
YouTubeが「急上昇」ページの廃止を発表した。代わりに「YouTubeチャート」やカテゴリー別の人気コンテンツ紹介に切り替えるという。動画視聴が個人最適化されるなか、誰かと同じものを同時に観るという“共有体験”は、静かに終わりを迎えつつある。いま私たちは、本当に「自由に観ている」のだろうか──。
「急上昇」ページ、役目を終える
YouTubeは2024年7月11日、「急上昇」ページを数週間以内に廃止する方針を発表した。代替として、「YouTubeチャート」ページにコンテンツを移行し、「急上昇ミュージックビデオ」「ポッドキャスト番組ウィークリーランキング」「話題の映画予告編」などのランキングを公開していくという。
「急上昇」ページは、カテゴリを横断して人気動画を一覧表示する機能だった。過去には、話題の芸人ネタや政治的な発言、炎上動画などが一気に可視化される場として、多くの注目を集めていた。
しかし、YouTubeによれば、ここ数年でユーザーの視聴スタイルは大きく変化。ショート動画やパーソナライズされたおすすめ動画を通じて、各自が自然にトレンドを把握するようになり、「急上昇」へのアクセス数は大幅に減少していたという。
分断するトレンド、“マイクロ化”する人気
今回の廃止にあたって、YouTubeは次のように指摘している。
「現在のトレンドは、多くのファン層によって作成される多数の動画で構成され、さまざまなコミュニティが楽しむ“マイクロトレンド”がかつてなく増えている」(公式発表より)
つまり、人気の指標が「全体」ではなく「部分」に移行しているということだ。
一部のユーザーの間で爆発的に共有されるコンテンツは増えているが、それが他の層にはまったく届かないまま、別の“世界”が並行して存在している。SNSやショート動画での視聴傾向が強まる中、“バズる”とは「全員が観る」ではなく「特定の集団で盛り上がる」現象になった。
その中で、「急上昇」は役目を終えた。
おすすめ動画の最適化がもたらす副作用
YouTubeでは、ユーザーの検索履歴・視聴傾向をもとに、おすすめ動画が自動表示される仕組みが強化されている。便利な反面、「似たようなジャンルばかりが表示される」「他の意見や関心に出会いづらくなる」といったユーザーの声も存在する。
事実、今回の発表に対する読者コメントでは、「思考が偏ってしまう」「関心のあることしか表示されないのは怖い」といった懸念が複数寄せられている。
アルゴリズムによる推薦は、情報収集の効率を高めるが、その裏で視野を狭め、偶然の発見や他者の価値観に出会う機会を奪ってしまう可能性がある。“見たいものだけを見る”環境は、便利である一方で、自分の内側に閉じこもる構造でもある。
新しい「人気」はどこに現れるのか
今後、YouTubeの「人気コンテンツ」はどう示されるのか。発表によれば、ミュージック、ポッドキャスト、映画予告などのチャートは「YouTubeチャート」ページでまとめられ、ゲーム関連動画の人気動向は「探索」メニュー内の「Gaming」カテゴリで紹介されるという。
ただし、これらの情報は、明示的に“探しに行く”必要がある。従来の「急上昇」ページのように、自然と目に入る一覧性は失われたままだ。
YouTubeは、「パーソナライズされたおすすめ動画の中に、人気コンテンツを組み込む工夫も続ける」としているが、それでも情報の“見える化”には限界がある。
“あなたの画面”だけが、世界じゃない
「急上昇」がなくなることで、何が失われるのか。それは、「みんなが同じものを観ている」という感覚かもしれない。
もちろん、かつてのようにテレビの前で全員が同じ番組を観る時代ではない。それでも、誰かと感動や怒りを共有する“視聴の場”は、情報社会における共感の基盤になっていた。
YouTubeの変化は、ただの機能変更ではない。情報の構造が、より個人化され、より分断されていくことの象徴でもある。私たちは今、何を観て、何を見逃しているのか──。