
九州全域を束ねる「ハブ経済圏」の中枢、福岡県。電力・都市ガスなどインフラ事業から、高付加価値SUVや半導体搬送ロボを世界へ送り出す製造業、ディスカウントドラッグやデータ活用型スーパーなど生活密着型流通まで、多彩な産業が並び立つ。
本稿では決算短信・有価証券報告書など一次資料を突合し、売上(銀行は経常収益)順に並べた2025年版「福岡県有名企業売上高ランキング」をお届けする。エネルギーのGX、製造業のDX、そして旺盛なインバウンド需要など変貌する県内ビジネスの座標軸を読み解く。
20 位 ナフコ〈北九州市〉 売上 1,811 億円〈2025/3〉
名門ポイント:北九州発祥のホームセンター大手。店舗数360のうち、ホームセンター単独207店+21スタイル単独店16店+家具併設137店の「生活ワンストップ」業態を全国展開し九州シェア首位を固める。
19 位 ワールドホールディングス〈北九州市〉 売上 2,422 億円 (連結)〈2024/12〉
名門ポイント:半導体・電機など製造業向けの請負・派遣を主軸に、マンション開発からユニットハウス販売まで手掛ける不動産事業、全国22カ所の農業公園運営を組み合わせ、雇用創出と地域再生を両立する独自の多角経営を貫く。ESG視点で再生可能エネルギー導入や自然教育にも注力し、農業テーマパーク拡充も進む。
18 位 西部ガスホールディングス〈福岡市〉 売上 2,544 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:九州北部と山口を商圏に都市ガス約113万戸(2024年3月末)へ供給。北九州市若松区のひびきLNG基地能力増強で調達競争力を強化しつつ、再エネ電源取扱量20kW(2030年度目標)のPPAと賃貸・分譲マンション事業を伸ばす。非ガス事業を強化し、年間配当70円の安定還元を続ける。
17 位 小野建〈北九州市〉 売上 2,719 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:鉄鋼建材の専門商社。全国40超の営業・センター網で常時25万t在庫を即納する。切断・穴開け対応のレーザ加工機100台を2027年度までに配備し、加工売上比率を50%へ引き上げる方針。山口、佐賀の新倉庫兼加工センターは輸送距離を短縮しCO₂排出も削減、脱炭素型拠点整備を加速し、M&Aによる商圏拡大も併進。
16 位 日産車体九州〈苅田町〉 売上 3,505 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:日産・インフィニティ向け大型SUV専業工場。新型QX80投入で増収、14.7万台を生産。EV対応ラインを増設し、海外輸出比率8割を維持する。
15 位 西日本鉄道〈福岡市〉 売上 4,434 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:バス・鉄道に物流・不動産を束ねる九州最大の民営総合交通体。天神ビッグバンの中核「ONE FUKUOKA BLDG.」が4月開業し賃貸収入が伸長。JR九州などとMaaSアプリ「my route」を九州全県へ展開し、乗車券や観光チケットのデジタル販売を強化する。国際物流やホテル事業も収益柱に据え、福岡空港滑走路増設によるインバウンド需要取り込みを図る。
14 位 九州旅客鉄道〈福岡市〉 売上 4,543 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:観光列車「36ぷらす3」などD&S列車の誘客と、博多・鹿児島中央駅の駅ビル再開発が収益を押上げ。2025年3月期の連結営業収益4,543億円のうち鉄道外事業が約63%を占有。不動産・ホテル部門売上1,434億円、ホテル事業は322億円へ127%増で稼働率83%、インバウンド比率5割。営業利益589億円(25%増)と非鉄道利益が4割超を支え、多角化戦略が奏功。
13 位 ふくおかフィナンシャルグループ〈福岡市〉 経常収益 4,557 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:25年3月期連結経常収益4,557億円、経常利益1,035億円と2期連続過去最高。福岡・十八親和・熊本・福岡中央の4地銀を束ねる持株体で総資産32兆円規模。スマホ専業「みんなの銀行」とiBankマーケの資産管理アプリ『Wallet+』がZ世代の口座開設を牽引し、資金運用収益が伸長。FFG VCを通じ地域スタートアップ投資も加速し、地方創生とESG連携融資を拡大。
12 位 九電工〈福岡市〉 売上 4,690 億円(連結)〈2024/3〉
名門ポイント:都市再開発や半導体新工場向け大型案件の進捗で仕掛工事残高が過去最大となり、営業利益率8.9%増に。再エネ分野では浮体式を含むメガソーラーEPCで脱炭素案件を伸ばし、受注高も前年比2.6%増の4,521億円。連結従業員数1万0,876人が技術力で安定品質を支える。
11 位 イオン九州〈福岡市〉 売上 5,316 億円(連結)〈2025/2〉
名門ポイント:九州・山口にGMS、SM、DS計330超店の多業態網を展開し、セルフレジ・電子棚札拡大。共同配送拠点「福岡XD」で総走行距離20%削減をめざし物流脱炭素を推進、ネットスーパー当日配送も拡充しDXを深耕。食品ロス削減、省エネ投資と森づくり活動も展開。
10 位 安川電機〈北九州市〉 売上 5,376 億円(連結)〈2025/2〉
