
「図鑑みたいで、ちょっと特別だった」。そんな記憶を胸に、多くの子どもたちが手にしてきた「ジャポニカ学習帳」が、2025年11月に大きく姿を変える。製造元のショウワノート株式会社が発表したのは、55年の歴史の中でも初めてとなる、表紙デザインの全面リニューアル。おなじみだった昆虫や植物の写真から、共生をテーマにしたイラストへ。その決断の背景には、時代とともに変わる学びのかたちと、変わらぬ子どもたちへの願いが込められていた。
あのノートが、変わる。
カブトムシのつややかな背中、花びらに宿る朝露。かつてランドセルの中で、あの緑色のふちどりに包まれた「写真付きのノート」が、いつも子どもたちとともにあった。
1970年に発売された「ジャポニカ学習帳」が、2025年11月、大きな変化を迎える。表紙の写真が廃止され、「共生」をテーマにしたイラストに刷新されるのだ。
ショウワノート株式会社のプレスリリースにはこう記されている。
「これは単なるデザイン変更ではありません。詰め込み教育から発想を育む教育へと移行する今、子どもたちの学びをサポートするための進化です」
55年にわたり累計14億冊以上が販売されたロングセラー文具。その表紙が変わるというニュースに、懐かしさと一抹の寂しさを覚えた人も多いだろう。
だが、今回のリニューアルには、ただの見た目の変化ではない、深い意図が込められている。
写真からイラストへ。「共生編」誕生の背景
新たなシリーズの名は「ジャポニカ学習帳・共生編」。その名の通り、自然界に生きる動植物が互いに支え合って存在する「共生」の概念を、表紙で表現していく。
この共生というテーマは、1978年から長年にわたりジャポニカの写真撮影を手がけてきた写真家・山口進氏の生涯のテーマでもあった。
今回、その思想を引き継ぎつつ、より多くの子どもたちが親しみをもてるよう、イラストという新たな手法が採用された。
表紙イラストは、人気絵本作家ユニットtupera tuperaが全39種を描き下ろし。アートディレクションとデザインは、ハッピーで普遍性のある表現を得意とするデザインチームminnaが担当した。
花に顔がついている。虫が笑っている。そんなユーモラスな世界観の中に、自然と共に生きることの尊さや、生物多様性の大切さが、そっと忍ばせてある。
「真面目なことに親近感を持って伝えられる表紙が実現んできたと感じています。」
(プレスリリースよりminnaのコメント)
教科別カラー、ロゴも一新。使いやすさも進化
デザインの進化は、表紙の絵柄だけにとどまらない。
従来、シンボルカラーとして定着していた緑の枠は、今回のリニューアルで教科ごとに色分けされる。たとえば、国語は赤、算数は青など、直感的に使い分けられるように工夫された。
一方、自由帳や連絡帳では、生命の進化をイメージした「新ジャポニカグリーン=青緑」が採用される。
ロゴもまた、従来のバランスを踏襲しつつ、有機的な曲線を取り入れた「いのち」を感じさせる新デザインに変更。見た目の印象を柔らかくし、イラストとの一体感を持たせている。
変わるのは表紙、変わらないのは「好奇心の入口でありたい」という想い
表紙が変わっても、読み物付録「学習百科」は健在だ。内容はアップデートされるが、子どもたちの「知りたい」が生まれる場所でありたい、という基本姿勢は変わっていない。
tupera tuperaは今回の取り組みについて、こうコメントしている。
「『共生』がテーマということで、これまでには作ったことがない生き物ばかり!点数も多く、どうすれば一つの画面で共生関係が伝わるのか、出来上がるまでには、かなりの試行錯誤が必要でした。」(プレスリリースより)
完成した表紙には、植物と昆虫が共に笑い、風の中で語り合っているような、そんな小さな物語が詰まっている。
記憶の中のノートから、次の世代へ
確かに、写真がなくなると聞いて「ジャポニカらしさが失われる」と感じる人もいるだろう。だが、「子どもたちの好きを大人が決めつけで奪ってほしくない」というデザインチームの姿勢に触れると、見方も変わる。
写真のリアルから、イラストの想像力へ。そこには、これからの学びが目指す方向がはっきりと示されている。
55年を経て生まれ変わる「ジャポニカ学習帳」。その表紙は、単なるノートの顔ではない。子どもたちが自然とふれあい、共に生きることを考える、小さな窓なのだ。