
古都奈良は寺社とシカのイメージが先行するが、大和盆地には工作機械、自動車部品、医薬・調剤、小売・物流など多彩な実業が息づく。工作機械世界2位のDMG森精機が5,000億円超で独走し、ウォーターポンプのGMBや地域金融の南都銀行が1,000億円台に並ぶ。一方で伝統工芸を現代化する中川政七商店など多様な顔ぶれも健在。本稿は決算短信・有価証券報告書など一次資料のみを突合し、連結売上高(金融は経常収益)を基準に“県内に本社(登記本店)を置く企業”20社で作成した最新ランキングだ。
20位 中川政七商店〈奈良市〉 売上92億3,000万円〈2025/2〉
名門ポイント:中川政七商店は、享保元年(1716年)創業の麻織物商を源流とする生活雑貨SPAで、企業ビジョン「日本の工芸を元気にする!」を掲げる。2025年2月期の売上高は92億3,000万、従業員数618名。現在は「中川政七商店」「遊 中川」など複数ブランドを展開し、全国に直営約60店を構えるほか、ECや卸売も運営する。産地の職人800社超と共同開発した商品を小売りする一方、2009年からは工芸産地向け経営コンサルを手がけ、工芸再生モデルを外部にも提供。2025年にはロゴを刷新、2030年までに海外旗艦店を開業する計画を発表し、老舗の技術とブランド力を武器にグローバル市場へ進出する成長戦略を描く。
19位 佐藤薬品工業〈橿原市〉 売上144億500万円〈2024/3〉
名門ポイント:錠剤・カプセル製剤を専門とする医薬品ODMメーカー。24年3月期の売上高は144億500万、資本金3億、従業員725名で、売上の約7割を国内外大手からの受託が占める。後発薬需要とアジア輸出が伸長する一方、自社ブランド「さとやく」シリーズも強化し、2031年3月期までに自社品比率50%・売上180億円への拡大を目指す方針を公表済み。二色成形ODFなど付加価値剤形への投資を継続し、受託と自社ブランドの両輪で成長余地を探る。
18位 近鉄ケーブルネットワーク〈生駒市〉 売上147億2,408万円〈2024/12〉
名門ポイント:近鉄グループ傘下でCATV・ISP・MVNOを担う情報通信中核企業。23年末時点の資本金14億8,500万、従業員253名、売上高147億2,408万と堅調に拡大する。光ファイバーは奈良県内全域に張り巡らされ世帯カバー率約9割へ到達し、最大下り1Gbpsの固定回線を中核に据える。さらにWiMAX+5Gを組み込んだ「KCNモバイル」を展開し、MVNO・固定電話・BWAまでワンストップで提供する体制を整備した。自治体と連携したスマートシティ実証やSDGsネットワーク参画を通じ、LPWA/5Gを活用した地域インフラ強化にも注力している。
17位 大和ガス〈大和高田市〉 売上158億5,300万円〈2023/12〉
名門ポイント:大和ガス(大和高田市)は、都市ガス13AとLPガスを合わせて約7.2万戸に供給し、ガス機器販売から導管工事まで一貫で手がける地域密着型エネルギー会社だ。2023年12月期の売上高は158億5,300万に達し過去最高を更新した。導管延長は1,000km規模で需要家数も増加基調にある。2016年には自由化を機に電力小売に参入し、「ベースプランA-G」など複数メニューでガスとのセット販売を推進する。さらにグループ会社の大和エネルギーと連携し、初期投資ゼロのオンサイトPPAを用いた太陽光発電導入支援を展開し、工場や倉庫で実質100%再エネ電力を実現する事例が生まれている。地域電力と分散型電源を組み合わせた「総合エネルギーサービス」への転換を加速する姿勢が特徴だ。
16位 タカトリ〈橿原市〉 売上160億8,200万円〈2024/9 連結〉
名門ポイント:タカトリ(橿原市)は、SiCウエハを高速でスライスするワイヤソー分野で**世界シェア約90%**を握る精密機械メーカーである。2024年9月期の連結売上高は160億8,200万、営業利益27億8,600万と2期連続で高水準を維持した。6インチ機は累計約400台を出荷し、8インチ対応機も上市済みで、切断時間を従来比3割短縮する省人化仕様を採用している。2025年5月には国内企業からSiC切断装置を約4億で受注し、2026年9月期に売上計上予定と発表した。同社は熊本・合志の営業拠点を軸に、半導体新工場の集積が進む九州で技術支援体。
15位 ジェイテクトサーモシステム〈天理市〉 売上177億円〈2023/3〉