名門ポイント:サーボモータ、インバータ、産業用ロボット等の製造販売会社。自動化、省力化、EV化の流れを受け、ロボット事業が拡大基調。海外の成長市場の需要で海外売り上げ比率向上。北九州本社発の自動化技術を支える連結従業員 1 万 3,010 人。為替感応度の低減と原価改善を進め、サーボ・インバータ・ロボを統合した「i³-Mechatronics」で受注を底上げ。
9 位 山九〈福岡市〉 売上 5,635 億円(連結)〈2024/3〉
名門ポイント:港湾荷役・倉庫とプラント建設・保全を一体で請け負う独自モデルを武器に、国内外に拠点を持つ。AI遠隔診断とドローン点検で稼働率を高め、生産ラインのCO₂削減にも寄与。サウジSATORP製油所日常保全7年契約、オマーンOQ8ドゥクム製油所6年一括請負など中東大型メンテ受注が収益基盤を厚くする。
8 位 トライアルホールディングス〈福岡市〉 売上 7,179 億円(連結)〈2024/6〉
名門ポイント:2024年6月期連結売上高7,179億円で24期連続増収、店舗数318。AIカメラ搭載のスキップカートを223店に導入しレジ待ち時間を4分の1へ短縮。2025年3月、西友を完全子会社化し関東基盤を取り込み連結売上1兆円超体制を目指し、更にスマカート外販も進む。
7 位 TOTO〈北九州市〉 売上 7,244 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:ウォシュレット世界シェア4割。衛生陶器新工場をベトナム第4に続きタイ・メキシコで稼働、北中米・ASEAN向け供給力を拡大。温水洗浄便座「ウォシュレット」は累計6,000万台突破で世界シェア首位を維持。
6 位 コカ・コーラボトラーズジャパンHD〈福岡市〉 売上 8,927 億円(連結)〈2024/12〉
名門ポイント:九州・西日本の主力工場で高速PETラインを増設。海老名工場に1分900本の無菌PET新ラインを増設し小型PET需要を獲得。埼玉・明石メガDCと車両予約システム導入で荷待ち時間半減、トラック積込を70%短縮。物流効率化と再投資でCO₂排出削減を掲げ、九州鳥栖・灘尾両工場の高速PETライン刷新も進行中。
5 位 コスモス薬品〈福岡市〉 売上 9,649 億円(連結)〈2024/5〉
名門ポイント: 33期連続増収・増益を達成。ドラッグストア「コスモス」を全国1,596店に拡大し、1店平均1,000人を集客。ポイント販促を排したEDLP(毎日低価格)とPB拡充で買い回りを促進し、日本版顧客満足度指数でも14年連続1位を維持する。
4 位 ヤマエグループホールディングス〈福岡市〉 売上 1 兆 69 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:食品卸を軸に住宅・飼料へ多角化し、M&Aで国内外グループ拡大。九州~関西へ張り巡らせた低温物流網を武器に、台湾子会社設立や米豪向け輸出で海外比率を高め、2030年度ROIC5%を掲げる総合流通グループへ進化中。
3 位 パナソニックコネクト〈福岡市〉 売上 1 兆 3,332 億円(連結)〈2024/3〉
名門ポイント:福岡本店を持つB2Bソリューション中核で、現場プロセスDX機器と米Blue YonderのSCMソフトが伸長。羽田空港の非接触指紋認証実証や顔認証ゲート導入など公共安全案件を拡大。物流向けAIネットワークカメラや製造ライン可視化サービスも提供し、顧客の現場効率を底上げ、市場浸透を加速する。
2 位 トヨタ自動車九州〈宮若市〉 売上 1 兆 5,054 億円(連結)〈2024/3〉
名門ポイント:レクサス「RX」「NX」など高級SUVとHVユニットを一貫生産する国内マザー工場。2024年3月期売上1兆5,054億円で前期比35%増、車両41.9万台・ハイブリッドトランスアクスル68.6万基を製造し過去最高を更新。北米・中東など80超の国へ輸出し半導体逼迫を克服。従業員約1.1万人がTPSで高品質を維持し、2026年EVライン導入も進行中。
1 位 九州電力〈福岡市〉 売上 2 兆 3,568 億円(連結)〈2025/3〉
名門ポイント:猛暑・寒波需要が追い風。九州本土の再エネ出力制御率は24年度6.1%。送配電網高度化へ25〜35年度2.5兆円投資を掲げ、九州7県の脱炭素と需給安定を両立。家庭向けDR実証でAI需給予測を磨き、火力起動コストを抑えグリッドDXを推進、余剰再エネの広域融通も進める。
総評
福岡県の産業構造は、エネルギー・自動車・流通・機械電子・金融を五本柱として多層的に組み上がっている。九州電力が再エネと電力安定供給を担い、トヨタ自動車九州は高付加価値 SUV とハイブリッドユニットで輸出を牽引。食品・卸売ではヤマエグループが M&A で規模を一挙に拡大し、ディスカウント勢のトライアルとコスモス薬品が生活防衛ニーズを取り込み成長を維持する。北九州勢のTOTOと安川電機は世界市場に直結した技術開発で県外マネーを呼び込み、設備工事の九電工は半導体新工場や再エネ EPC 受注で需要を取り込む。
各社共通のキーワードは GX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション) だ。エネルギー企業は再エネと送配電網の高度化に、流通企業は AI レジ・需要予測に、製造業はロボティクスとデータ活用に資本を投じる。加えて、インバウンド回復を追い風に観光・不動産が利益源として存在感を強め、銀行グループはスタートアップ投資と域外手数料で収益多角化を急ぐ。
2025 年度は、人手不足と資材高を背景に 省人化投資とサプライチェーン再構築 が加速する見通しだ。人口流入が続く福岡都市圏を中心に、域内消費と海外需要を同時に取り込める地理的優位性を活かしつつ、脱炭素とデジタル技術を武器にした競争力強化が各社の命題となる。