は、事業資金を支える重要な柱である。しかし、この制度の“申請代行”をめぐっては、長年、法律上の「グレーゾーン」と呼ばれる不透明な実態が存在してきた。
こうした中、2026年1月1日に施行される行政書士法の改正により、これまでの慣行は大きく様変わりする。違法な申請代行行為が明確に処罰対象となり、経営者にとっては「誰に頼むか」が法的リスクに直結する時代が到来する。
補助金申請のプロは誰か──「行政書士」という国家資格
行政書士とは、国民に代わって官公署への許認可申請や書類作成を行う国家資格者であり、その業務範囲は法律で定められている。なかでも補助金申請は、企業や個人が政策支援を受けるうえで欠かせないものであり、近年ではその代行をめぐってさまざまな問題が噴出していた。
たとえば、経済産業省や厚生労働省などが実施する各種補助金・助成金制度では、専門知識を必要とする書類の作成、申請条件の精査、提出期限の管理など、煩雑な作業が伴う。経営者自身が行うには現実的ではなく、多くの場合、外部の「専門家」に依頼することが常態化していた。
中小企業診断士・コンサルタントは本当に専門家だったのか?
現行法の下では、補助金申請の支援をめぐって、行政書士だけでなく中小企業診断士や経営コンサルタント、ITベンダーなども関与してきた。しかし、その多くは「申請の助言」や「計画書の作成サポート」といった形で行われ、報酬の名目も「顧問料」や「システム使用料」など、実態が見えにくいものが少なくなかった。
行政書士である浅井聡氏(リーガルコンサルティング行政書士事務所)は、「法的には書類作成を有償で請け負う行為は行政書士しかできない。それ以外は違法の可能性があるにもかかわらず、実務上は看過されてきた」と指摘する。
典型的な「グレーゾーン」例とは?
これまで多く見られた、いわば“黒に近いグレー”な補助金申請支援のケースは、以下のようなものだ。
- 「申請が通る」と断言し、高額報酬を請求
- 「コンサルティング料に含む」と称して実質的な代行業務を実施
- 顧問契約に便乗し、補助金申請書を作成
- 成果報酬型で補助金額の30〜50%を要求
- 書類に虚偽記載や水増し提案をする悪質業者
こうした業者に依頼した場合、申請者である事業者自身が“不正加担者”と見なされるおそれがある。実際に新型コロナ対策の給付金申請をめぐっては、無資格業者が関与した不正受給により、22億円超の被害が発生したとされている(※厚生労働省発表より)。
2026年行政書士法改正の核心とは
2026年の法改正では、補助金申請代行が明確に「行政書士の独占業務」と規定され、報酬の名目を問わず有償で行う行為はすべて違法となる。違反者には「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」が科されるほか、法人の場合は両罰規定により経営者の監督責任も問われる。
さらに、行政手続きのあり方自体が大きく変わりつつある。申請の電子化に伴い、「簡素化された申請→厳格な事後審査」へと移行するため、形式的に書類が整っていても、中身の不備が後日発覚すれば不許可や返還命令となる可能性がある。
いま求められるのは「顧問行政書士」という選択肢
経営者にとって、補助金申請は単発の業務に見えるかもしれない。しかし制度や書式は毎年変わり、デジタル対応や災害対応、BCP策定支援など、多岐にわたる専門知識が要求されるのが実情だ。
こうした中、「顧問行政書士」という存在が注目されている。顧問契約を結ぶことで、以下のような支援が受けられる。
- 法改正への即応とコンプライアンス確保
- 電子申請の実務サポート
- 不服申立て対応(特定行政書士による)
- 災害時の補助金申請・保険証明書作成
- IT・DX関連補助金の戦略的活用
法律遵守こそ、事業を守る最大の武器に
補助金や助成金制度の活用は、今後ますます重要になる一方で、その“入り口”である申請業務の適法性が問われる時代に突入した。誤った依頼先を選んだばかりに、刑事処分や社会的信用の失墜に直面する可能性もある。
経営者に求められているのは、「安さ」や「スピード」を優先する判断から、「合法性」と「信頼性」を基準にしたパートナー選びへの転換だ。法改正まで残された時間は少ない。いまこそ、真に信頼できる“国家資格者”との連携が求められている。