名門ポイント:ジェイテクトサーモシステム(天理市)は、工業炉・半導体熱処理炉を専業とするJTEKTグループの中核企業で、2023年3月期売上高177億、従業員601名を計上した。主力はSiCパワー半導体用アニール装置で、国内外の新設ラインに納入実績を重ねる。脱炭素分野ではNEDOの地域水素利活用事業に参画し、水素バーナ式アルミ溶解炉と「つくる・ためる・はこぶ」を一体化したオンサイト水素インフラを開発中で、2026年度までにモデル工場での実証を計画する。水素燃焼によるCO2排出ゼロ加熱を提案し、カーボンニュートラル熱処理ソリューションで新規需要の取り込みを狙う。
14位 関西メディコ〈平群町〉 売上197億7,600万円〈2024/9〉
名門ポイント:関西メディコ(平群町)は、奈良県と京都府南部で保険調剤専門の「サン薬局」を69店運営し、2024年9月期売上高は197億7,600万。全店を自社配送センターから60分圏内に配置し、在宅専任チームが医師や訪問看護と連携して在宅患者を支援する体制を敷く。ほぼ全店舗にクリーンルームを備え、TPNや抗がん剤など無菌調製を要する処方にも対応可能。県内処方箋のおよそ20%を応需し、地域医療インフラの一翼を担う。創立1990年、従業員570名(薬剤師316名)を抱え、日本初とされるクラウド多職種連携システムを導入するなどICT投資にも積極的だ。2030年までに店舗100店体制を目標とし、奈良県社員・シャイン職場づくり最優秀企業など働きやすさの表彰歴も持つ。
13位 奈良交通〈奈良市〉 売上199億9,469万円〈2025/3〉
名門ポイント:奈良交通は1943年、県内バス5社統合で発足した奈良県唯一の総合バス事業者で、2025年3月期売上高は199億9,469万とコロナ前水準を回復した。路線・観光・高速バスに加え空港リムジンを運行し、路線数は179、1日平均輸送人員は約13.2万人に上る。独自IC乗車券「CI-CA」はプリペイド式で車内決済をキャッシュレス化し、チャージ額に応じたプレミア付与で利用を促進する。さらにスマホアプリ「バスもり!」で1日フリーパスをオンライン販売し、経路検索から決済までを一体化したMaaSを展開している。大阪・関西万博への直通バスも計画し、公共交通のハブとして観光回復と地域の移動需要を支える存在感は揺るぎない。
12位 トヨタユナイテッド奈良〈奈良市〉 売上306億円〈2025/3〉
名門ポイント:トヨタユナイテッド奈良(奈良市)は、奈良トヨペットとネッツトヨタ奈良など3社の合併で2023年1月に発足した県内最大級のトヨタ・レクサス併売ディーラーであると同社ニュースリリースは伝える。同社公式サイト「企業概要」によれば、2025年3月期売上高は306億、従業員540名。販売現場ではスマホやPCで見積もりから説明まで完結する「オンライン商談」を導入し、非対面ニーズの高い若年層を取り込む仕組みを整備したと公式サイトの購入相談ページが説明する。また奈良市中登美ヶ丘に県内唯一の体験型拠点「GR Garage CHAUPY」を開設し、モータースポーツイベントやカスタマイズ相談でクルマファン層を開拓していると店舗ページが紹介している。合併によるブランド統合とデジタル接点の強化で地域シェアを高める戦略が鮮明だ。
11位 ホンダネットキンキ〈奈良市〉 売上329億6,000万円〈2024/12〉
名門ポイント:ホンダネットキンキは奈良・京都・和歌山のホンダ四輪・二輪正規販社を束ね、2023年度売上高329億6,000万、従業員590名、拠点57ヶ所を擁する地域最大級のディーラーグループである。2025年4月にホンダネット京奈とスーパーホンダ和歌山が経営統合して発足し、3府県一体運営のスケールメリットを確立、2025年度には新車5,400台販売を目標に掲げた。事業の軸は新車・中古車販売と整備で、グループの中古車部門「シマダオート」では月額定額で全メーカー車を利用できるサブスク「カースク」をいち早く導入し、若年層や短期利用ニーズを開拓している。また車検専門店やカー用品、鈑金工場までグループに抱え、販売後のアフターサービス収益も伸ばしている。
10位 奈良トヨタ〈奈良市〉 売上335億2,087万円〈2024/3〉
名門ポイント:奈良トヨタ(奈良市)はトヨタ系正規販社で、2024年3月期売上高335億2,087万(前期比34.4%増)を計上した。新車販売台数は7,208台と前年同期比25.7%増え、メーカー生産回復と「プリウス」「ヤリスクロス」など人気車種の供給改善が寄与した。各店にオンライン商談ブースとBEV対応整備機材を導入し若手サービスエンジニアの育成を強化する。地域密着策として県内各地でSUV体感試乗会や移動展示会を開催し、顧客接点を拡大。
