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クラフトンがADKを約750億円で買収 日韓コンテンツ連携の新局面へ

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KRAFTONがADKを買収

韓国の大手ゲーム会社クラフトン(KRAFTON Inc.)は6月24日、日本の広告・アニメ制作大手であるADKホールディングスを約750億円(5億1,621万ドル)で買収することで合意したと発表した。取得対象は、ADKの親会社の全株式で、これを米投資ファンドのベインキャピタル・ジャパンから取得する。買収後、ADKはクラフトン傘下で事業を継続する。

クラフトンは『PUBG: BATTLEGROUNDS』を世界的ヒットに育てたゲーム企業で、グローバル展開力と技術力を持つ。一方のADKは『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『遊戯王』など、日本を代表するアニメ作品の制作や海外展開を手がけてきた。今回の買収によって、両社の強みを掛け合わせたクロスメディア戦略が加速する見通しだ。

 

日本のアニメ業界、外資マネーの本格流入

今回の買収は、韓国資本による日本コンテンツ業界の中核企業取得という点で、象徴的な意味合いを持つ。これまでにも韓国企業が日本の音楽・ドラマ配信会社と提携する事例はあったが、ADKのような広告・アニメ制作を一体で手がける企業を買収するのは異例だ。

背景には、日本のアニメ制作会社の多くが請負中心で利益率が低く、海外展開にも課題を抱えてきた現実がある。IPを自社で保有できない構造や、広告依存の収益モデルが限界を迎えつつある中で、外資の資本とマーケティング力を求める動きは加速している。

今回の買収は、こうした日本業界の構造的課題に対する“外資による応答”と見ることもできる。

 

ゲームとアニメ、収益多層化の新戦略へ

クラフトンは声明で、「ADKが持つアニメの企画・制作力と、当社のグローバルなゲーム開発・サービスの経験を組み合わせ、これまでにない新たな付加価値を生み出す」と述べている。

実際、近年の日本では『ウマ娘』『Fate/Grand Order』『原神』など、ゲームとアニメのクロス展開によってIPの寿命と収益力を最大化するビジネスモデルが定着しつつある。ADKもこれまで『遊戯王』シリーズなどで、メディアミックス戦略を成功させてきた実績がある。

クラフトンのキム・チャンハンCEOは、「ゲームとアニメーションのさまざまな接点を継続的に発見し、両社の強みを有機的に組み合わせていく」と述べており、今後はアニメ原作のゲーム開発や、ゲームIPのアニメ化といった新たな展開も期待される。

 

クラフトンの中長期戦略と買収の整合性

クラフトンは2023年以降、「ストーリーテリングに強いIPの構築」を中期的な戦略の中心に据えており、既に映像制作やメタバース領域への投資も強化してきた。特に『The Callisto Protocol』の開発など、ゲームそのものを映画的な文脈で展開する試みも進めている。

今回のADK買収も、こうした文脈の延長線上にある。ADKの広告・映像制作機能を取り込むことで、日本市場におけるブランド構築やIP訴求の面でも相乗効果が期待される。クラフトンは「日本のコンテンツ事業全体に範囲を広げる」と明言しており、広告、アニメ、ゲームを融合した一体的なグローバル戦略の始動といえる。

 

ベインキャピタルの投資回収と“オルツ問題”の影

ADKを売却した米ベインキャピタルは、2017年にADK(旧・アサツー ディ・ケイ)をMBOにより非上場化して以来、広告収益構造の見直しと経営再編を進めてきた。7年越しの投資回収フェーズとして、今回のクラフトンへの売却は一見「順当な出口戦略」にも見える。

しかし、近年ADKを取り巻く動きには不透明さも漂っている。とりわけ問題視されているのが、AI議事録ツール「AI GIJIROKU」を展開するオルツ社との関係だ。

2024年以降、ADKはオルツと共に、ADKのCEOの“AI分身”を生成するプロジェクトを始動。実際に2024年春の入社式では、このAI-CEOが新入社員125人にパーソナライズメッセージを送る演出が行われた。

一方その裏で、オルツの売上水増し疑惑にADKの名が浮上した。6月に実業家の田端信太郎氏がYouTubeで暴露した内容によれば、オルツは広告宣伝費1.2億円をADKに発注し、ADKはそのうち1.1億円を販売代理店であるジークスに流した。ジークスはさらにその1.0億円で、オルツのSaaSをまとめて購入する構図で、広告費がそのまま売上に転化していたとされる。

 

田端氏はこれを「典型的な循環取引」「粉飾決算の疑い」と指摘。実際、オルツの開示資料によれば売上高に対する広告宣伝費はピーク時で103%、直近でも92%に達しており、売上の約6割が販売パートナー経由、そのうち過半がジークスを通じたものだという。

このスキームが事実であれば、ADKは取引の中継点に位置し、実質的に粉飾の“共犯者”であった疑いも拭えない。広告代理店としての業務の範疇を超えた「売上転換装置」として機能していたのではないか、という厳しい目も向けられている。

クラフトンへの売却がこうした“影”からの距離を取る意味を含んでいたのか、それともあくまで収益最大化の出口戦略だったのか。いずれにせよ、ADKが関与したとされる循環取引スキームは、同社とその親会社ベインキャピタルに対する評価に少なからぬ影響を与えるだろう。

 

次世代コンテンツ競争の火蓋、日韓で切られる

クラフトンによるADK買収は、単なるM&Aにとどまらず、日本の伝統的なコンテンツ制作企業が、グローバル競争下でいかに再定義されるかという挑戦でもある。広告とアニメという“日本の強み”を、ゲームという“韓国の武器”と結びつける今回の動きは、アジア全体のコンテンツ産業の未来像にも影響を与えそうだ。

両社がどこまで「独自性を保ちつつ連携」できるか。日本のアニメ業界にとって、これはひとつの転換点となる。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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