
ノートルダム近くの老舗百貨店「BHVマレ」に、中国発ファッションブランドSHEINが常設店を開いた。開店初日、行列と抗議デモが同時に発生。
幼女の外見を模した性的人形や武器が販売されていた疑いで、政府はオンライン販売停止と全数検査を決定した。安さを求める人々と、倫理を訴える声。その狭間にある“超高速消費”の現実を、パリの街角から見つめた。
老舗百貨店の前に二つの列ができた日
11月5日朝、曇り空のパリ・マレ地区。開店を待つ人々の列が、BHVマレ百貨店の入口前に伸びていた。
手にスマートフォンを持ち、SNSで「#SHEINParis」のタグを打つ若者たち。
「物価は上がるのに給料は上がらない。ここならおしゃれができる」と話す女性。
そのすぐ隣では、プラカードを掲げるデモ隊が声を上げていた。「子どもを商品にするな」「倫理を売るな」。
同じ場所にできた二つの列は、世界が抱える矛盾そのもののようだった。
“世界初の常設店”が開いた矛盾の扉
BHVマレ最上階に開いたSHEINの常設店。オンライン専業だった同社が常設店を構えるのは世界で初めてだ。
棚に並ぶのは、千円台のパーカや数百円のアクセサリー。
「この値段なら、写真映えする服をすぐ買える」と学生たちは話す。
しかし、その一方で、出店に反対した複数ブランドが「倫理的に容認できない」として百貨店から撤退した。
老舗百貨店と超高速ファッション。
伝統とスピードが、同じ空間で激しく衝突していた。
幼女風人形・武器・虚偽値引き…当局が動いた理由
SHEINへの反発は一日で収まらなかった。
フランス規制当局は、同社のサイトで幼女の外見を模した性的人形とメリケンサックなどの武器が販売されていたことを確認。
「児童ポルノにあたる疑いがある」として、政府はオンライン販売の一時停止手続きに入った。
さらに税関は、シャルル・ド・ゴール空港に届いたSHEINの荷物約20万個を全数検査。
結果、未承認コスメや模倣品、欠陥電子製品が摘発された。
フランスでは2025年7月にも「虚偽の値引き表示」で約68億円の罰金が科されたばかり。
積み上がる違反と炎上が、今回の強硬対応を後押しした。
それでも人は並ぶ “安さ”が持つ現実的な力
抗議の声が響くなか、レジ前の列は途切れなかった。
「失敗しても安いから」「写真を撮ったら終わり」。
若い世代の多くは、“今だけ”を楽しむための価格としてSHEINを支持する。
物価高騰とSNS文化の融合が、消費をより短命にした。
一度投稿すれば、次の服が欲しくなる。
速さの循環に、誰もが知らぬうちに巻き込まれている。
倫理と経済のはざまで。パリの街が示す問い
夜になって、BHVマレの前は静かになった。
プラカードは足元に置かれ、紙袋の音だけが響く。
ファッションの都パリで問われているのは、「何を買うか」ではなく、「どう選ぶか」だ。安さは正義か。生活防衛か。
SHEINの進出は、社会が抱える倫理と経済のせめぎ合いを可視化した。
その鏡に映っているのは、企業だけではない。
“安い”という言葉を選んだ私たち自身でもある。