9位 小山〈奈良市〉 売上367億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:小山(奈良市)は1893年創業、病院向け寝具リースを国内で初めて事業化した業界のパイオニアである。全国71拠点・737人のネットワークを持ち、2025年3月期連結売上高は367億に達した。リースと業務用クリーニングを一貫運営し、リネンの回収・洗濯・配送を循環型で構築する。近年は自社開発のクラウド在庫管理システムを病院向けに提供し、タブレット入力と連動してリネンや日用品の使用量をリアルタイムで可視化、欠品・過剰在庫を抑制している。厚生省基準寝具業務認可第1号の実績を背景に、高温洗浄や個別包装などの品質管理で医療機関の感染対策を支援し、IT活用と衛生ノウハウを両輪に省人化ニーズへ応える体制を強化している。
8位 ボトルワールドOK〈奈良市〉 売上405億2,743万円〈2022/12〉
名門ポイント:ボトルワールドOK(奈良市)は酒類ディスカウント店「ボトルワールドOK」と業務スーパーFCを併営し、酒と食品を一体で提供する小売チェーンである。2022年12月期の売上高は405億2,743万、資本金1,000万、従業員は社員173名・PA1,510名。奈良・大阪・兵庫を中心に38店を展開し、「お酒のことなら何でもOK」を掲げる同社にはソムリエ31名や利き酒師84名など酒類有資格者が多数在籍し、専門知識を活かした接客でリピーターを獲得する。近年は九州へも進出しており、2023年に福岡市南区と八女市に新店舗を開業して商圏を広げた。酒類と生鮮・惣菜を組み合わせた“ワンストップ”業態と、地区集中出店による物流効率化を武器に、近畿発のローカルチェーンから広域展開型企業へと成長軌道を描いている。
7位 ヒラノテクシード〈大和郡山市〉 売上483億5,500万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:ヒラノテクシード(大和郡山市)はリチウムイオン電池用電極塗工装置で世界トップクラスのシェアを握るコーティング機械メーカーだ。2025年3月期連結売上高は483億5,500万と過去最高を更新し、売上の6割超を占めるエネルギー分野が牽引した。塗工ラインはスロットダイ方式を採用し、高速・両面同時塗工など多様なニーズに応え、電池大手から厚い支持を得ている。北米では需要急増に備え、ジョージア州ノークロスに新工場を開設して2024年下期から稼働を開始し、現地メンテナンスと付帯工事を一体提供する体制を構築した。塗工装置とアフターサービスを組み合わせた“ターンキー”型ビジネスでEVセルメーカーの旺盛な投資を取り込み、グローバル展開を加速している。
6位 フジトランスポート〈奈良市〉 売上590億円〈2024/6 連結〉
名門ポイント:フジトランスポート(奈良市)は、グループ売上高590億〈2024年6月期〉、大型トラック約3,000台、従業員3,300名、全国140事業所を擁する総合物流企業である。全国幹線輸送を軸に、食品・医薬・精密機器向けの温度管理輸送で差別化を図る。成田支店では高規格大型空調車や医薬専用冷凍車を投入し、GDP対応の医薬品輸送サービスを強化している。九州コールド支店も-25℃〜+25℃の庫内温度を維持する冷凍・冷蔵特化便を運行し、精密機器や医薬品の需要を取り込む。さらに、冷凍スワップボディを活用した中継輸送実証にも参画し、長距離定温輸送の効率化とCO₂削減に挑む。グループは2035年に車両5,000台・売上1,000億を掲げる中期計画を公表しており、高付加価値物流で成長を目指す。
5位 村本建設〈奈良市〉 売上659億円〈2024/5〉
名門ポイント:村本建設(奈良市)は1908年創業の総合建設会社で、2024年5月期の売上高は659億と過去最高を更新した。受注の約6割を官庁工事が占めつつ、物流倉庫やマルチテナント型施設「DPL前橋」など民間倉庫案件でも実績を重ね、倉庫・工場分野の施工事例を多数公開している。土木では福岡県の「小郡鳥栖南スマートインターチェンジ」など高速道路関連インフラを手がけ、地域物流網の整備にも寄与している。近年はBIMと点群データを重畳表示する遠隔施工管理ソリューションを導入し、現場進捗の可視化と工程短縮を図るDXを推進する。官庁・民間いずれの領域でもBIM活用による生産性向上を強みに、物流施設と公共インフラの二軸で受注を伸ばす成長基盤を築いた。
