
ガソリン税に上乗せされている「暫定税率」の廃止をめぐり、日本維新の会が共同法案の提出を自民・公明両党に求めたが、与党側は応じない姿勢を示し、協議は膠着状態に陥っている。「暫定」の名のもと半世紀にわたり続くこの制度は、国民生活に重くのしかかる一方で、国家財政における重要な柱でもある。廃止か存続かという二項対立ではなく、今こそ求められるのは、国と国民双方に資する税制の再設計ではないか。政策の論点と現実的な対案を検証する。
ガソリン税暫定税率、共同法案を巡り協議難航
ガソリン税の暫定税率をめぐる与野党協議が暗礁に乗り上げている。2025年5月30日、日本維新の会が自民・公明両党に対し、今年7月の廃止を明記した法案の国会共同提出を呼びかけたものの、与党側は「財源の検討が進んでいない」として応じない姿勢を示した。維新は3党協議の打ち切りも視野に入れている。
自民党の後藤茂之元厚生労働大臣は記者団に対し、「ガソリン税は社会資本整備の重要な財源」と語り、年末の税制改正議論での包括的検討を主張した。一方で維新の青柳仁士政調会長は「やる気がないとしか受け取れない」と発言。対立の構図が鮮明となっている。
暫定のまま続く税率 その成り立ちは
ガソリン税の暫定税率は、1974年の第1次石油危機を受け、道路整備のための財源確保を目的に創設された。当時の暫定措置ではあったが、これがそのまま延長され続け、現在の税率は本則(1リットル当たり28.7円)に上乗せされている25.1円を含め、合計53.8円に達する。
この上乗せ分は特例税率と呼ばれ、かつては「道路特定財源」に充てられていたが、2009年以降は一般財源化された。暫定という名称とは裏腹に、50年にわたって実質的に恒久化している税制度である。
家計への影響、特に地方部で顕著
この暫定税率は、一般家庭にとって家計への負担を大きくする要因の一つとなってきた。特に地方部においては、自家用車が生活の基盤を支えるインフラであり、ガソリン価格の上昇は通勤・通学、買い物、通院といった日常生活のコストに直結する。
加えて、ガソリンには消費税が二重に課される「税の上に税」構造となっており、ガソリン価格の約4割が税負担にあたる。こうした構造に対し、「暫定のまま放置されてきた」との批判はかねて根強い。
廃止すれば価格低下 ただし財源喪失も
もし暫定税率が廃止されれば、1リットル当たり25.1円の税負担が軽減され、ガソリン価格は理論上、1リットルあたり約25〜30円程度下がる可能性がある。これは一部家庭には大きな恩恵となるが、一方で国家財政には少なくとも年1兆円規模の歳入減をもたらすとされる。
このため、廃止に向けた動きには慎重論も多く、特に地方の道路維持・更新費用、公共交通機関が乏しい地域でのインフラ支援、環境税制との整合性といった点が議論の焦点となる。
国と国民、双方に資する5つの対案
単純に「廃止か否か」ではなく、制度を現代的に再設計することが求められている。以下は、国の財政と国民生活の両立を図る現実的な対策案である。
1. 暫定税率の段階的縮小と地域別差別化
- 数年かけて税率を段階的に引き下げ、地方は軽減、都市部は維持といった差別化を導入。
- 地方の生活支援と都市部の環境負荷抑制のバランスを図る。
2. カーボンプライシングへの転換
- 暫定税率の廃止と同時に、CO₂排出に応じた環境税へ移行。
- 再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及支援にも連動。
3. 給付型の逆進性緩和策
- 通勤等でやむを得ずガソリンを使用する層へ定額の「燃料補助」や「交通費控除」を実施。
- 税率維持と社会的公平性の両立が可能。
4. 税外収入による補填
- 国有地活用や政府保有資産の一部売却により、一時的に歳入減を穴埋め。
- 歳出改革とセットで実施することが前提。
5. 将来的な走行距離課税の導入検討
- EV普及による税収減に備え、「走った距離に応じた課税」方式を研究。
- 全車種公平なインフラ利用負担へ転換を模索。
制度設計の「見直し」こそ本質的課題
50年を超えて「暫定」であり続けたガソリン税特例は、国民の信頼を失いつつある。将来のモビリティ社会や気候変動政策と整合的な税制度へと刷新し、税負担の見える化と、目的明確化を進めることが、今後の議論の土台となる。
財政の持続可能性と国民生活の安心。その両立を可能にするのは、制度そのものを再設計するという政治の意志である。