
「ルンバ(Roomba)」が事実上の死を迎えた。 12月15日、ロボット掃除機のパイオニアである米iRobot社が連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したのだ。かつて「ロボット掃除機の代名詞」とまで呼ばれた王者は、なぜここまで無残に敗れ去ったのか?
その裏には、欧州規制当局による「最悪のオウンゴール」と、残酷なまでの「技術力格差」があった。
「Amazonによる救済」を邪魔した欧州の古老たち
時計の針を少し戻そう。iRobotの経営危機は今に始まったことではない。2022年、実はAmazonがiRobotを買収し、その強大な資本とネットワークで立て直す計画があった。
しかし、これを全力で阻止したのがEU(欧州連合)の規制当局だ。「Amazonが市場を独占し、競争を阻害する恐れがある」。そんな独禁法違反のレッテルを貼り、難癖をつけ続けた結果、2024年に買収計画は白紙となった。
だが、市場関係者は冷ややかだ。あるITジャーナリストはこう斬り捨てる。
「ルンバは事実上、欧州に潰されたようなものです。ECOVACS ROBOTICS(科沃斯機器人)やBeijing Roborock Technology(北京石頭世紀科技)といった中国勢の台頭と、その圧倒的な性能差を理解できていない規制当局が、Amazonの買収を止めてしまった。あれがルンバに残された最後の命綱だったのでしょう」
「ルンバは凄い」はただの思い込み? 中国勢に完敗した技術力
「それでもルンバにはブランド力がある」というのは、もはや古い信仰に過ぎない。現実を見れば、ルンバは「コストと性能」の両面で、中国メーカーに完敗していたのだ。
ネット上のテック事情通たちは、この残酷な現実をこう指摘する。
「ルンバはすごい、という思い込みは捨てたほうがいい。専用LSI(大規模集積回路)をはじめとした電子機器の設計技術こそが、今のロボット掃除機のコストや付加価値を決める。中国の強さはまさにそこにある」
実際、マッピングの正確さ、障害物回避能力、そして何より製造コストにおいて、中国勢の技術力はiRobotを遥かに凌駕していた。Amazonの傘下に入り、非中国企業として巻き返しを図る道も閉ざされた今、単独での生存競争に勝てるはずもなかったのだ。
市場を守るつもりが「中国一強」をアシスト
そして訪れた、2025年12月の結末。 iRobotの再建スポンサーとして発表されたのは、中国・深センに拠点を置く「Shenzhen PICEA Robotics」だった。全株式を取得し、iRobotは中国企業の完全な支配下に入る。
これぞまさに、最大級の皮肉である。
欧州の規制当局は「巨大テック企業(Amazon)の独占を防ぐ」という正義を掲げて介入した。しかしその結果、弱りきった米国企業を倒産に追い込み、結果としてロボット掃除機市場のほぼ100%を「中国企業が支配する」という状況を作り出してしまったのだ。
「市場を守るつもりが、結果的に『中国一強をアシスト』してしまった最悪のオウンゴール」
ネット上では、このあまりに滑稽な結末に対して呆れ声が止まらない。
現場を知らない規制当局がイノベーションを殺す
iRobotのゲイリー・コーエンCEOは「長期的な将来を確保する上で極めて重要な節目」と強気のコメントを出しているが、創業35年の名門が中国サプライヤーの下請け的存在になることは避けられない。
「イノベーションを殺すのは、いつだって『現場を知らない規制当局』である」
今回のルンバ倒産劇は、現代のビジネス界における悲しき寓話として、長く語り継がれることになるだろう。我々の部屋を掃除してくれるのは、もはやアメリカの開拓者魂ではなく、深センのシリコン魂なのだから。