4位 ツバキ・ナカシマ〈葛城市〉 売上759億2,100万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:ツバキ・ナカシマ(葛城市)は、2024年12月期に連結売上高759億2,100万を計上した精密ベアリング球の世界首位メーカーである。ナノメートル級の球面加工技術と世界12か国・22工場の生産網を武器に、精密ボールで世界シェアNo.1を維持する。主力の鋼球に加え、絶縁性と軽量性を持つ窒化ケイ素セラミックボールを開発し、EV駆動モーター用ハイブリッドベアリングや宇宙機器向け高耐久部品として採用が広がる。環境負荷低減と高効率化を求める次世代産業の需要を取り込み、精密球の「コメ」として産業基盤を支える存在感を強めている。
3位 南都銀行〈奈良市〉 経常収益1,030億8,500万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:貸出金残高4兆4,932億を擁する奈良県地盤の地域金融グループ。スマホQR決済「Bank Pay」対応や電子決済等代行業者向けオープンAPI公開など、デジタル戦略を強化している。南都銀行(奈良市)は1934年創立の地方銀行で、2025年3月期の連結経常収益は1,030億8,500万と前期比20.2%増となった。企業向け貸出や住宅ローンの伸長により貸出金は期中2,987億円増加し、期末残高は4兆4,932億円。預金残高は5兆8,800億円で県内トップクラスを維持している。キャッシュレス領域では、口座直結型QR決済「Bank Pay」を通じて全国加盟店での支払い、税公金納付、ことら送金などを24時間提供し、チャージ不要の利便性を訴求している。あわせて銀行法改正に基づき公開したオープンAPIで電子決済等代行業者との連携を進め、外部サービスとのシームレスな接続基盤を整備。伝統的な地域密着型営業とデジタルサービスの融合でリテール基盤の深化を図る姿勢が際立つ。
2位 GMB〈三郷町〉 売上1,037億1,200万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:GMB(本社・奈良県三郷町)はウォーターポンプやベアリングを手がける独立系自動車部品メーカーで、2025年3月期に連結売上1,037億1,200万(前期比7.7%増)と初めて1,000億円の大台を突破した。売上の約9割を海外が占め、地域別ではアジア60.0%・北米13.9%など海外売上高比率90.8%に達する。主力の機械式ウォーターポンプに加え、EV向け電動ウォーターポンプと統合熱管理モジュールの受注が伸長し、韓国・中国を中心に冷却装置部品の売上が増加した。2025年3月期には米国テネシー工場が本格稼働し、さらにインド・チェンナイ新工場の立ち上げで現地調達ニーズに対応すると中期経営計画で表明している。EVの熱マネジメント需要を取り込み、成長シナリオを描く。
1位 DMG森精機〈大和郡山市〉 売上5,409億円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:DMG森精機(大和郡山市)は、ドイツDMGと統合した世界シェア2位の総合工作機械メーカーである。2024年12月期連結売上収益は5,409億(前年同期比0.3%増)。受注残は2,180億で収益の安定度を高めている。5軸複合加工機と金属3Dプリンタ「LASERTEC」シリーズを軸に、EV・航空機などGX領域の軽量精密部品を一貫加工する体制を敷き、積層造形の量産適用も進める。2021年1月には全世界拠点をカーボンニュートラル化し、再エネ電力とオフセットで実質CO₂排出ゼロ運営を継続する。経営計画では2030年に売上8,000億を掲げ、北米・欧州工場拡張で需要を取り込む方針だ。
総評
奈良県の産業構造は「精密加工+自動車部品+建設・物流+地域インフラ」が四層で重なり合う。トップのDMG森精機がグローバル競争を牽引し、GMBやツバキ・ナカシマはEV・半導体ニーズをつかむ。中堅のフジトランスポートや村本建設はDXと低炭素化を武器に高付加価値化を進め、生活密着型の奈良交通や関西メディコはMaaSと在宅医療でサービス高度化を図る。2025年度も脱炭素投資とデジタル化が共通テーマとなり、世界市場と地域社会の双方で存在感を高める動きが続くだろう。