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ドローン企業ACSLの不正、鷲谷前代表が描いた「偽りの契約地図」

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バーター取引とデジタル印鑑、私物化された企業資金の末路

ACSLサイト
コーポレートサイトより

「自分の借金を会社で返済しようとした」。調査報告書の行間から浮かび上がるのは、創業期からACSLを牽引してきたカリスマ経営者・鷲谷聡之氏の苦悩と転落、そして、透明性を欠いた統治体制の脆弱さだった。

 

鷲谷氏が描いた“自治体案件”の虚構

不正の手口は巧妙だった。報告書によれば、鷲谷氏は2023年以降、自身の離婚、証券担保融資の追証、自宅売却などにより逼迫した資金繰りに直面。次第にACSLの資金を私的に活用する“偽装取引”に傾斜していく。とりわけ特徴的だったのが「自治体案件」という名目の活用だった。

元CFOやCOOに対し、鷲谷氏は「自治体との連携事業であり、予算執行上3月末までに支払いが必要」と説明。その根拠となる契約書や発注書、補助金交付の証拠は一切存在しなかったにもかかわらず、そのもっともらしい言葉に、社内は追認の構図に陥っていく。

 

「バーター的スキーム」の全貌

鷲谷氏は、少なくとも3社(B社、C社、D社)との間で計1億5180万円に及ぶ資金をACSLから流出させた。手口は一様ではないが、共通するのは実体のないコンサルティング契約や顧問契約を「前払い」という名目で締結し、会社から資金を送金させる構造だ。送金先には鷲谷氏が設立したペーパーカンパニーや関係先企業が含まれ、返済原資や個人口座への還流が繰り返された。

なかでも印象的なのは、B社とのファクタリング契約に関するやり取りだ。実体のない債権を架空に設定し、それを担保にB社から現金を引き出し、後にコンサルティング契約で「清算」するという二重構造。文面上は公正証書付きの契約だったが、すべてが鷲谷氏一人の頭の中で完結していた。

不正の温床となったガバナンスの盲点

報告書は、これほどまでの不正を可能にした組織の弱点も突きつける。まず、1億円未満の契約は代表取締役の専決事項として扱われており、取締役会の審議を要しなかった点が見逃せない。また、前払い契約に対する審査が形式にとどまり、リスクの評価や相見積もりの取得といった基本が欠落していた。

さらに、内部通報制度の運用も限界があった。社員は「違和感を抱いた」と証言しているが、「自分には止める権限がない」「通報制度はハラスメント専用だと思っていた」との認識が蔓延し、不正を止めるシステムとして機能しなかったという。

 

“創業の功績”の光と影

ACSLは、国内初のレベル3ドローン飛行や防災・インフラ点検向け無人機の実用化で注目を集めてきた企業である。創業期の鷲谷氏は、その先進性と技術ビジョンによって市場を牽引した。だが、「自律制御の専門家」としてのリーダーシップが、個人の資金トラブルにより一転して企業ガバナンスの破綻要因となった。

社外取締役らが突きつけた「再出発の条件」

調査委員会は再発防止策として、以下の提言を明示した。

  • 代表取締役の選任基準に企業倫理や財務健全性の項目を加えた資質評価制度の導入
  • 新規取引・前払契約・代表取締役関与の契約はすべて取締役会での承認を義務化
  • 契約締結前後における多面的な業者調査と取引履歴のモニタリング体制の構築
  • 内部通報制度の機能強化と、社員が違和感を共有しやすい文化の醸成

そのうえで、取締役会に報告された契約金額が実際の支払額と異なっていた事例を挙げ、形式的な報告や承認では不正を防げないと警鐘を鳴らしている。

 

「経営の心臓部に潜んでいた闇」それでも会社は再生できるのか

ACSLは、2025年7月14日にこの調査報告書を公表し、法的措置を含む元代表取締役への対応を進める方針を示した。外形的には財務への直接的影響は限定的とされるが、企業文化や株主との信頼に与えた影響は計り知れない。

鷲谷氏が築いた功績の上に築かれた企業が、再び信頼と自律の翼を取り戻せるのか。次の一手は、現経営陣と社員、そして社会の厳しい目にかかっている。

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ライター:

新聞社・雑誌の記者および編集者を経て現在は現在はフリーライターとして、多方面で活動を展開。 新聞社で培った経験をもとに、時事的な記事執筆を得意とし、多様なテーマを深く掘り下げることを得意とする。

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