
ネズミ、ゴキブリの混入という衝撃的な出来事を受け、すき家が「24時間営業」という長年の看板を下ろす。変わる店舗運営、その裏にある企業の苦悩と決断とは?
異物混入が引き金に すき家、24時間営業を終了
牛丼チェーン大手「すき家」が、長年続けてきた24時間営業を取りやめると発表した。4月5日から全国のほぼすべての店舗で、午前3時から4時の1時間を営業停止とし、清掃作業の時間に充てる。
この決定は、今年に入って相次いだ異物混入の問題を受けてのもの。鳥取県の店舗では1月にみそ汁にネズミが混入し、3月には東京都昭島市の店舗で、持ち帰り商品にゴキブリの一部が混入していたと指摘された。すき家を運営するゼンショーホールディングスは、再発防止のために全国的な営業見直しを迫られた。
混入事件の詳細と衛生状態の問題
問題の発端は、25年3月28日に発覚した昭島駅南店(東京都昭島市)での異物混入事案だった。客が持ち帰った商品内に、ゴキブリの一部が含まれていたという。この事案について、すき家側は「従業員が虫を店内で目撃していた」との内部報告を受け、「店舗の衛生状態に起因する異物混入」と結論づけた。
一方、具体的な混入経路の特定には至っておらず、すき家は「今後、衛生管理の抜本的な見直しが必要」として、問題店舗については全面改装に踏み切る構えを示している。
これに先立つ1月には、鳥取県内の店舗で提供されたみそ汁にネズミが混入するという異例の事故も発生しており、立て続けの不祥事が消費者の不安を呼んでいた。
清掃の時間を確保、3時〜4時に毎日営業休止
異物混入対策として、すき家は今後、毎日午前3時から4時の1時間、営業を停止し、店舗内の集中的な清掃を実施すると発表した。この時間帯は、営業中には清掃が難しい「厨房機器の裏側」や「排水溝周辺」など、汚れが蓄積しやすい箇所を重点的に清掃する時間となる。
清掃時間導入の背景には、「衛生管理は単なる一時的な対応ではなく、習慣として根付かせる必要がある」との認識があるようだ。
24時間営業の象徴を手放した苦渋の決断
全国に約1970店舗を展開するすき家。そのうち、約1890店舗がこれまで24時間営業を行ってきた。深夜や早朝でも牛丼を提供し続ける姿勢は、「いつでも開いている安心感」として多くの消費者に支持されてきた。
しかし、その営業形態が、衛生管理にとっては「最大の障壁」になっていたと業界関係者は語る。ある外食産業アナリストは「24時間営業の店舗では、人員不足や交代のタイミングが不十分なまま作業が続き、清掃や衛生チェックが形骸化しやすい」と指摘する。
今回の営業体制の見直しは、単なる「1時間の営業休止」ではなく、すき家が長年守ってきた“ブランド運営の前提”を大きく転換する決断と言える。
一斉休業から再開、約170店舗は引き続き閉鎖
すき家は、今回の対応に先立ち、3月31日から全国ほぼすべての店舗で営業を一時停止していた。その期間中、厨房設備や店舗全体の衛生状態のチェックを行い、必要に応じて補修・修繕などの対応を進めた。
そして4月4日午前9時より、空港内や一部商業施設内店舗を除く多くの店舗が営業を再開。しかし、約170の店舗については「追加の改装や清掃作業が必要」と判断され、営業再開が延期された。老朽化が進んだ店舗については順次改装し、清掃しやすい厨房構造に変更する予定としており、ハード面での対策も強化する姿勢を示している。
今後の外食産業にも影響か
今回のすき家の決断は、外食業界において“24時間営業”の見直し機運を高める可能性がある。人手不足や長時間労働が課題となっている中、効率的な店舗運営と衛生管理の両立は、すべての飲食企業が直面する課題だ。
今後、他のチェーン店やコンビニエンスストアなどでも、深夜営業体制の見直しや、衛生面の強化に向けた新たな取り組みが加速することも予想される。
おわりに
「すぐに」「いつでも」食事ができる便利さの裏には、見えない労働と衛生リスクが存在していた。すき家の24時間営業終了は、消費者の食の安全に対する意識と、企業の信頼回復の在り方を改めて問い直すきっかけとなるかもしれない。
【参照】
・営業再開と今後の対策についてのお知らせ(すき家)
・24時間営業の取りやめについて(すき家)
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