
2025年の大晦日、茨城県水戸市のアパートで、妊娠中の女性が自宅玄関で殺害された。静かな住宅街で起きた凄惨な事件は、地域社会に大きな衝撃を与えている。現場に残された痕跡、被害者の足取り、過去の警察相談。事件は何を示しているのか。
大晦日の帰宅直後に奪われた命
事件が起きたのは、2025年12月31日、大晦日の夕方から夜にかけての時間帯だった。多くの家庭が年越しの準備を進め、街全体が静かに年の終わりを迎えようとしていた頃、茨城県水戸市の一角で取り返しのつかない惨劇が起きていた。
殺害されたのは、ネイリストとして働いていた小松本遥さん(31)。妊娠中で、夫(27)と2人暮らしだった。夫は当日も仕事に出ており、小松本さんは夕方まで外出していたという。
捜査関係者によると、小松本さんは同日16時50分頃、外出先から夫に電話をかけ、「今から帰る」と伝えている。この電話が、夫婦間で交わされた最後の連絡となった。帰宅後、年越しを迎えるための何気ない時間を過ごすはずだった日常は、突然断ち切られた。
夫が異変に気づいたのは19時15分頃だった。仕事を終えて帰宅すると、玄関で血を流して倒れている小松本さんの姿があったという。夫は動揺しながらも「妻が血を流して倒れている」と119番通報した。救急隊と警察が駆けつけたが、すでに小松本さんの命は失われていた。
現場となったのは、JR水戸駅から西へ車で20分ほどの場所にある2階建てアパートの1階部分だった。年末という時期もあり、周囲は人通りが少なく、生活音もほとんど聞こえない時間帯だったとみられる。近隣住民の多くは、「当日は特に物音に気づかなかった」「パトカーが来て初めて事件を知った」と証言している。
警察は、小松本さんが帰宅してから通報までのおよそ2時間の間に何者かに襲われたとみている。施錠されていなかった玄関の状況や、部屋着姿で裸足だったことから、帰宅直後に不意を突かれた可能性が高い。年の瀬という特別な一日に起きた犯行は、被害者が最も無防備な時間帯を狙ったものだった可能性も否定できない。
大晦日という区切りの日に、静かな住宅街で突然奪われた命。その時間帯と状況は、事件の残忍さと同時に、防犯の難しさを浮き彫りにしている。
玄関周辺に残された凄惨な痕跡
女性が命を落とすまでの経緯について、新たな事実が明らかになった。捜査関係者への取材で、女性は刃物や鈍器のようなもので何者かに襲われてから、1時間以内に死亡したとみられることが5日、分かった。
女性は2025年12月31日夜、自宅アパートの玄関で血を流して倒れているところを、帰宅した夫(27)に発見された。現場となった玄関内には大量の血痕が残されており、警察は玄関付近で襲撃を受けたとみて捜査を進めている。
司法解剖の結果、死因は外傷性ショックだった。首には刃物による刺し傷が確認されたほか、頭部には鈍器で殴られたような傷が複数あった。腕には切り傷やあざがそれぞれ十数か所あり、捜査当局は激しい抵抗があったとみている。凶器は現時点で見つかっていない。
発見時、女性は部屋着姿で、体は玄関の上がり口とたたき部分にまたがるように横向きに倒れていた。頭は室内側に向いており、頭頂部や後頭部を中心に強い外傷が集中していた。床や壁には血が広範囲に飛散していたという。
一方で、室内に物色された形跡はなく、金品目的の侵入だった可能性は低いとみられている。警察は、複数の凶器が使われ、玄関付近で執拗に攻撃が加えられた可能性があるとみている。
短時間のうちに致命傷を負わせるほどの暴力が、生活空間の入り口で加えられた事実は、犯行の強い殺意を示している。玄関に残された血痕の量と損傷の状況は、事件の凄惨さを端的に物語っている。
妊娠中だった被害者と同時に失われた未来
小松本さんは妊娠中で、お腹には生まれ来るはずだった赤ちゃんがいた。最も守られるべき立場にあった命が、無差別ともいえる暴力によって同時に奪われた。
近隣の40代女性は取材に対し、「体を守ったような傷があったと知り、赤ちゃんをかばおうとしたのではないかと胸が締めつけられた。早く真相が明らかになってほしい」と語った。
妊婦への殺害という事実は、事件の残酷さを一層際立たせている。
過去の警察相談と事件との接点
捜査関係者への取材で、小松本さんが過去に警察へ相談していた事実も判明した。2015年と2017年に、合わせて3回、人間関係のトラブルについて相談していたという。
茨城県警はこの点について「当時の対応は終了している」「個別の内容は明らかにできない」としているが、事件との関連性も含めて慎重に捜査を進めている。
相談歴があったにもかかわらず、今回の事件を防げなかった現実は重い。警察への相談が実効性を持っていたのか、その後のフォロー体制は十分だったのかという問いが残る。
静かな住宅街に広がる不安と未解決の行方
事件後、現場周辺は騒然とした空気に包まれた。取材に応じた住民の多くは「物音は聞かなかった」「警察が来て初めて知った」と話す。人目につきにくい時間帯と場所が、犯行を容易にした可能性もある。
小松本さんは自営業としてネイルサロンを営み、開業は2024年春頃とみられる。スタッフを雇わず1人で店を切り盛りしていた。予約サイトには、ゴルフやドラマ鑑賞を趣味とする記載があり、SNSにはディズニーやスイーツの写真も投稿されていた。そこに映るのは、ごくありふれた日常だった。
茨城県警は殺人事件として捜査員約90人態勢で捜査を続けているが、記事配信時点で犯人は逮捕されていない。年の瀬に起きたこの惨劇は、多くの謎を残したまま新年を越えた。命を奪われた理由は何だったのか。捜査の進展が待たれる。



